4月末に難波章浩・横山健・恒岡章の3人が同時にTwitter上で発信したHi-STANDARDとAIR JAM復活(『AIR JAM 2011』としての公式開催発表は5月)のメッセージは、恐らく数え切れない人々の胸を震わせ、また涙を誘うほどの喜ぶべきビッグ・ニュースであったはずだ。世界中でこの3人にしか出来ない、そして3.11以降の2011年を生きる日本のためにこそ起こされたアクション。それがこの9/18日に、横浜スタジアムで、遂に現実のものとなった。前日まで不安定極まりなかった天候は、ものの見事に快晴。11:30、バックスクリーン側・レフトスタンド寄りに設置されたAIR STAGE(隣接してライトスタンド寄りにJAM STAGEも設置されている)に難波が登場し、「11年ぶり、待望のAIR JAM復活です! 前回来てくれた人が、今回は子供を連れて来てくれているかも知れないしね。ファミリー・ゾーンとか用意してあるから。いろんな人がいるけど、みんな同志だよな!? 肩がぶつかったぐらいでケンカすんなよ! 俺はこのフェスが、ラウド・ロック/ラウド・ミュージックで日本最高峰のイベントだと思ってます。本当に特別だと思ってるから、体力に自信のある人だけ前の方に来て! 楽しもう!」と、この上なくシンプルかつ的確なメッセージを放って喝采を浴びるのだった。
プロ野球よろしく、AIR STAGEとJAM STAGE双方の登場アクトがスターティング・メンバーに見立ててアナウンスされ、電光掲示板には略称や愛称(磯部正文BANDは「イッソン」、LOW IQ 01 & MASTER LOWは「イッチャン」、ミー・ファースト・アンド・ザ・ギミ・ギミズは「ギミギミズ」)で表示され、2ステージがほぼ間断なくパフォーマンスを繰り広げる歓喜と熱狂の1日がいよいよ幕を開けた。ハイスタとダブルヘッダー出演のツネや田淵ひさ子(G.)擁する磯部正文BANDは、力強いドライブ感に満ちたサウンドと共にAIR JAM皆勤のイッソンが高らかな歌声をスタジアムに響かせ、HUSKING BEE時代の同胞、ドンドンこと平林一哉も共演。また出演の喜びを全身で描き出すようにしていた10-FEETは、“super stomper”によってSKATE BANK(マウンド~ホームベース辺りに設置)で宙を舞うスケーターやBMXライダーと興奮のコラボを果たす。Pay money To my PainやFACTらがポストAIR JAM世代の爆音と咆哮を堂々見せつける合間には、SCAFULL KINGが「この10年で10回しかライブしてません」と言いながらもカラフルで賑々しいスカンキン・タイムを提供してくれた。この日1組目となる海外勢=マーフィーズ・ロウはベテランとは思えないほどの力強いステージ。ホーン・セクションのサウンドの中からスクリームを届けてくるジミーは、ずいぶん長い間ステージ下でオーディエンスと交わりつつ歌うというサービス精神一杯のプレイだった。
唯一ヒップ・ホップ・アクトとしての出演となったKGDRだったが、ストロングスタイルの2MC+1DJライブでがっちりとオーディエンスを横に揺らす。K DUB SHINEは震災を受けて再結成を果たしたという意味でハイスタに共鳴しつつ、“未確認飛行物体接近中”や“空からの力”といったギドラ・クラシックも惜しげなく披露した。LOW IQ 01 & MASTER LOWは激ポップなシンガロング・ナンバーを連発、目に鮮やかな花柄のハーフパンツ・セットアップで登場したこちらもAIR JAM皆勤のイッチャンがサックスでスキャフル組と絡む一方、ギタリストのKenzi Masubuchiは、イッチャンやツネ、TOSHI-LOW、TGMXらが参加したPUNK SKA UNITY名義のチャリティーCD『DECISION』も紹介する。この収益金は被災地にライブ・ハウスを新設するプロジェクトに寄付されるそうだ(販売終了は10/18)。TURTLE ISLANDがハードコアな和太鼓混じりの大所帯パーカッション・サウンドで圧倒的な音響を轟かせた後には一転、WAGDUG FUTURISTIC UNITYのバンド名通りにフューチャリスティックでマッシブな音塊も炸裂する。そして既に最新型ロック・バンド・サウンドのフォーミュラを完成させてしまったかのようなthe HIATUSは、しかしその中から届けられるどこまでも自由で伸びやかな細美の歌声も印象的であった。
海外勢2組目はミー・ファースト・アンド・ザ・ギミ・ギミズ。ハイスタ流メロディック・パンクの長きに渡る理解者でもあるファット・マイクは、お馴染みの日の丸ハチマキ(なぜか合格祈願だけど)で登場。目一杯ファンなカバー・レパートリー連打の中でも、とりわけ“リンダ リンダ”レゲエ風カバーにはさすがに大盛り上がりである。いきなりの“恋のメガラバ”投下でアリーナを汗と笑顔まみれにしてしまったマキシマム ザ ホルモンは、ナヲが「AIR JAMに人生変えられちゃった人! ハイ!!」と誰よりも早く自ら挙手したり、ダイスケはんは「当時の自分に、毎日頑張ってたら11年後、とんでもないことになるぞって言いたいです!」と告げたりと出演を喜びながらも、期待は挑戦として受け止める、といつもどおり攻めの姿勢を貫く。