モグワイ @ 恵比寿リキッドルーム

モグワイ @ 恵比寿リキッドルーム
モグワイ @ 恵比寿リキッドルーム
モグワイ @ 恵比寿リキッドルーム
モグワイ @ 恵比寿リキッドルーム - pics by Tadamasa Iguchi(Qetic)pics by Tadamasa Iguchi(Qetic)
あらゆる意味で試験的な、そしてモグワイの未来を見据えた画期的な来日公演だったと言っていいだろう。この日の公演はなんとチケットとCDとバンドTシャツがコンパイルされたスペシャル・パッケージのみで売り出され、その価格はしめて9990円。言わずもがな、安い。なにしろここで言うCDとはモグワイの正真正銘のニュー・アルバム『HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL』のこと。つまり、2月2日リリースの新作をいち早くゲットすると同時に彼らのライブも同日に体験できるというスペシャルな内容になっているのだ。しかもこの日の公演は『HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL』収録の楽曲を全曲プレイするというコンセプトに基づいたワールド・プレミア的意味合いを持つスペシャル公演でもあった。なお、本日(2月3日)の追加公演は通常のオールキャリア・セットになるというから、まさに昨日のモグワイのリキッドルーム公演は一期一会のスーパー・プレミア公演だったと言っていいだろう。

もちろんチケット(というかスペシャル・パッケージ)は発売と同時に即完売。超満員の会場に足を踏み入れると、バー・エリアには今日のライブ写真を即日ダウンロードできる旨の告知が貼ってあったり、終演後に今日のセットリストが配布される旨のアナウンスがあったりした。つまり、モグワイはこの2月2日の東京公演をもって最新の自分達の「全て」をつまびらかにしようとしている、そんな意思を隅々まで感じさせるものだった。

一方の会場には期待と不安が入り混じった空気が流れていた。全曲新曲からなる内容だという事前のメッセージがあったにせよ、そしてここに集ったオーディエンスが事前に彼らのサイトで全曲試聴可能(http://hostess.co.jp/mogwai/)な環境にあったにせよ、モグワイ元来の轟音カタルシスが100%保証されないまま未知の体験と向き合う直前のそわそわしたムード。「まあでも“SATAN”はやってほしいよな……」みたいな声も辺りからちらほら聞こえてきた。しかし、蓋を開けてみれば今夜の体験が2度とないモグワイ・ファン冥利につきる内容であったことは紛れもない事実だった。

下に付記したセットリストをご確認いただければ分かると思うけれど、彼らは新作『HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL』の楽曲を全曲プレイするだけではなく、曲順までアルバムのトラックリストに則って演っていた。この手のアルバムとライブ・パフォーマンスがイコールで繋がれたコンセプチュアルなショウと言えば、昨年のフジ・ロックで観たアトムズ・フォー・ピースの『イレイザー』全曲再現ライブなどを思い出すわけだが、アトムズのそれがアルバムの「解釈」と「飛躍」のライブだったとしたら、モグワイの今回のこれは文字通りアルバムの「再現」と「試運転」を意味するものだった。

新作の試運転の場を彼らが必要とした理由も分かる気がする。何故なら『HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL』はモグワイにとってキャリアにおけるリセットを意味する作品でもあったからだ。“White Noise”と題されながらも驚くほどクリアでシンフォニックなキーボードの響きが印象的なオープナーといい、16ビートのバスドラ連打で幕開けたヒプノティックなガレージ・ロックと呼んでも過言ではない“Mexican Grand Prix”といい、『HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL』はモグワイ史上最も簡潔で、シンプルなアルバムであり、簡潔でシンプルなんていう形容詞をモグワイに使う日が来るとは思いもよらなかったくらいなのだ。続く“Rano Pano”ではこれまた試運転らしくイントロの出だしで失敗し、スチュワートは苦笑いしつつリスタートを切る。続く“Death Rays”はモグワイらしいドローンな始まりだが、その後に続くギターのメロディアスかつアップリフティングな開放弦の響きはこれまた異例だ。

昨年リリースされたライブ・アルバム『SPECIAL MOVES/BURNING』をもって、キャリアに一区切りをつけた、という意味合いもあっただろう。しかしモグワイがこの日奏でた簡潔さやシンプルさは広大なノイズの原野を彷徨い歩いてきた彼らがその景色に「目をつぶった」末の産物ではない。むしろボコーダーを駆使したボーカルに驚かされた“George Square Thachter Death Party”や、エレクトロなシンセと轟音の掛け合わせを試す“How To Be A Werewolf”等、これまでのモグワイにはなかったエッセンスがさらに付加されたアイディアの広がりの局面をいくつも見出すことができるものだった。むしろこの日のライブと『HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL』は彼らの広大なノイズの原野の出発点、その芯と改めて向き合い、再びいちからランドスケープの構築をスタートさせる意思そのものだったと言っていい。

圧巻は“You’re Lionel Richie”だ。フロントの3人が床に座り込み、アブストラクトなノイズを弾き出し続けた前半から、ループし続けた旋律がじわじわ熱されていった中盤、そしてマグマの爆発のような確変と共に巨大なうねりを生み出した最終コーナー。それはまるでこの日、彼らが1時間半をかけて白紙のキャンバスにひと筆ずつ置いていった新たな色彩が一気にスパークするような体験だったのだ。

こうして『HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL』を演りきった後、モグワイは往年のキラー・チューンを満を持して立て続けに連打した。それは時間が逆再生されるような不思議な体験だった。(粉川しの)

2月2日 恵比寿リキッドルーム
WHITE NOISE
MEXICAN GRAND PRIX
RANO PANO
DEATH RAYS
SAN PEDRO
LETTERS TO THE METRO
GEORGE SQUARE THATCHER DEATH PARTY
HOW TO BE A WEREWOLF
TOO RAGING TO CHEERS
YOU ‘RE LIONEL RICHIE
CHRISTMAS STEPS
FILES
STAN
(encore)
2 RIGHTS
BATCAT
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