凛として時雨 @ 東京国際フォーラム ホールA

初のホール・ツアー『凛としての時雨 TOUR 2011 VIRGIN SUICIDE』の、延期になっていたファイナル公演。昨年行われたさいたまスーパーアリーナ公演開催もびっくりしたが、このホール・ツアーもまた「やりたい」「やらせてあげたい」「やって欲しい」という大勢の人々の意志や思惑の形が結び付きあって行われたのだな、ということがありありと伝わる、素晴らしいステージであった。時雨はやはり、ラウドなバンド・サウンドで叫び、騒ぎ、弾けるだけには留まらない、未知のスペクタクルとしてのロック・ショウを見せてくれる底知れないポテンシャルを秘めたバンドだ。

薄いベール状の幕に覆われたステージにバンドの姿を透かし観ながら、水中に漂い水面を見上げるような幻惑的な音像を受け止める。投射されるイメージ映像とともに届けられてくるのは、345(Vo./B.)による《今 半透明 水の中で 溺れている 奇跡的》という“illusion is mine”の歌い出しだ。『still a Sigure virgin?』のラスト・ナンバーをいきなりオープニングに配置している。そして時雨ならではの鋭利な轟音アンサンブルへと展開するのだが……なんだ? このとんでもない音響は。さすがホールということもあるしPAの技量ももちろんあるのだが、自らの轟音をきっちり統制して放つ3人が凄い。ホールでやるべきことがある、という揺るぎない確信があって踏み出したツアーだったことが一目瞭然である。でなければ、この繊細で玄妙な音像の一曲をオープニングに持ってきたりはしないだろう。

不穏な重量級ベースと美しいギター・フレーズがもつれあって走り出す“I was music”のTK(Vo./G.)の歌によってベールの幕が開く。そしてディープなグルーヴの中から閃光のようなギター・フレーズが迸る“DISCO FLIGHT”へ。3人は大きなステージ上の中央に密集し、ライブ・ハウスでの公演と変わらない距離感で演奏している。真っ暗闇の中で控え目ながら効果的に用いられる照明、そしてスクリーンに投射される曲調と連動した抽象的なCGイメージ映像といったホール公演ならではの演出も盛り込まれてゆくのだが、それらは決して大仰なものではないのに眼前にはとてつもないスケールの表現世界が描き出される。それはつまり、時雨の楽曲のサウンドスケープとビジョンによってこそもたらされるスケール感だ。

小刻みに弾ける、異常な手数のピエール中野によるドラム・プレイから硬質でファンキーなアンサンブルを披露してゆくのは“a 7days wonder”だ。コーラス部分ではTKと345による高らかなハーモニー・ボーカルが届けられる。一曲ごとフィニッシュするたびに、客席からは昂った嬌声/奇声が放たれるのだが、その一瞬の後には場内を静寂が包み込み、メンバーが楽器のチューニングを行っている間、次に目の前に差し出されるスペクタクルは何か? と固唾を呑むような時間が訪れる。爆発力に満ち満ちたパフォーマンスでありながら、予定調和の高揚感とは程遠い独特の緊張感を纏うステージも、時雨独特の個性を物語っている気がする。

彼ら3人の演奏というのは、非常に高い技術で裏打ちされているわりに、コンビネーションには独特のズレがあって生々しい躍動感が楽曲に持ち込まれることになる。意図的にそうしているのか、ナチュラルにそういう躍動感をものにしているのかは分からないが、TKのギターもピエールのドラムも「超人的」なのにバンド・グルーヴは「機械的」ではない。未知の生命体にばったりと遭遇してしまうような時雨のライブは、だから「宇宙人のロック・サウンド」と語られたりするのではないだろうか。ストレートな疾走感の中で延々と繰り出されている“想像のSecurity”のピエールのタム・ロールはどうだろう。この曲の後半ではエモーションの更なる解放に伴うようにして、ただでさえ速いテンポがグッと引き上げられるのだった。インディー時代のナンバーも圧巻のホール音響で畳み掛けられている。

