THE PAINS OF BEING PURE AT HEART pics by TEPPEI
THE PAINS OF BEING PURE AT HEART昨年のフジ・ロックぶり、単独公演としては2010年2月からほぼジャスト2年ぶりとなるザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートの来日公演である。このバンドはデビュー当時から日本でも「その筋」とでも呼ぶべきインディ・ロック・コミュニティ――90年代初頭辺りから脈々と続く堅固なギタポ&シューゲイザー愛好者連盟から絶大なる支持を得ているバンドで、今回の渋谷クラブクアトロももちろんぎっちぎちに埋まったフルハウス。ばっと場内を見渡してまず気づくのは20代~30代の男性率が高いことで(これは確実)で、これまたぱっと見で眼鏡男子率が非常に高い(これは偏見かもしれませんねすみません)。とにかくマニアックなインディ・ロック・ラヴァーが、でも溺愛系ではなくシビアな耳を持ったファンがぎちっと詰め掛けた印象だ。
WEEKEND
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WEEKEND今回のTPOBPAHのツアーの前座を務めるのは彼らのレーベルメイトのウィークエンドだ。サンフランシスコ出身の3ピース、彼らの轟音サイケデリック、野放図ノイズの饗宴は、成形されてポップ・ソング化する前のTPOBPAHと同じマインドで鳴らされていることが瞬時に理解できるパフォーマンスで、トータル30分弱の演奏時間だったとは思えないほど濃厚な内容だった。先日リリースされたデビュー・アルバム『スポーツ』もすんばらしいのでぜひチェックを。そんなウィークエンドの段階から立錐の余地が無いほど埋まった渋谷クラブクアトロのフロアは、嫌でも温度が上がっていく。
THE PAINS OF BEING PURE AT HEART
THE PAINS OF BEING PURE AT HEARTそして開演から1時間後、いよいよTPOBPAHが登場する。オープニングは“This Love Is Fucking Right!”――デビュー・アルバム『ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート』を象徴するエヴァーグリーンなメロディ、キュートな混声コーラスからなるポッピーなギタポ・スターターに一気に沸き立つオーディエンス。が、そこから更なる歓声で迎えられたのが“Belong”――セカンド・アルバム『ビロング』を象徴するハードネスとヘヴィネスのこのナンバーだった。意外、と言ったら失礼かもしれないけど、私はてっきりTPOBPAHは草食系シューゲイズ&ギタポの典型的なバンドとして特にここ日本で愛でられている存在だと思っていた。でも実際には、TPOBPAHのファンは彼らのハード方向への進化、つまり脱草食なベクトルをきっちり理解したうえで祝福している、実にタフで健全な愛され方をしているってことが、この冒頭の2曲で早くも理解できた。
シンセがキュイーン!っと「胸キュン」の効果音のように鳴り響く“Higher Than The Stars”、と思ったら耳に痛いほど重く圧のあるベースがドリフトする“The Tenure Itch”と、TPOBPAHのビルド・アップされた演奏力が次から次へと披露されていく。セカンドで急に音がヘヴィ&ハードになるのはよくある話だけど、彼らの場合はその新モードがファーストの曲に本来あるべきだった活力を与えているのが素晴らしい。あの何かを諦めて夢ばかり見ているかのようだった彼らのシューゲイズ・サウンドが、ギター・ポップが、何ひとつ諦める必要のないワクワクする気持ち、逸る気持ちへと昇華されていく。
THE PAINS OF BEING PURE AT HEART
THE PAINS OF BEING PURE AT HEARTいわゆるギター・ポップ&インディ・ポップ界隈には「スモール・サークル・オブ・フレンズ」という定型文化した言い回しがある。要は「内輪受け」という意味で、閉鎖的なインディの箱庭主義に対する批判としても使われるし、逆にインディの純潔を囲い込み守る良心とも捉えられるタームだ。TPOBPAHは、かつて最新にして最高の代表選手のような存在だった。前回の単独公演には「こういうのを観たかったんだああああ」というインディ・ラヴァーの正直な心の叫びと、でもこの先に果たして未来があるんだろうかと漠然とうつむくような行き止まりの感覚を同時に得るものだったけど、今回の彼らは違った。囲いをぶっ壊して友達の輪を広げていくような、真の意味でギター・ポップ&インディ・ポップの力を「信じる」、その逞しさがあった。
ちょっと異質だったのは後半の“Come Saturday”から“A Teenage In Love”に至る『ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート』収録の3曲の流れで、この3曲にはかつての彼らのライヴにあった箱庭感覚、文字通りライヴ中に隔離して設けられた「箱庭」として機能していた。思春期の罪と罰、若さの傲慢と弱さ、みたいなメタファーが散りばめられたまさにTPOBPAHのセルフ・パロディのようなセクションだったのだ。しっかしクアトロがどっかーん!と爆発した“Come Saturday”のお約束はやはり半端ない中毒性だ。
THE PAINS OF BEING PURE AT HEARTアンコールは“Contender”の弾き語りで始まり“Strange”で幕を下ろすパーフェクトな新旧ソング・リレーとなった。終演後に気持ちだけじゃなくて身体も隅々まで温まっているのを感じるような、霙舞い散る寒い寒い東京の一夜に確かな手ごたえ、手触りを感じさせるショウだった。(粉川しの)
This Love Is Fucking Right
Belong
Higher Than The Stars
The Tenure Itch
Heart In Your Heartbreak
Say No To Love Falling Over
Come Saturday
Young Adult Friction
A Teenage In Love
Heaven’s Gonna Happen Now
The Pains Of Being Pure At Heart
(encore)
Contender
My Terrible Friend
Everything With You
Strange