ART-SCHOOL@SHIBUYA O-EAST

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いつも通りのシンプルな舞台セット、いつも通りの生き急ぐかのようなライブ展開、いつも通りに曲間で静まり返るフロア、そして、いつも通りの木下理樹のぎこちないMCと、それをくすくす笑いながら受け止めるオーディエンス――。ART-SCHOOLの結成10周年を祝う全国ツアーのファイナルは、そんなたくさんの「いつも通り」で構築されたライブだった。10周年を華々しく祝うようなスペシャルな演出は、一切なし。2度のアンコールを含めて全32曲というロング・セットも、彼らにしてはそう珍しいことではない。……が、だからと言って「面白味」や「新鮮味」に欠けていたかと言うと、そうではない。逆にいつも通りのライブだからこそ、ART-SCHOOLが10年かけて突き詰めてきたバンドの真髄がハッキリと浮かび上がってくるライブだった。そして、それを共に創り上げてきた共犯者=オーディエンスとの親密な関係が、より強固に結ばれた至福の一夜でもあった。

もはやお馴染みのエイフェックス・ツイン“Girl/Boy Song”のSEに迎えられて登場したメンバー。オープニングを飾ったのは、最新ミニアルバムに収録されている“Anesthesia”。一昨年から新ドラマーとしてバンドを支えている鈴木が叩き出す筋肉質なピートに乗せて、突き刺すようなギター・リフが次々と放たれていく。さらに“水の中のナイフ”“スカーレット”などファンお馴染みの骨太なナンバー続くと、フロアから拳が上がりはじめる。これまでにないカラフルな色彩とポップな広がりをもった“Anesthesia”と、グランジ直系のヘヴィーなサウンドがブチかまされる過去の曲。一見するとまったく風合いの異なる曲だが、闇と光が絡みあうような甘美な背徳感をたたえているところは、どちらも一緒。その変わらぬ「アートらしさ」がフロアに一体感をもたらし、オーディエンスの興奮を呼び覚ましていく。

さらに中盤では“アイリス”“サッドマシーン”などの攻撃的なナンバーから、“影”“フラジャイル”などの浮遊感あるナンバーまで、10年間のキャリアを総括するような新旧織り交ぜたセットリストが展開される。こうして並べて聴くと改めて気づかされるのは、どの曲にも生まれたての瑞々しさと、デビュー間もないバンドのような衝動が宿っていることだ。デビュー当初からさまざまな紆余曲折を経てここまで突き進んできたART-SCHOOL。その激動の歴史を思い起こすと胸が痛むが、そういった苦しみがあったからこそ、負のエネルギーを音に変えた激しく鋭利なロックンロールを放つことができたのも、また事実だ。吐き出すように発せられる理樹のボーカル、悲鳴のようにうねる戸高のギター、聴く者を駆り立てる宇野と鈴木のタイトなビート。それらが爆発してははかなく散っていくたびに、その順風満帆とは言えないバンドの足跡が走馬灯のように浮かんできて胸が熱くなった。

10曲目までは曲を終えて時折「ありがとう」と呟く以外、理樹のMCは一切なし。フロアから歓声が上がることもほとんどなく、直接的な言葉を必要としないぐらい、心の奥深くでコネクトしたような濃密なコミュニケーションが築かれていく。しかし余りにもフロアがシーンとしているからか、「別に緊張感を醸し出しているわけじゃないんで自由に楽しんでください」と理樹が述べたあとは、次第に和やかなムードに。戸高や宇野も口を開いて、ぎこちないトークを繰り広げていく。
その内容を大まかに箇条書きにすると……。
・ 「今日はこの人(理樹)、関西弁でMCするそうです」という戸高の振りを受けて、理樹が宇野の発言に「オモロないねん!」と突っ込む。
・ 理樹が現在いたくハマっているゲームのモンスターハンターに対する思いを、「僕が求めてきたロマン、友情、努力のすべてがモンハンにあったんですよ」と熱っぽく語りだす。
・ 理樹が宇野に「MCハマーダンス得意でしょ?」とけしかけて踊らせる。しまいには理樹も一緒になって踊りだす。
……といった感じでした。
そのシュールなやり取りにフロアから苦笑いが起こり続けたのは言わずもがな。しかしこれも、アートのライブに欠かせないバンドとオーディエンスの濃密なコミュニケーションのひとつである。

「ここから静かめの曲が続きます」として“Lily”“Loved”などのスロウ・ナンバーをじっくりプレイした後は、“MISS WORLD”“あと10秒で”など必殺のアンセムを畳み掛けて怒涛のクライマックスへ! ここまで来るとライブ序盤は前方でしか上がらなかった拳がフロア全体を席巻し、一気に熱気を高めていく。その熱狂は本編ラスト“FADE TO BLACK”を終えても収まることなく、アンコールでさらに高みへ。“I hate myself”“BOY MEETS GIRL”“ロリータ キルズ ミー”の3連打で臨界点へ上り詰めると、“車輪の下”で大爆発! フィードバックノイズを響かせ、なんと理樹がフロアにダイブ! 悲鳴のような歓声に包まれるフロア!!……と、この日一番の祝祭空間を描き出して2時間半弱に及んだライブは大団円を迎えた。

さらに続いたダブル・アンコール。全てを出し切ったような表情でステージに戻ってきた理樹は、曲に入る前にこう語った。「今夜も家に帰って『世の中クソだ!』と言いながらビールを飲んで寝るんだろうなあ。そして、これからもそう言いながら生きていくんだろうなあ。でも、世の中そういうものだと思うし、僕はそういう目線で生きていきたいと思います」。その静かなる決意表明を受け継ぐかのように、大ラスで鳴らされたのは“しとやかな獣”。そのしなやかで美しいサウンドスケープに、テコでも折れない彼らのぶっとい意志が透けて見えた、感動的なクライマックスだった。(齋藤美穂)

セットリスト
1. Anesthesia
2. 水の中のナイフ
3. スカーレット
4. SIVA
5. NEGATIVE
6. ガラスの墓標
7. アイリス
8. DIVA
9. サッドマシーン
10. BLACK SUNSHINE
11. 影
12. イディオット
13. FLOWERS
14. フラジャイル
15. Butterfly Kiss
16. Lily
17. 僕が君だったら
18. LOST AGAIN
19. into the void
20. Loved
21. ecole
22. MISS WORLD
23. あと10秒で
24. OUTSIDER
25. UNDER MY SKIN
26. FADE TO BLACK
アンコール1
27. I hate myself
28. BOY MEETS GIRL
29. ロリータ キルズ ミー
30. 車輪の下
アンコール2
31. フィオナアップルガール
32. しとやかな獣
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