マス・ロックやハードコア、ヘヴィ・メタルといった影響を垣間見せながら、そのどちらにも着地しない未知との遭遇である時雨のパフォーマンスは、当てなく膨らんでゆくスケール感のサウンドと詩情によって、無差別に人々を巻き込んでゆく。安い共感を得るための歌詞や耳馴染みが良いだけの音とは無縁の場所で、ビッグ・バンを起こしてしまったかのように急速に、無限に広がっている。グラスゴーのモグワイや、アメリカのホワイト・ストライプスを初めて観たときにもこういう衝撃を味わったことを思い出していた(別にこの2組の音楽スタイルが時雨と似ているわけではない。あくまでも「感触」の話だ)。予備知識がなくとも、まるで良質な大作映画やアクロバット・ショーやアトラクションのように、ただその音楽が驚きを軸にしたエンターテインメントとしての側面を備え、無数の人々を釘付けにしてしまう。半世紀以上の歴史を誇るロックというアート・フォームでは今や困難なことだが、そもそもロックとはそういう衝撃を提供することによって大きな支持を獲得してゆく表現だったのだ。今回のホール・ツアーは、時雨がそのことを証明するための場でもあったろう。

TKが椅子に座り、アコギでテクニカルなフレーズを加えていった“Tremolo+A”を披露すると、「これ、初めて使うギターなんですけど、ガット・ギターと言います。今日の公演が遅れてしまったんで、何か特別なことをやろうと思って、これで1曲やりたいと思います。よろしくお願いします」と、TKの弾き語りで始まるスペシャルなアレンジの“シークレットG”をプレイするのであった。レッド・ツェッペリンの“ベイブ・アイム・ゴナ・リーヴ・ユー”を思い出させる、フォーキーで壮大な叙事詩のごときナンバーに生まれ変わっていた。そしてこの後には、ドラム・セットが赤・青・緑に点滅して発光するピエールの超絶ドラム・ソロへ。ただただ圧倒されるのみの流れである。

「ワ~!! 東京国際フォーラム!! ワ~!! みんな元気かい!? あ、申し遅れました! ピエール中野改め、レディー・ガガです!」。恒例の、緊張感を一撃で台無しにしてくれるMCだが、圧倒されっ放しだったさきほどまでの時間の後にはちょっと助かる。「バイブス!」「玉スジ!」といったお下劣ネタから、現在海外レコーディングに赴いているというthe telephonsにエールを送る「ニューヨーク!」、映画『カーズ2』のテーマ曲起用を祝ったPerfumeへの(しかしなぜか“ポリリズム”ではなく)「チョコレイト!」「ディスコ!」、そしてXジャンプへと至る、彼自身のリスペクト精神に無理やりオーディエンスを巻き込むコール&レスポンスを敢行して、上機嫌で再びドラム・ソロへと突入してゆくのだった。

そして終盤は、“JPOP Xfile”からのキラー・チューン連打だ。“Telecastic fake show”ではキャッチーなボーカル・リレーが決まり、“nakano kill you”では重機関砲のような高速2ビートに総立ちのオーディエンスが縦方向に弾ける。とぐろを巻くような“a symmetry”のグルーヴの中に放たれたTKのスクリームは更なる熱を帯びていった。345が例によって物販の紹介を済ませると、続けて告知。なんと、9月の対バン企画『トキニ雨 #13』の直後から、全国27公演のライブ・ハウス・ツアー『αβ+1』決定である。さんざんホール公演の素晴らしさを書き連ねておいて、これからもぜひホールの時雨を観たいと思いながらなんだが、しかしやはりライブ・ハウスも捨て難い。詳細は公式HPでチェックを。

最後は、広大なホールの隅々にまで溢れ出すような轟音と絶唱をきっちりと届けてみせる“mib126”で見事に締めくくってみせた時雨。ライブ・スケジュールを埋めつつ走り続ける彼らではあるが、こうした経験と成果はしっかりと今後の作品にも反映されてゆくはずだし、それがまた楽しみでもある。次はライブ・ハウス・ツアーで、ぜひともこれまで以上に多くの人々に時雨を体験してもらいたい。(小池宏和)

SET LIST

1:illusion is mine
2:I was music
3:DISCO FLIGHT
4:Re:automation
5:a 7days wonder
6:this is is this?
7:Sadistic Summer
8:想像のSecurity
9:鮮やかな殺人
10:seacret cm
11:Tremolo+A
12:シークレットG
13:JPOP Xfile
14:Telecastic fake show
15:nakano kill you
16:a symmetry
17:24REVERSE
18:mib126
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