そしてJAM STAGEトリのBRAHMANは、以前のAIR JAM出演時の映像とともに登場し“arrival time”でステージの幕を切っておとした後、「11年、あのバンドはどこにいっちまってたんだ? 誰よりもこの日を楽しみにしていたBRAHMAN、はじめます」とTOSHI-LOWが告げ、あのとめどなく生命力を燃やし続けるような(でも今回は「決死の」というより、どこか生き生きとしたポジティブな躍動感を受け止めさせる気がした)ショウを展開。終盤は恒例、アリーナ前線でのTOSHI-LOWクラウド・サーフィンというかTOSHI-LOW神輿というかあの光景の中で、「さっきの映像、顔がつるつるしていてびっくりした」という笑いから「諦めなくて良かった。おれ、諦めねえよ。被災地に笑顔が戻ってくることも、放射能の街に家族の団らんが戻ってくることも、諦めねえ」という熱い意思表明へと繋げる、最近のTOSHI-LOWの本気度を全力で伝えるようなロングMCも届けられた。
10-FEETのTAKUMAが「なんで今日、AIR JAMが開催されたか!? なんでハイスタが、復活を遂げたか!? 東北に届けようぜ!!」と語ったように。the HIATUSの細美が「震災以降、一番嬉しかったニュースは、ハイスタの復活でした。何か賞が、みんなを元気にしたで賞みたいなのがあったら、あの3人に贈って欲しいです」と語ったように。そしてBRAHMANのTOSHI-LOWが「ライブ中に死んでもいい、っていう気持ちはあの頃と変わらねえけど、今日は、今日だけは、次のバンドが観てえ」と語ったように。大トリを務めるハイスタ復活の絶対的な根拠となるものは、希望であった。ロック・シーンにおいては「AIR JAM世代」という時代の基準を生み出し、ユース・カルチャー全体においてもひとつの揺るぎない指針となりながら、AIR JAM 2000を最後に活動を停止していたあの3人が、この2011年に帰ってくるということ。その根拠は、我々にとっての100パーセントの希望によって成立していた。スタンド席を埋め尽くすオーディエンスからはウェーブが巻き起こり、AIR STAGEに3人が姿を見せると、凄まじい歓声が沸き上がる。
「子供連れの奴はしっかり手にぎっとけよ! いくぞ!“STAY GOLD”!!」と難波が言い放ち、それはもう当たり前のことのように、あっさりと、あの黄金のトライアングルの呼吸は、鳴った。子供の頃に覚えた自転車の漕ぎ方を体が覚えているように、あの3人は、あの3人だけは、ハイスタの乗りこなし方を覚えていた。あんまり簡単に鳴ってしまうから、周囲のモッシュで揉みくちゃにされながら、BRAHMANのときに必死で堪えていた涙が、簡単に零れてしまった。続いて“MY HEART FEELS SO FREE”。もちろん、燃えるような赤い髪の難波とブラック&ゴールドで染め分けた健ちゃんの後ろに、よりプロフェッショナルで落ち着いた雰囲気を纏ったツネがいるというこの構図は、かつて見たことのない2011年のハイスタだ。震える。でも、それぞれに技術と経験が上乗せされている部分があっても、その呼吸は間違いなくハイスタのものなのだ。「夏は終わらないね。恋してる?」と難波の一言から今度は“SUMMER OF LOVE”へ。ハイスタが、ハイスタの曲をやっている。それだけで、つくづくなんてカッコいい3人組なのだろう。
一層ファストに転がる“CLOSE TO ME”(なんというか、こういう高速メロディック・パンクならではのグルーヴに「ハイスタ感」をひしひしと受け止められるのだ)を経て、「知らない人もいらっしゃると思うんだけど、Hi-STANDARDっていうバンドです。俺たち、日本のために結集したんだよ。本当だよ」と健ちゃんが笑いながら語る。知ってるよ、そんなことは。だからこうして、スタジアムから溢れ出さんばかりの人が、沸騰しているのである。突き抜ける最高の疾走感“DEAR MY FRIEND”から、ファット・マイクまでもが大喜びで乱入する“WAIT FOR THE SUN”でのシンガロングへ。“TEENAGERS ARE ALL ASSHOLES”ではイントロからギターを弾きまくっていた健ちゃんが「今日出てくれた14バンドも、みんな気持ちは同じです」と告げると、「東北どっちだ? 届けよう。今日、元気を持って帰ってさ。俺たちが力を合わせれば出来ねえことなんかないよ、ほら」と難波が復活した自分たちの姿を指して言う。そして闘争モードで“FIGHTING FISTS, ANGRY SOUL”を披露するのだった。
