MGMT @ 新木場スタジオコースト

MGMT @ 新木場スタジオコースト
MGMT @ 新木場スタジオコースト
フジロック・フェスティバル2010ホワイト・ステージのトリから7ヶ月。MGMTが4月1日の韓国ソウルまで続く長いアジア~オーストラリア~アジア・ツアー日程の中、ここ日本に上陸。2月24日の今日は、名古屋での公演を終えて東京の初日。ちなみに明日25日もここ新木場スタジオコーストで、その後は大阪へ移動しての日本ツアーである。

オープナーのOGRE YOU ASSHOLEを終えてきっかり8時。客電が落ちてメンバーが登場。高めにロールアップしたブルー・デニムにトップはいい感じに色落ちしたユーズドっぽいジージャンを着用のアンドリューがセンター。下手の定位置に置かれたキーボード前には袖まくりなシャツ姿のベン、そして上手にはキーボード&ギターのロン毛なジェームス、下手後方にはベースのマット、そしてバンドの要の位置には赤いシャツをヘソまではだけたドラムのウィルがポジショニング。5人編成となったMGMT、である。

アンドリューが「ハロー」と一言、1曲目はファースト・アルバム『オラキュラー・スペクタキュラー』から「Peace Of What」。抱えたアコギをジャカジャカとかき鳴らしながら、ゆったりとしたビッグ・メロディにてライブはスタートした。
MGMT @ 新木場スタジオコースト
MGMT @ 新木場スタジオコースト
結論から先に書いてしまうと、「こんな感じ」が今夜のMGMTだった。『コングラチュレイションズ』リリースから間もないフジロック(しかも、ワン・デイ・アズ・ア・ライオンの後という雰囲気の中)でのMGMTは、やはりどこか神経質でヒリヒリとした緊張感がたたずまいにも音にも出ていたように思えた。ところが、今夜の彼らは、このメンバーによるライブも回数を重ね、そのことがある種の余裕をもたらしているようだった。つまり、落ち着き払っていた。そして、そのことによって、MGMTというバンドの持つ、正確な姿かたちもまた露になった夜だったと思う。

3曲目にはもう必殺の「Time To Pretend」が演奏され、この夜最初の沸点が起こる。というか、もう「Time To Pretend」をライブの序盤で持ってこれることがつまり、余裕である。掲げられた満場の拍手の手の海を見渡しながら、アンドリューが「サンキュー・ヴェリー・マッチ」と返す。それは、余裕であり、そして、淡々としているのだ。

以前、僕は彼らのライブを評して、MGMTはなぜ「小さい音」でライブをやるのか、という短い原稿を書いた(こちらから。http://ro69.jp/blog/miyazaki/37854)。昨夏、フジロック直前に組まれたゼム・クルックド・ヴァルチャーズ単独公演のオープニング・アクトとしてライブを行った、そのパフォーマンスを観ての感想だったのだけど、実際、その後のフジでもそうだった。そして、その「小さい音」の理由について、僕はそれが彼らの「抵抗」なのだと感じていた。今夜のそれは、ちょっぴり大きめ(?)にはなっていたけど、やっぱり他のバンドの音量に比べれば、絶対量としてMGMTの音は小さかった。その姿はやっぱり「抵抗」に映ったし、どこか、古の「アート・ロック・バンド」のたたずまいを思わせるものだった。アート・ロックなんだよね、MGMTって。

だから、決して彼らは音を無造作に大きくしたりはしないのである。というか、観客とむやみにコミュニケーションをとるために、観客に向けて大きく音を差し伸べたりはしない、ということなのだ。それが、アート・ロック・バンドとしてのマナーであり、MGMTというバンドの現代における特異性でもあり、そしてそれは言うまでもなく、彼ら自身の資質から必然として出てきたものなのである。

その資質とは何だろう。たとえば、これがグリーン・デイのライブだったら、執拗な観客とのコール&レスポンス祭りになる。曲間だろうが曲中だろうが、ビリー・ジョーは隙あらば観客に曲を預け、歌わせ、盛り上がらせ、高めさせる。あろうことか、1曲丸々演奏さえさせてしまう。デカい音はそのための必要条件だ。観客にすみやかに満遍なく届くように、その音は十二分な条件としてデカくあることを義務づけられる。ところが、MGMTではそうはならない。小さい音で、淡々と、(彼らなりに)丁寧にそれは演奏され、提出される。それは、MGMTというバンドの音楽が、「世界をとらえ」(それはたとえば、『コングラチュレイションズ』のアルバム・ジャケットが今の世界とわれわれを象徴していたように)、それをあらためて自分たちなりに「構築」し、聴き手に向けて「提出」をして、「思考」させるものだからだ。それは、一見すると、(というか、グリーン・デイを比較の対象とすれば)ある種のコミュニケーション回避というか、嫌悪というか、拒否なスタンスにも見える。しかし、あらためて言うまでもなく、それもまたひとつのコミュニケーション様式なのである。というか、MGMTには、このような「距離感」こそが、自らの音楽を成立させるために必要な環境であり、それがあることによって見えてくるものを、まさにコミュニケートしようとしているのだ。
MGMT @ 新木場スタジオコースト
MGMT @ 新木場スタジオコースト
物議をかもしたセカンド・アルバム『コングラチュレイションズ』からの「It’s Working」も「I Found A Whistle」も、曲の細部に仕組まれた繊細なプロットを丁寧に描きなおす演奏が、あらためてこの作品群がもたらす知的興奮を高めていく。「Flash Derilium」の、カタストロフに向かう終盤の加速が気持ちいい。余談だけど、「Electric Feel」を聴くたびに、このバンドはもっとこうしたファンク・ナンバーを演ってほしいと切に思う。バンドの出すサウンドのテクスチャーと、アンドリューのファルセットぎみの声は、こういう洗練されたブラック・ミュージックにぴったりだと思うのだけど・・・。

