「今日は(SHIBUYA PLEASURE PLEASUREの)6日目。同じ場所でそんなにやることないもんやから、ツアー最終日ぐらいのつもりでぶっ飛ばして行きますんで……まだ北陸も沖縄もあんのにね(笑)。ゆっくり……楽しんでくれていいと思います」。トータスはグラスの水ですすいだブルース・ハープの飛沫を、最前列の座席めがけて悪戯にビャッと振り飛ばしてみせる。喜んでいるとしか思えない悲鳴と、笑い声がホール内に上がるのだった。10/7の広島からスタートしたツアー『トータス松本 ひき・がたり!!』。公演タイトルそのままに、トータス松本が一人きりで弾き語りのショウを繰り広げるステージであり、今回レポートするステージは全28本のうちの25本目だ。今後は金沢、新潟、そして12/4沖縄でのファイナルとツアーが続く。そういうわけで本レポートでは、演奏曲などのネタバレについての記述はなるべく控えますが、今後の公演に参加予定の方はどうぞご注意を。
ステージ上には、上手からピアノ、中央のトータスを取り囲むように数本のアコースティック&エレクトリック・ギター、三線、テーブルの上にブルース・ハープ、トータスの背後にギター・アンプ、下手にバス・ドラムとハイハット、小さなシンバルのみで構成されたシンプルなドラム・セットが並んでいる。これらを一人駆使してパフォーマンスが進められるのだが、ホール内に鳴り響くのはそういった楽器の音とトータスの歌声だけではない。オーディエンスの手拍子や歌が、演奏の一部として重要な役割を担う場面も多い。もちろんそれを焚き付けるのはトータスの声であり素振りなのだが、否応無しに受け入れざるを得ないという場の構築と声の説得力には、改めて強烈なものがあった。弾き語りと言っても、トータスは抜きん出た演奏テクニックを誇るギタリストというわけではない。とにかく気持ちで弾き倒し、すべてを唯一無二の声でカヴァーして表現を成立させる。彼の歌の、音としての振動と「意味」としての振動を交互に浴びせかけられ、いてもたっても居られずに声を上げ、手を打ち鳴らす。そういうコミュニケーションによって成立したショウであった。
序盤はオリジナル・ソロ作からのレパートリー、中盤に洋邦のカヴァー・レパートリーを中心に配置し、ところどころにウルフルズの楽曲が挿入される。なのだが、ウルフルズの楽曲群というのは必ずしもシングル曲ばかりではなくて、カップリング曲やアルバム収録曲も意外なほど多く含められる。そもそも今回のツアーにはセット・リストが用意されておらず、それが弾き語りならではの醍醐味でもあるのだが、日によって大まかな流れは考えてあるにしても、曲間でトータスは選曲について考え込む素振りを見せたり、一度ギターを手にとっても首を傾げて交換したりしている。「ハァ……今日はちょっとアッパーな感じで。昨日は頭から静かなやつやったら、そのシートと一緒にずーんと沈んでしまってね」。豊富なレパートリーがあるというのも、こういうときは楽ではない。決して通好みの渋い選曲をしているわけではなくて、ステージの進行を考えてその時折に見合った楽曲をプレイしているのである。
悲しすぎて、怒りすぎて笑うしかないというブルースを転がし、またあるときは優れたソングライターとして旋律と歌心を時間に刻み付けてゆく。右足でバスドラを、左足でハイハットのペダルを踏みながらギターを弾いて歌う、ワンマン・バンドのエンターテイナー=トータス松本には、誰だって立ち上がって喝采を送るだろう。「じゃあ、立ったまま行くかあー!」と披露されるのはお馴染み“ガッツだぜ!!”だが、これを無理矢理オリジナルそのままのテンポとディスコ・グルーヴでプレイしてしまう。ダブル・ネックのギター(片方はベース)にワウ・ペダルを噛ませて鳴らし(つまり、このときはドラム無しだ)、客席のオーディエンスを《ウィ〜ユ〜ウ〜ウィ〜ユ〜ウ〜♪》と《ガッツだぜ!!》のパートに分けて長々とコーラスを歌わせる。「弾き語りだからオリジナルの再現は無理」には逃げない、むしろ「無理目と思えてしまうようなトライアルにこそ楽しさと喜びがある」。そんなトータスの生き様に「やるからお前らもやれ」というギヴ&テイク精神と紙一重のサーヴィス精神が加味された、見事なパフォーマンスであった。だから、この人が渋いだけの選曲や演奏などするはずがないのである。
トータス松本の表現はロマンチックだ。海外の歴史的ポップ・ソングのダイナミズムを日本語のポップ・ソングに分かりやすく落とし込んで見せるというトライアルも、分かりやすさはそのままソングライター/シンガーとしての高みを目指すトライアルも、言ってみれば凄腕のミュージシャン達がハウス・バンドとして揃うことも多かったクラシック・ソウルのダイナミズムを友人と作ったバンドでどうにかやってしまおうとするウルフルズのトライアルも、その道程が過酷であればあるほどにロマンチックである。過酷なことはやっている本人が一番良く分かっているはずだ。過酷なプロセスを歌うから、彼のラヴ・ソングは途方もなくロマンチックなものになる。トータス松本の表現を笑うのは自由だし、笑われてなんぼという所もあるだろう。しかし、3.11直後のACのテレビCMに、トータス松本の顔と声が引っ張り出されたのは、結局、彼が過酷な道程を生きる者の記号として認知されていたからに他ならないはずだ。
本編中、昂りすぎてマイクにしたたか顔面を打ち付けたトータスが、「ベテランになるとそういうことないんかなあ……ベテランの意味が分からん。《俺もベテランになったから》とか、言わないと思う。ベテランの定義って何!?」と語っていたことにも象徴されるような、プロフェッショナルな志とキャリア、それと裏腹なチャレンジング・スピリットが共存するステージであった。何度かリクエストも募っていたのだが、アンコールの最中に2階席後方から飛んだ「“年齢不詳(の妙な女)”やってください、お願いします!」という切実な声に、「マニアックやなあ……」と苦笑しつつも応えたときの熱演ぶりも素晴らしいものであった。本編20曲、ほとんど第2部かというアンコールで9曲。2時間45分に渡って、あの国民的ソウル・マンが爆発し続けていた。(小池宏和)
トータス松本 @ Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
2011.11.23