「思い出したけど、ノーエフ(NOFX)と北海道に行ったとき、おまえらチューナー使え、ってマイクに言われたね。まあ、俺らパンク・ロックだからね」という難波の思い出話が口をつくと、健ちゃんが“LOVIN’ YOU”を1コーラスだけ弾き語りして喝采を浴びる。「うわあ、それが聴きたかったあ!」とは難波の弁である。そしてあっという間にたどり着いてしまった本編ラストは、こちらもカバー曲“CAN’T HELP FALLING IN LOVE”。メロウでタイムレスな旋律が彼らのパンク・サウンドに弾けるのだった。アンコールで再登場すると、健ちゃんは「言葉も無いよ、ありがとう」と告げる。難波は「これで終わりじゃないよ、続けよう。持って帰ろう」と語って、“STARRY NIGHT”を大シンガロングとともにプレイする。最後の最後にエモーショナルな“BRAND NEW SUNSET”を届けて万感のフィニッシュ。難波は、晴れやかな笑顔を見せていた。健ちゃんとツネは、泣きそうな顔で、やはり笑っていた。「また来年もやろう!」という難波の言葉に、もう一度大歓声が沸き上がる。来年の春には、東北でのAIR JAMの企画が進められているのだ。それにしても、本当に眩しい復活劇だった。そうでなければならない。こんなにもただ、希望のためだけに機能する復活劇はない。それをステージ上で完璧にこなしてみせるバンドもいない。彼らは、きっと戻ってくるだろう。ハイスタに出会うためのステージを、またきっと作り上げるだろう。(小池宏和)
セット・リスト
磯部正文バンド
1:#4
2:Paper airplane
3:Do we know?
4:8.6
5:琴鳥のeye
6:新利の風
7:WALK
10-FEET
1:RIVER
2:VIBES BY VIBES
3:super stomper
4:1sec.
5:STONE COLD BREAK
6:goes on
Pay money To My Pain
1:Drive
2:Weight of my pride
3:Paralyzed ocean
4:Greed
5:Pictures
6:This life
SCAFULL KING
1:YOU AND I,WALK AND SMILE.
2:BRIGHTEN UP
3:SAVE YOUR LOVE
4:WHISTLE -LP
5:NEEDLESS MATTERS
6:NO TIME
7:WE ARE THE WORLD
8:IRISH FARM
FACT
1:a fact of life
2:the shadow of envy
3:this is the end
4:error
5:purple eyes
6:backstabber
7:slip of the lip
Murphy's Law
1:INTRO
2:QUEST FOR HERB
3:BEER SONG
4:SKA SONG/SKIN HEAD GIRL
5:TIGHT
6:PANTI RAIP
7:Somebody's Gonna Get Their Head Kicked In
KGDR
1:INTRO
2:平成維新
3:UNSTOPPABLE
4:空からの力
5:ハルマゲドン
6:未確認飛行物体(TRACK 差し替え)
7:F.F.B.
8:ドライブバイ
9:真実の弾丸
10:アポカリプスナウ
11:見回そう
LOW IQ 01 & MASTER LOW
1:LITTLE GIANT
2:SWEAR
3:WAY IT IS
4:F.A.Y.
5:SO EASY
6:Makin' Magic
7:TOAST
8:FIREWORKS
TURTLE ISLAND
1:SELF NAVIGATION
2:異端坊
3:この世讃歌
4:八百万星
5:平成ランチキ浮世の亡霊
6:斑デ踊レ
WAGDUG FUTURISTIC UNITY
1:RAM THE CRUSH
2:GOT LIFE
3:SYSTEMATIC PEOPLE
4:WHY?
5:ILL MACHINE
6:DISCOLOR
7:X-STEREO
the HIATUS
1:The Ivy
2:The Flare
3:Monkeys
4:Bittersweet / Haching Mayflies
5:西門の昧爽
6:ベテルギウスの灯
7:Insomnia
Me First and the Gimme Gimmes
1:LEVING ON A JET PLANE
2:OVER THE RAINBOW
3:HERO
4:WHO PUT THE BOMP
5:SUMMERTIME
6:CCC
7:I BELIEVE I CAN FLY
8:ALL MY LOVIN'
9:LINDA LINDA
10:END OF THE ROAD
マキシマム ザ ホルモン
1:恋のメガラバ
2:What's up,people?!
3:maximum the hormone
4:シミ
5:皆殺しのメロディ
6:A・RA・SHI
BRAHMAN
1:ARRIVAL TIME
2:THE ONLY WAY
3:SEE OFF
4:SPECULATION
5:賽の河原
6:BASIS
7:CHERRIES WERE MADE FOR EATING
8:BEYOND THE MOUNTAIN
9:ANSWER FOR…
10:霹靂
Hi-STANDARD
1:STAY GOLD
2:MY HEART FEELS SO FREE
3:SUMMER OF LOVE
4:CLOSE TO ME
5:DEAR MY FRIEND
6:WAIT FOR THE SUN
7:TEENAGERS ARE ALL ASSHOLES
8:FIGHTING FISTS, ANGRY SOUL
9:CAN’T HELP FALLING IN LOVE
EN-1:STARRY NIGHT
EN-2:BRAND NEW SUNSET