「16日なんて、もうお正月気分じゃないかも知れないけど、今年一発目の東京ライブということで、一同、一同、チンチンがちっちゃくなっちゃっております。まあ人が一杯いてみんなも大変だと思うけど、テキトーにうまくやってください。具合悪くなったらほら、ステージ広いから。ここでマグロもオッケー。じゃあ、新春シャンションショーは美○明宏に任せて、ロックンロール・ナンバー、聴いてくれーい」。
ちゃんと言えてない上に「新春シャンソンショー」は美○さんの専売特許でもないと思うのだが、序盤からそんな感じのはる名調子MCが飛び出して笑い声が立ち込める渋谷クラブクアトロ。Theピーズのツアー『新春ワンマン東名阪仙』は名古屋、大阪の各公演を経て、今回レポートする東京公演を迎えていた。満場の喝采の中に“生きのばし”でザックリと幕を開けたステージは、耳をつんざくようなアビさんのギター・リフが真っ赤な照明の中に轟く“かまわない”、そしてさっそくソロを弾きまくりの“ドロ舟”と一息に駆け抜けていった。立ち上がりから、はるの歌を聴き取るのに少々難儀してしまうくらいのもの凄い爆音である。
冒頭のはるのMCに導かれて繰り出されたのは、ライブでお馴染み“○○ポピー”シリーズから今ツアーにうってつけの“新春ポピー”だ。ここからまたも間断なく、次々に楽曲群が放たれていく。『’09初夏盤』からはロマンチックなメロディが歌われる“絵描き”が披露されたものの、ここまでは比較的、活動休止前に発表された楽曲が多くプレイされている。シンイチロウが叩き出す高速シャッフル・ビートとはるの喚き散らすようなボーカルにオーディエンスがばんばか跳ね上がった“とどめをハデにくれ”では、フィニッシュにアビさんが大きなジャンプを決めるのであった。
ラメ入りの柄シャツをネタにされ続けているアビさん、「柳原加奈子をイメージしてくれる?」と前置きして、「お客さまぁ! その服どちらでお召しになるんですかぁ!? 何されてる方なんですかぁ!?」「いや、普段、着るんだよ」「その色だけ売れなかった
んですぅ!」場内、爆笑である。「……まあ、俺にしか似合わねえってことだな」。おお、カッコいい。そして会場内に大きなフラッグとしても掲げられていた今ツアーのグッズ・キャラクター、うさぎの「ルパン」を指してはる、「前々回の卯年にバンドを始めて、12年後には何もしていなかったが、24年後になって神のように復活したのである! 崇めよ!」フロアからは「早くやれー」と的確なツッコミが入る。
“バカになったのに”“日が暮れても彼女と歩いてた”といった大名曲たちも早々に放たれ、「懐かしい曲ばかりもやってられん。ちょっと最近はね、息も上がっちゃうんで……ロードワークとかも、頑張りますよ。寒くてね! 犬と一緒に走ってたら、犬の方が先に風邪ひくんじゃないかという」。昨年末に45歳になって、今更というかいやにヘルシー指向なはるである。でも確かに、冒頭からハイ・ペースで飛ばしているのに、パフォーマンスにがっちりとした安定感と余裕のようなものを受け止めることが出来るのだ。
ここで、ニューシングル『バカのしびれ』に収められた3曲を立て続けに披露する。ルーズでトボケた曲調が歌詞の世界と密に結ぶ付き合う表題曲“バカのしびれ”から、“ハゲ出し”そして“霧の中”へ。「レコードだと、もっとたくさん気の利いた音が入ってますんで、気に入ったら聴いてください。今年はまたどんどん、曲を書いていこうと思ってます。あー緊張した」。とりわけ、ズブズブとブルースの深淵にのめり込みつつ、オーディエンスたちがアビさんとシンイチロウによる《ハゲ出したら止まんないわ》というコーラスを一発でマスターしてシンガロングを加えていった“ハゲ出し”はとてもライブ映えのする楽しい曲であった。それにしても、はるが、曲を、どんどん、書く!? これはいよいよ、ニュー・アルバムが期待出来るのだろうか。
この日のライブの個人的ハイライトだったのは、スウィングするビートにアビさんの悲鳴のようなギター・フレーズが弾け、はるのベースもひたすらにグルーヴを掻き回していた“3連休”であった。ここ数年は年に一作ほどのペースでシングルをリリースするに留まっているピーズのディスコグラフィーだけれども、“3連休”もそんなシングル収録曲だ。“手おくれか”で前のめりに転がりながら、間奏で爆発するようなファンキー・リフを掻きむしっていたアビさんは、エキサイトし過ぎて弦を切ってしまっていた。
今後のライブ予定を告知したのち、はるは「もろもろ予定決まって参りますが、とにかくエブリバディ、健康でお願いします。今日なんか外を出歩く気温じゃなかった。こんなに集まってくれて、ありがとうございます」と、またもやヘルシー街道一直線な発言。“サイナラ”で景気良く飛ばして本編ラストは“ノロマが走っていく”、“焼めし”の『赤羽39』ナンバーたちで「ハッピーニューイヤー!!」とフィニッシュした。燃え尽きた、という印象ではなかったし、破滅型ロックンローラーの姿でもなかった。まさかのダブルアンコールで“グライダー”までたっぷりと聴かせて全29曲。いや、曲数そのものよりも「グダグダ」や「ヘロヘロ」が鉄板の芸にまで昇華されていることの凄さに、改めて気づかされるショウだった。「酒飲みながら馬券買っちゃダメだー!」と喚くはるは、変わらないところも変わらないけれど。(小池宏和)
セット・リスト
1:生きのばし
2:かまわない
3:ドロ舟
4:新春ポピー
5:実験4号
6:絵描き
7:とどめをハデにくれ
8:バカになったのに
9:ギア
10:日が暮れても彼女と歩いてた
11:しげき的な日々
12:バカのしびれ
13:ハゲ出し
14:霧の中
15:底なし
16:3連休
17:このままでいよう
18:手おくれか
19:犬ゾリ
20:どっかにいこー
21:ニューマシン
22:サイナラ
23:ノロマが走っていく
24: 焼めし
EN1-1:1等賞
EN1-2:でいーね
EN1-3:体にやさしいパンク
EN1-4: 脳ミソ
EN-2:グライダー
Theピーズ@渋谷クラブクアトロ
2011.01.16