KREVA @ 日本武道館

KREVA @ 日本武道館
KREVA @ 日本武道館
KREVA CONCERT2011「GO」2日目。この武道館のステージ、2006年にヒップホップのソロ・アーティストとして初の公演を実現させてからこれで7回目(2daysを1度にカウントすれば4度目)となるわけだが、今では「KREVAが武道館にいること」に対して驚きとか意外性とか、全くない。「KREVAといえば武道館」くらいのフィット感。もう、このサイズで当たり前、くらいの。それは開演前から十二分に理解していたつもりだったのだが、そんなこちらの認識をあっさりと上回るスケールのライヴを今日のKREVAは見せてくれた。

開演時間を5分押した18時5分、会場が暗転し、KREVAがステージに現れる。金ピカのスーツに銀ピカのサングラスと、ド派手な格好だ。ステージの真ん中に立ち、そのサングラスをゆっくりと外して不敵に観客を見つめる。変わったことは何もしていないのに、そんな彼の一挙手一投足に大きな歓声が巻き起こる。のっけからスター性全開である。そして始まった1曲目は“基準”。新作『GO』の1曲目でもあり明らかにライヴのオープニングにぴったりな曲なので、ある意味予想通りの選曲のはずなのに、音源の数倍凶暴になった音像にヤラれてしまう。低音が強調されたトラックとかすかに前ノリ気味のKREVAのラップがぶっとく、なのにキメ細やかなビートを練り上げていくのだ。「マシンガンのように小回り良く連射される大砲」、そんな殺傷力の塊のようなイメージが浮かぶ音。それが5曲目の“成功”まで畳み掛けられるように続くのだから、もうヘロヘロ。で、メロメロ。
今日は基本的に全編を通してKREVAがそうしたストイックな「ビートの鬼」モードだったため、後に“微炭酸シンドローム”と“蜃気楼”でそれぞれ阿部真央と三浦大知が登場したときには、音源での溶け合うような感じと異なる、「MCとシンガー」がぶつかり合うようなグルーヴが生まれていて新鮮だった。

