ロックンロールの核心にググッと踏み込んだ新作『The First Cut is The Sweetest』をひっさげて全国15箇所を回った、ザ・ビートモーターズ史上3度目となる全国ツアー「自由マン大接近ツアー」。そのツアーファイナルを飾るワンマンライブが、渋谷WWWで行われた。
開演予定時間を少し回った18時10分に場内が暗転。拍手の中ぞろぞろとメンバーが登場し、打ち鳴らされたオープニング・ナンバーは“メリーゴーランド”。秋葉正志(Vo/G)の「ロックンロールに愛されている」という表現がぴったりの、というかそうでなければ説明がつかないほどのスケール感と声量を備えたボーカルがスタートからフルスロットルでフロアを暴れ回る。続いては、被っていたハットを吹っ飛ばしながら、ジョニー柳川(B)がグルーヴィーに跳ね回るベース・ラインを弾き倒した“アンドレア”、秋葉の軽快なステップがフロアを沸かせた“塀”を立て続けに披露。一曲毎にフロアの熱気をはね上げながら、もの凄いテンションで喧噪漂うライブ序盤を駆け抜けていく。
少しペースを落とした中盤のブロックでは、あまりにも身勝手な男の心情がありありと刻まれた“スマイルをおくれよ”を披露。こんなことを書くのもどうかと思うけど、《もう泣かないで もう泣かないで あーもう そんなこと どこかでひとりの時にやってね》という正直過ぎるにも程がある歌詞が、男の自分としては異常なぐらい共感できる名曲だ。そして木村哲朗(G)がブルージーな情感がたっぷり詰まったギター・ソロを見せた“車なのさ”から、鹿野隆広(Dr)の叩く落ち着いた8ビートにのって秋葉がファルセット・ボーカルを響かせる“恋をしている”をプレイ。逆光に照らされながら静謐なアンビエント・サウンドを構築していく彼らの佇まいには、ど直球のブルーズ・ロックを豪快にぶん回していた先程までとはいくらか質の異なる、静かな存在感が宿っていた。
その後は酩酊感のある同期シンセを導入し、フリー・ソウル、ディスコ・ミュージック方面に振り切った新機軸サウンドの“あのこにキッス”を投下して、「聴かせる楽曲」が並んだ中盤を締めくくると、ここからライブの勢いは加速。“ちくちくちく”“ロックフェスティバルの日”と、目の前の障害物を薙ぎ倒しながら驀進するような荒々しい楽曲を連発してから、ザ・ビートモーターズ随一の暴走ナンバー“素晴らしいね”へ突入。轟々と唸る木村のディストーション・ギターを中心とした暴力的なアンサンブルの中、秋葉が両手に一本ずつマイクを握りしめ、絶唱。そして曲の途中から、堰を切ったようにメンバーのテンションが大暴走! 木村とジョニーは前に飛び出し、お互いノーガードで爆音をぶつけ合う壮絶なバトルを始め、鹿野はイスからずり落ちそうになりながら、一心不乱にドラムを強打。秋葉に至ってはもう、ステージ横のスピーカーによじ上ってぐねぐね踊るわ、なぜかそこで腹筋するわ、気持ちいいぐらいにやりたい放題! 曲の最後に秋葉がステージ後方に設置され
た銅鑼を素手で打ち鳴らすまで、片時たりとも目が離せない展開が続いた。
“素晴らしいね”でのカオティックなムードを引きずったまま行われたMCでは、メンバーひとりひとりによるツアーの思い出の話に。その内容を要約すると、以下の通り
ジョニー:地元名古屋でオーディエンスに「思い出はなんですか?」と訊かれ て、「今思い出を作ってる!」と言ったら大盛り上がりで、アンコールの時にジョニーコールが起きたこと
木村:ホテルで同室だったジョニーの歯ぎしりがすごかったこと。それを受けてジョニーが「木村が寝ている時に変な動きをしていて怖かった」と、木村の夢遊病癖を暴露
鹿野:ツアー移動中の車で、ジョニーお気に入りのザック・ギルの曲がずっと流れてたこと
秋葉:郡山で整体に行ったこと。あとは車酔いが激しくて、車の荷台で横になりながら音楽を聴いたり、曲を作ったりしていたこと
そんな、メンバー各々の個性がよく伝わってくるようなMCを終え、クライマックスに向けて徐々に熱を帯びていくライブのテンションは、秋葉と木村が交互にギター・フレーズを繰り出してオーディエンスを沸かせた“ドライブ天国”で沸点に到達。お馴染み「Drive baby, baby drive」のコールアンドレスポンスを決めてから、一体感に包まれたフロアに向けて“自由マン”“恋がしたい”をつんのめり気味に叩きこみ、ライブ本編はここで終了。
アンコールでは、フロアからの大音量のジョニーコールを受けてまずはジョニーがひとりで登場。そして少し間を置いてから、「出づらい(笑)」と漏らしながら残りの3人が出てきて“9 to 5”をプレイ。2曲目の“ばらいろの世界”では、モニターに足をかけた秋葉の「もっと来いよ東京!」とコールでフロアにシンガロングが巻き起こった。そして終演後も鳴り止まない拍手に応えて突発的に行われることになった(受付でもらったセットリストには書かれていませんでした)ダブル・アンコールでは“ジェット先生”を披露。最後は秋葉が「ウィーアーザ・ビートモーターズ! サンキュー!」という言葉と共にフロアに投げキッスをして、この日のライブは熱狂のうちに大団円を迎えた。
ブリティッシュ・ビートをルーツに持つ、土臭い王道ど真ん中のロックンロールだけをぶん回していたバンド最初期から、『The First Cut is The Sweetest』を経て、繰り出してくる楽曲の幅が大きく広がった今のザ・ビートモーターズ。もともと、その「王道ど真ん中」の放つ膨大な熱量だけで圧勝のライブができていたバンドなだけに、「曲調が多彩になる分方向がぶれて、ライブの勢いが失われたりはしないだろうか」と少し心配していてけど、それは全くの杞憂でした。というよりも、ライブに奥行きが生まれ、緩急がつくようになった分、楽曲の持つ破壊力がより際立ってとんでもないことになっていました。もう本当に脱帽。色んな意味で規格外すぎる、このバンド。(前島耕)
[セットリスト]
1. メリーゴーランド
2. アンドレア
3. 塀
4. ボーイフレンド
5. かちこち先生
6. スマイルをおくれよ
7. 車なのさ
8. 恋をしている
9. きれいな少女
10. あのこにキッス
11. ちくちくちく
12. ロックフェスティバルの日
13. 夢のしわざ
14. 素晴らしいね
15. 恋するふたり
16. ガールフレンド
17. ドライブ天国
18. 自由マン
19. 恋がしたい
アンコール
1. 9 to 5
2. ばらいろの世界
ダブル・アンコール
1. ジェット先生