ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ TOKYO DOME CITY HALL

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ TOKYO DOME CITY HALL - pics by Mitch Ikedapics by Mitch Ikeda
ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ TOKYO DOME CITY HALL
何から優先してレポートすべきか迷うほど、スーパー・ゴージャスな一夜だった。約1時間半のパフォーマンスの一体どの部分がこの日のノエルのショウの最重要ポイントであったのか、正直まだきっちりと把握できていない。だって、キャパ3000のスモール・ヴェニューで“ドンルク”の大合唱が起こったことはもちろん記念碑的出来事だし、ここまで饒舌なノエルのギター・ソロを聞けた感動についても書きたいし、ノエルのソロ・ナンバーとオアシスのナンバーの地続きの感覚は特筆すべきものだったし、ノエルのユーモアセンスが炸裂したフレンドリーなMCについてもレポートしたいし、リアムのビーディ・アイとの対比もやはり避けては通れないトピックだし……そう、とにかくあらゆる意味で、あらゆる側面から昨夜のノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズのTOKYO DOME CITY HALL公演がエポックメイキングな一夜であったのは間違いない。

今回のプレミア来日に合わせて5月には武道館を含む再来日ツアーも決まり、ノエルのソロはここ日本でも本格的かつ永続的な活動期に入ろうとしている。そう、今後のノエルはノエル・ギャラガー本来のスケールに見合った大規模な活動にシフトしていくわけで、その点を踏まえて考えてもやっぱり今回のCITY HALL公演はあまりにも貴重な機会だったと言える。ノエルが日本で数千人クラスのステージに立つのは95年の『モーニング・グローリー』ツアー以来のことだし、それに加えてCITY HALLの三層構造の半円形な作りが今回の彼のパフォーマンスの親密さに絶妙にマッチしていたように思う。縦にドーンと長い大箱クラブとは違い、桟敷席的な三層がぐるっとステージを囲むCITY HALLの物理的近さは特筆すべき点で、喩えるなら日本には少ない英ロイヤル・アルバート・ホールのような劇場型のヴェニュー、しかもRAHの半分のスケールで、ノエルの、オアシスの楽曲を聴ける機会なんて、過去の来日では一度もなかったことだ。そんなCITY HALL公演の初日、なにがあったのか時系列に沿ってレポートしていくことにする。

1曲目、青いライトに照らされた薄暗いステージにノエルが登場する。「ハロー」と短く一言挨拶、怒号のような歓声を縫って始まったのは“To Be Free”だ。ノエルのアコギと共に幕開けるスロースターターで渋いオープナーだったが、この間にドラム、ギター、ベース、キーボード、そしてノエルの5人編成を確認する。しかし続く“Muckey Fingers”が実に白眉で、オアシスの楽曲を「素材」として使いステージ上で改めて調理する、オアシス時代には想像だにできなかったライヴ・ヴァージョンならではの面白さを感じさせるパフォーマンスだ。続く“Everybody’s On The Run”はこれまた新機軸のキーボード、メロディをなぞるキーボードがめちゃくちゃ新鮮なナンバーだ。

“Dream On”まで終えたところで「東京に戻ってこれてうれしいよ」とノエル。会場から「ノエルー!」「兄貴―!」「マンチェスター!」「アイ・ラブ・ユー!」「“Some Might Say”やって!」等々、とにかく雑多な掛け声がひっきりなしに飛びまくる異様な興奮状態が最後まで続いたが、それに対しノエルは「アイ・ラブ・ユー・トゥ」「は?なんだって?」「おれがかっこいいって?知ってる」などと曲間に軽妙に返しながらフランクにショウを進めていく。何か面白いことを叫べばノエルが反応してくれる――という未だかつてない状況に舞い上がったファンの声援は、途中から大喜利みたいなことになっていたが。昨年のビーディ・アイのZEPP公演時にはリアムに対してここまで話しかけるような声援は飛ばなかったから、ファンにとっては弟よりも兄貴のほうがどこかとっつきやすいムードなのだろう。

