ちょうど正午になるというところで会場に足を踏み入れると、メイン・ステージとなるBIG BEACH STAGEには日本勢からHIFANAが登場。先行してDIESEL ISLAND STAGEでDJを務めた大槻サトシのプレイは見逃してしまったが、HIFANAはステージ上に何台ものカメラを入れ、今回のBBFに向けてファットボーイ・スリムが送ってきたメッセージ・ビデオを始めとする様々な映像をVJでいじりたおしながら盛り上げてくれる。デビューした頃は「サンプラーの使い方が分からないんで、取りあえず引っ叩きます!」なんて話していたけれど、サンプラーとターンテーブルとミキサー、あとはKAOSS PADを駆使するライブ感に満ちたダンス・ビートの構築ぶりはもはや職人芸として認知されるものだろう。多くのDJが苦心するビートのモタリ具合などのグルーヴを、フィーリング一発で解消してしまうわけだから、実に素晴らしいパンク芸だ。
一方のDIESEL ISLAND STAGEではFANTASTIC PLASTIC MACHINE=田中知之のDJ。鋭角なビートが決まるハウス・チューンを立て続けに披露して盛り上げるのだが、こちらはステージを正面に見るとちょうど海を背負う形になっていて、背後から吹く潮風がとても気持ちいい。ラテン・ビートを織り交ぜてルチアーノのトラックをプレイし始めると、オーディエンスが自発的にハンド・クラップで歓迎していた。ここでBIG BEACH STAGEに戻ってみると、BBF皆勤賞のDEXPISTOLSがプレイ中。スターダストの名曲“ミュージック・サウンズ・ベター・ウィズ・ユー”をはじめ、自身のルーツと指向を正面から引き受けるフィルター・ハウス~エレクトロの流れでガシガシと楽しませてくれていた。こちらのステージは何しろ大きいので、左手からの潮風で音が流れてしまうことも懸念していたが、PA前に陣取るとさすがに安定している。これからどんどんオーディエンスが増え続けるはずだけど、せめてこの辺りまでは潜り込もうと決意する。
今回、個人的に注目していた英国のDJ/プロデューサー・チーム=ラウンド・テーブル・ナイツ。テック・ハウス主体の人たちなのだけれども、作品を聴いてみると生楽器のループを活かしたジャジーなスウィング感がとてもジェントルでいい。それも、よくある大味でこれみよがしなジャジー・ビートではなくて、音の引き算の手際が実に素晴らしいグループなのだ。さすがにDJプレイでは盛り上げるところは盛り上げるし、オーセンティックなレゲエまでスピンしていたけれども、期待していた持ち味が随所に見られて良かった。そして、上空では昨年も行われたレッドブルによるセスナ機のフライト・パフォーマンスが。2機の機体が宙返り~急降下しつつあわや正面衝突というスリリングな瞬間を演出したり、車で言うところのドリフトのような斜めに滑るアクロバット飛行を見せたりして、一様に空を見上げるオーディエンスの喝采を浴びるのであった。
惜しくも出演キャンセルのリカルド・ヴィラロボスのスロットの穴を埋めるべく、この日ダブルヘッダー出演となったスティーヴ・ロウラーだけれども、こちらは後ほどの出演を観ることにして食事などを済ませることにした。ごめんスティーヴ。あと、DIESEL ISLAND STAGEで背に受ける風が気持ちよすぎる、というのもある。こちらではザ・キューバン・ブラザーズなるヒップ・ホップ・ユニットが登場。キューバのヒップ・ホップというとロベルト・フォンセカがプロデュースしたグループ、オブセシオーンぐらいしか知らなかったが、むしろザ・キューバン・ブラザーズの音楽はあまりキューバ色は強くなくて、ポップ&どキャッチーなトロピカル・パーティ・ラップだ。リリックも英語だし、マイケル・ジャクソンの“スタート・サムシング”にオリジナルのリリックを乗せたりしてウケていた。「ロス・ヘルマノスとアルバムを共作したんだ!」と言ってオーディエンスにアナログ盤をプレゼントしていたが、そのロス・ヘルマノスってURの、デトロイト・テクノの方じゃなくて、ブラジルのロック/ファンク・バンドの方じゃないだろうか? まあいいか。楽しそうだし。
さて、今回のBBFの目玉企画となったのは、レッドブル・レーシング・チームによるF-1のジャパン・チャリティー・ラン。会場脇の道路を走行コースにして、2台のF-1が至近距離を駆け抜ける。一度、目の前でアクセルを踏み込まれたときの甲高い爆音は凄まじかった。兵庫慎司氏による見事なショットはこちら→http://ro69.jp/blog/hyogo/52220。僕もずっと撮影に挑戦していたけれど、余りにも速過ぎて無理。スタート/ゴール地点付近で待ち構えるべきだったかも知れない。
そしてこの日2度目の、夕暮れのフライト・ショーが行われ、いよいよファットボーイ・スリムだ。初年度の横浜・八景島開催以来の登場である。スマイリー柄の黄色いシャツとオレンジ色の沈みゆく太陽を交互に眺める中、“プレイズ・ユー”をまずはイントロだけ聴かせてDJスタート。ボーカル・ループのフックを使って、満場のオーディエンスを自由自在に歓喜させる心憎い手捌きはさすがだ。バレアリックな響きの“ライト・ヒア、ライト・ナウ”もいい。バツン、といきなり音が止まって、スクリーンには様々なフォルダが並べられたデスクトップ画面が映し出される。すわ、システムダウンかと至る所で悲鳴や囃し声が上がるのだが、デスクトップ上で七色に回転する(機能停滞を知らせる)レインボーサークルが次第に巨大化し、それに合わせてドドドドドとブレイクが立ち上がってくる、という仕掛けだ。うははは。バカ。そしてホワイト・ストライプス“セヴン・ネイションズ・アーミー”でタオル回しを敢行する。最高だ。
展開が一巡するように、オープニングでイントロだけ鳴らされた“プレイズ・ユー”でパフォーマンスをフィニッシュするFBS。プレイ中もずっとそうだったが、満面の笑顔で挨拶して彼は去り、ステージ後方から花火が打ち上げられた。スマイリー・マークがそうであるように、ダンス・ミュージックとしてはいやに長く胸に残りすぎる強靭なボーカル・フックが込められたアンセム群がそうであるように、FBSがもたらす歓喜とは「約束」である。長いキャリアの中で大きな挫折も味わったノーマン・クックは、しかしファットボーイ・スリムを名乗るようになってからは、負けたことがない。『WHY TRY HARDER』のその真髄を見るようなパフォーマンスだった。BBFとはつまり、そういう約束が果たされる場のことなのである。(小池宏和)