それはともかく、「The Youth」から、今夜のハイライト、大曲「Siberian Breaks」をたっぷりと演奏した後(そういえば、今夜のMGMTは、インストでの演奏時間が長くとられていた。イントロや間奏、あるいは曲終わりといったところで、さらにもう1曲分くらいの演奏パートが設けられていた。で、これがよかった。プレイヤビリティには正直キツ目の評価が定評となっている彼らの(?)、これは勇気ある挑戦であり、しかもそれは成功していた。5人MGMTの新章を感じさせた。)、「Kids」、である。

例によってバンドがはけ、というか、ステージに二人だけ残ったアンドリューもベンも楽器から離れてマイクだけを持ち、カラオケによる「Kids」の始まりである。

はじけたように沸き立つオーディエンスに、このとき限定で積極的にコミュニケーションを取り出す二人。最前列の観客に手を差し伸べ、ステージの端から端へとせわしなく動き回り、でもぐだぐたになりながら、アンドリューとベンは「Kids」を歌う。彼らにとって一番の代表曲を、というか、ゼロ年代後半を確実に代表する曲のひとつとなった「Kids」を、それはあたかも積極的に突き放すかのように扱う姿である。

たとえば、レディオヘッドにとって「Creep」が非常にデリケートな曲となっているのと同じ構図が、MGMTとこの「Kids」の間にはある。だから、彼らが「Kids」を演奏する(というか歌う?)ということは、ひとつの事件であったし、いまでも特別な意味を持っているものだ。それを、彼らはこんなふうに「使う」。トム・ヨークはまかり間違っても「Creep」をカラオケでは歌わないだろう。

だから、そこにも、MGMTの特異さはある。「作品」をそのような距離感で提出することのできる思考様式と大胆さが、彼らを現代的にし、レディオヘッドとは違う意味で知的なものにしている。阿呆のようにステージにへたり込みながら「Kids」を歌う二人と、その「Kids」のプロモーション・クリップがいかにおぞましいものとして作られたか(こちらから。http://ro69.jp/blog/miyazaki/21465)を立体的に想起することは、MGMTを特別に刺激的な存在にさせるのだ。

「Congratulations」で本編が終了、アンコールは「Brian Eno」で締めるという、結果1時間40分に及んだライブは、2枚のアルバムから万遍なく代表曲を散りばめた、MGMTの現時点でのすべてを提出するものであり、しかも、「その次のMGMT」への可能性をどくどくと感じさせるものだった。しかし、不思議なバンドだ、MGMTって。(宮嵜広司)

今回の来日全公演のセットリストは以下。

2月22日(火)Zepp Nagoya
<セットリスト>
1.It’s Working
2.Time To Pretend
3.Weekend Wars
4.I Found A Whistle
5.Only A Shadow
6.Flash Delirium
7.Of Moons, Birds and Monsters
8.Song For Dan Treacy
9.Electric Feel
10. Destrokk
11. The Youth
12. Siberian Breaks
13. KIDS
14. Brian Eno

<アンコール>
15.The Handshake
16.Congratulations

2月24日(木)新木場STUDIO COAST
<セットリスト>
1.Pieces of What
2.Of Moons, Birds and Monsters
3.Time To Pretend
4.It’s Working
5.Weekend Wars
6.I Found A Whistle
7.Destrokk
8.Flash Delirium
9.Electric Feel
10.The Youth
11.Siberian Breaks
12.KIDS
13.The Handshake
14.Congratulations

<アンコール>
15.Future Reflections
16.Brian Eno

2月25日(金)新木場STDIO COAST
<セットリスト>
1.It’s Working
2.Time To Pretend
3.Weekend Wars
4.I Found A Whistle
5.Flash Delirium
6.Of Moons, Birds and Monsters
7.Song For Dan Treacy
8.Electric Feel
9.Only A Shadow
10.Someone’s Missing
11.Destrokk
12.The Youth
13.Siberian Breaks
14.KIDS
15.Brian Eno

<アンコール>
16.The Handshake
17.Congratulations

2月26日(土)大阪IMPホール
<セットリスト>
1.Siberian Breaks
2.Time To Pretend
3.The Youth
4.Flash Delirium
5.Weekend Wars
6.I Found A Whistle
7.Song For Dan Treacy
8.Of Moons, Birds and Monsters
9.Electric Feels
10.It’s Working
11.Future Reflections
12.The Handshake
13.Destrokk
14.KIDS
15.Congratulations

<アンコール>
16.Pieces of What
17.Brian Eno
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