“If I Had A Gun”では早くもオーディエンスのシンガロングが巻き起こり、「一緒に歌う」ことが重要な機能のひとつであるオアシス・ナンバーの特性がノエルの曲にも引き継がれていることを証明していた。続く“The Good Rebel”はハーモニー・タイプの名曲で、インターミッションではノエルのギター・ソロが思う存分披露される。こんなにイケイケの楽しそうな表情でギターを弾きまくっているノエルは初めて観た気がする。そして新曲の“Freaky Teeth”はアシッドなオルガンが大フィーチャーされたヘヴィ・グルーヴ・ナンバーだ。ここまでの前半戦はノエルのソロ・ナンバーを主体にしたセクションだったと言えるだろう。

そして中盤の2曲がアコースティック・セットとなり、いきなりの“Wonderwall”のイントロに発狂寸前の歓声が沸き起こる。が、ノエルは飄々とした面持ちで“Wonderwall”のAメロ&Bメロを思いっきりアレンジした節回しで歌い上げるものだから、曲の冒頭からシンガロングしようと意気込んでいたファンは出鼻をくじかれることに……ここら辺のじらしプレイにも兄貴の余裕と言うかユーモアが感じられてニクい。もちろんサビは満を持しての大合唱だ。そして続いて披露されたのが“Supersonic”のこれまたアコースティック・ヴァージョン。“Supersonic”を、オアシスの「始まり」の曲をしっとりしたアコースティックで歌い上げる、そこにはノエルの挑発のようなものすら感じた。

そんなアコースティック・セットを挟んでの後半戦は、ノエルのソロ・ナンバーにオアシスの「隠れた名曲」がインサートされるセクションになっていた。前半のソロ・ナンバーがノエルの新機軸をプレゼンするものだったとしたら、後半に並んだそれらはむしろノエルのソロとオアシスとの地続きの感覚を優先した、メロウでメロディアスなナンバーが集められていた印象だ。“Talk Tonight”と“Soldier Boys & Jesus Freaks”、“Half The World Way”と“Broken Arrow”の落差は殆どなく、「ノエルのソロも、オアシスも、すなわちそれはノエル・ギャラガーその人を指す」という事実を改めて厳かに告げる圧巻のパフォーマンスだった。そう、「唯一の包括的存在としてのノエル・ギャラガー」を克明に刻みつけたこの夜のノエルの横綱相撲的ステージを観ていると、リアムがビーディ・アイをあんなにも愚直なゼロ地点から始めなくてはならなかった理由を、改めてひしひしと実感せざるをえなかった。

そしてアンコール。もうこのアンコールは完全にファン・サービス、ノエルがファンのために用意したギフトに他ならなかった。アンコールの冒頭、「フォー・ジャパニーズ・ファン・オンリー」とノエルがわざわざ断りを入れて始まったのは“ホワットエヴァー”だ。文末のセットリストを見てもらえれば分かると思うけれど、本来このアンコールはオアシスにおけるノエルのヴォーカル曲のみで構成されるべきものだったはずで、そこにリアムのヴォーカル曲である“ホワットエヴァー”が混ざったリストはまさにイレギュラーな日本限定仕様、日本のファンの想いを100%くみ取ったノエルの粋な計らいである。

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ @ TOKYO DOME CITY HALL
そしてラストはもちろん“Don’t Look Back In Anger”。ノエルはサビに差し掛かる直前にマイクスタンドからすっと離れて一歩後ろに下がった。そう、つまりはそういうことで、この夜の“Don’t Look Back~”は完全に私達オーディエンスのものになった。3000人とステージの5人とで分かち合った完全無敵の爆音シンガロング。フロアから、三層の各階から、ステージにむかって一転集中で放射される歌声と、熱と、光と、興奮――その奇跡のような光景がオアシス解散の産物だと思うとなかなかに複雑でもあるけれど、そんな過去への屈託を凌駕して余りある、文字通り「Don’t Look Back」なノエルの現在、オアシスのその後の物語への期待がそこには充満していた。(粉川しの)

16.01.2012 TOKYO DOME CITY HALL
セットリスト
(It’s Good) To Be Free
Mucky Fingers
Everybody’s On The Run
Dream On
If I Had A Gun
The Good Rebel
The Death Of You And Me
Freaky Teeth (新曲)

Wonderwall (acoustic)
Supersonic (acoustic)

Record Machine
What A Life
Talk Tonight
Solider Boys & Jesus Freaks
Broken Arrow
Half The World Away
Standed On The Wrong Beach

(encore)
Whatever
Little By Little
The Importance Of Being Idle
Don’t Look Back In Anger
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