KREVA @ 日本武道館
KREVA @ 日本武道館
圧巻だったのが、客を座らせ、ピアノの鍵盤のところに埋め込まれたサンプラーの「押し語り」で演奏された“音色”。サンプラーにはピアノの音が入れられているため、音はほとんどピアノ弾き語りであり、つまり極めてシンプルなトラックの上でKREVAが歌うのだが、まるで違和感がなかった。トラックは別物、ラップのフロウもかなり手を加えられているのに、印象は完全に「あの」“音色”のまま。“音色”ってKREVAの歌モノの中でも(音数は少ないけど)リズムが先鋭的な、「耳を凝らすほどビビる」曲だと思うのだが、それをこんな簡素なアレンジで、しかも先鋭性を失わないままにやってしまえるということは、今の彼はもうどんなトラックにでも自在にラップを乗せることができる、ということなのだと思う。音楽家としての能力値が桁違いすぎるのだ。
そもそも“音色”が収録されたKREVAのソロ・デビュー作『新人クレバ』は彼の先鋭性がひたすらに極まった、ほとんど狂気スレスレの、ラディカルの塊のような作品だった。紛うことなき傑作だった。しかしその後、セカンド『愛・自分博』から前作『心臓』まで、彼はその前衛的な音楽家としての側面を控え、よりポップに、開かれた作風を追求することを選んできた。それは、より多くの人間に自分の音楽を届けることを選択したからこそのことだと思う。その道のりがどれほど豊かなで濃密なものだったかは日本に暮らす音楽ファンなら少なからず誰しもが知るところだろう。特に本人も最高傑作と語った『心臓』は、個人的にもヒップホップ・アーティストが鳴らすことのできるポップの最良形だと断じてしまいたくなるほどの大名盤だったと思っている。実際、「『心臓』みたいなアルバム」を作り続けても、この先10年は我々ファンを満足させられるし、売り上げも充分に得られたはず。だが、KREVAはその、傍目には安定と安心に満ちたようにも思える場所に定住しなかった。再び、この国のヒップホップを大きく前進させる方向に舵を切ったのだ。その意思は、『GO』の中に明確に表現されていたと思う。なにしろ、トラックもフロウも過剰なほどに斬新で、つまり聴いたことのない音・組み合わせすぎて、聴いているうちに脳の今まで仮死状態だった部分がうねりを上げて稼動し出すような錯覚に襲われるヤバい曲が、12曲も揃えられているのだから。しかし、その内容に歓喜すると同時に、1つ疑問が浮かび上がった。KREVAはもう、今以上に開かれていくこと、ポピュラーな存在になっていくことを止めてしまったのか?と。何しろ、明らかに日本最大規模のMCでありながら、「もっと売れたい」と公言し続けてきたその強すぎる欲求こそKREVAというミュージシャンを「これまでの日本のヒップホップ」の枠に収まらない異形の存在に押し上げた原動力だと思っていたため、困惑してしまったのだ。だけどその疑問は、今日のライヴによって一気に晴れていった。
PVでの、曲の後半に長いアカペラでのラップが入るヴァージョンで演奏された“C’mon , Let’s go”でそのアカペラの部分に自然とハンドクラップや歓声、コーラスでは今日一番の合唱が起きていたのが象徴的だったが、どれだけラディカルなことをやろうと、もう武道館クラスのハコを優に掌握してしまうスケールを彼自身が有してしまっているのだ。曲が、以上に、KREVAそのものが。だから、必ずしもアルバムをポップに振り切れたものにする必要がなかったのである。新たなポップ・アンセムの力でアルバムを広げていくことをせずとも(“瞬間speechless”や“アグレッシ部”といった完成された歌モノでの客席の一体感もまた格別なのはもちろんだが)、自身の純粋なMCとしての力によって馬鹿デカい規模で見た人間を巻き込んでいくことができるのだから。もし、自分が「“スタート”と“くればいいのに”は好きだけどアルバムは持ってなくて、友達に誘われて今日とりあえず来てみた」みたいなやつだったとしたら『GO』買っちゃうもん、絶対。こんなライヴ見せられたら。つまり、KREVAは今日本で一番尖がった場所にいながら、そこにこれまで以上に大勢の人間を連れてこようとしているのだと思うのだ。そして、そんな夢のようなことに挑んでいるのに、誰も不可能と言えない実力・才能・立場を今のKREVAは持っている。彼はもうずっとオンリー・ワンの存在だけど、その「オンリー・ワン度」が史上最も高まっているのが、今のKREVAなのだと思うのである。

最後の最後、2回目のアンコールでやった“EGAO”が非常に素晴らしかったのだけど、今日やったのはこのツアーでのスペシャル・ヴァージョンということなので、詳細は伏せよう。そう、KREVAは来年1月15日の戸田市文化会館を皮切りに全18公演のホール・ツアーに出るのだが、昨日と今日のライヴはそのツアーの初日扱いであるというのだ(だから、ツアーとしては全20公演になるのか)。また、KREVAは「初日なんでこれからどんどん凄くなっていくと思う」と言っていた。これ以上どう凄くなるのか、ちょっと見当もつかないが、KREVAが言うのであれば本当にそうなってしまうのだろう。ツアーに行かれる方、覚悟を決めて、待ちましょう。(長瀬昇)

【セットリスト】
1.基準
2.ストロングスタイル
3.ACE
4.パーティはIZUKO?
5.THE SHOW
6.成功
7.H.A.P.P.Y
8.ビコーズ
9.微炭酸シンドローム feat.阿部真央
10.瞬間speechless
11.スタート
12.かも
13.runnin’ runnin’
14.音色
15.アグレッシ部
16.国民的行事
17.挑め
18.Have a nice day!
19.最終回
20.蜃気楼 feat.三浦大知
21.C’mon , Let’s go
22.KILA KILA

アンコール1
23.呪文
24.探究心
アンコール2
25.EGAO
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする