2009年のPUNK SPRING+単独1本以来(ツアーとしては2005年以来)となる、ザ・ダムドの来日公演。バンド結成35周年ツアーの一環として行われる東名阪ツアーであり、大阪を経ての東京・渋谷公演だ。本テキストがアップされる1/29には名古屋でのステージが控えているので、参加予定の方は以下レポートの閲覧にご注意ください。さて、ガッチガチのパンクス・スタイルからゴシックなコスプレ、制服で駆けつけた学生までが揃う賑々しいSHIBUYA-AX。サポート・アクトのBut by Fallが温めたステージに、いよいよダムドが登場だ。
赤いベレー帽のキャプテン・センシブル(G.)、それにスチュ・ウェスト(B.)、モンティ(Key.)、ピンチ(Dr.)という顔ぶれがそれぞれ定位置に着いたところで、まずはキャプテンが「ハロー、ウィー・アー・ザ・クラッシュ!」と軽く一発笑いを取る。「オー、ソーリー。ウィー・アー・ザ・ダムド」と改めて喝采を浴び、“Wait For The Blackout”のイントロをプレイし始めるのだった。そしてステージ中央に歩み出てくるのは、ヴァンパイア伯爵もといブラックのスリーピース・セットアップとサングラスでダンディに決めたデイヴ・ヴァニアン(Vo.)。デイヴは、09年には急遽来日を中止してしまった経緯があるので、そのリヴェンジ的意味合いを持つツアーでもある。メロディアスな楽曲の疾走感の中で、漆黒の闇の訪れを歌い上げる彼の姿は何ともサマになっていた。
このところのダムドは、音楽的な広がりを見せた大作4th『ブラック・アルバム』の再現をテーマにしたセット・リストを披露することが多く、今回のステージでも序盤をアルバムの曲順通りに見せてくれる。“Lively Arts”では発信器のような波形のシンセ・フレーズを連打する、豊かなパーマ・ヘアのモンティ。ドリーミーなギター・フレーズを奏でながら、“Silly Kids Game”でキャプテンは自らリード・ヴォーカルを務めた。と、このまま『ブラック・アルバム』再現が続くのかと思いきや、ここで急転直下にファストなパンクが爆音で走り始める。きた、“New Rose”だ! 一気にOIコールを巻き起こしながら、デイヴもヴォルテージを増幅させたヴォーカルを投げ掛けてくる。センチメントを置き去りにするこのスピード。パンクとしてのダムドはやはりここにある。
自爆覚悟で世相をメッタ切りにするのでもなければ、建設的な抵抗を歌うヒーロー・バンドでもない。パンクとしてのダムドは《I don’t Know why》であり《just wanna run around》であり、うまく形にすることの出来ない感情をひたすらドキュメントするためにスピードを必要としたバンドだった。その後は表現のヴィジョンが深まるにつれてメロディもサウンドもより豊かになっていったが、驚くべきなのはこのスピードと共に叩き付けられる原石のままの感情の形が、今でも有効だということだ。だってこれは、まるでインターネット社会に溢れ返った、虚飾のない、生々しくてそれゆえに力強さを持つ言葉たちと同じものじゃないか。しかも、結局のところこのスピード感は、結成35周年のダムドをダイナミックなライヴ・アクトたらしめているのだ。
キャプテンが「偉大なるソングライター、ブライアン・ジョーンズ(本当はブライアン・ジェイムス)の曲だ」とニヤニヤしながら説明を加え、濃密なダーク・サイケのサウンドスケープ“Feel The Pain”からデイヴがジャケットを脱ぎ捨てる狂騒の堕天使パンク“I Fall”へと繋ぐ。その前後には“I Just Can’t Be Happy Today”や“The Shadow Of Love”といった80年代中期までを視野に収めたシングル曲も配置され、“Love Song”ではオーディエンスのシンガロングを巻き起こすというサービス精神発揮のセット・リストになっていった。モンティのキーボードも大活躍で、ゴシック趣味の不穏なフレーズを弾き倒したりしている。“13th Floor Vendetta”などのこの手のナンバーでは、既にベストも脱いでシャツのボタンを1つ2つ開けていたデイヴの、伸びやかなテナー・ヴォイスが本領を発揮してこれまた最高だ。
そして、スチュのパンチの効いたベース・イントロにオーディエンスが食らいついて沸く“Neat Neat Neat”。スリリングなコンビネーションが盛り込まれたライヴ感溢れるプレイだ。“Plan 9 Channel 7”を披露するとキャプテン、「どうだ? ザ・クラッシュと同じくらいいいだろ? あと、アキハバラ・フォーティー・エイトも好きだな。ファンタスティックだよ」とノリノリで“ヘビーローテーション”をアカペラ歌唱し始めるものだから、オーディエンスは騒然&大喝采である。やばい、楽し過ぎる。そこから「じゃあ“FAN CLUB”な」と繋げてしまうのも技ありだった。キャプテンは、紙袋を頭にすっぽり被ったオーディエンスの一団にも「それいいな。ジョニー・ロットンか? いや、 DORAEMONみたいだな」と声を掛けたりもしていてとにかくサービス精神が旺盛。本編ラストもマイクをフロアに向け、アンセム“Ignite”でデイヴの迸る熱唱とオーディエンスの歌声を競わせるかのように楽しんでいたのだった。
アンコールでは、先にモンティが登場してテクニカルなキーボードのソロ・プレイを聴かせてくれる。他のメンバーは何をしているのかと思えば、やった、キャプテンはあのピンクのフェイクファーの全身スーツに着替えて再登場だ。そしてパンキッシュに“Anti-Pope”や、キラッキラの“Eloise”を披露。名残惜しそうに「最後の曲になっちゃったな」と告げてドラマティックな“Smash It Up (Part 1&2)”でアンコールを締め括る。つくづくファンでホットな、2012年のザ・ダムドであった。本レポートを読んで頂いたところで、このパフォーマンスの素晴らしさは決して損なわれるものではないだろう。可能な方はぜひ、29日の名古屋公演に足を運んでみて欲しい。(小池宏和)
ザ・ダムド @ SHIBUYA-AX
2012.01.28