ザ・ポーグス @ 新木場スタジオコースト

2006年のツアー、及び朝霧JAM出演以来となる来日公演で、今回は東京・一夜限りのステージ。スタジオコーストは押すな押すなの大盛況である。新作を発表したわけでもなく、というか大きな話題を呼ぶようなニュースさえもないのに、この愛され方は凄い。スタッフから「間もなく開演でーす」の声が飛んでも、バーカウンターに並ぶ列が消えないのもおもしろい。「ポーグスのライヴに、飲みに来た」「飲まずにポーグスを観られるか」と言わんばかりの、ある意味正しい作法に則った、つまりバンドもバンドならファンもファンなのである。

ザ・クラッシュのオープニングSEに乗ってメンバーが登場し、最後に姿を現してヨタヨタと歩み出るシェイン・マガウワン(Vo.)にひと際大きな歓声が上がる。シェインだけ半袖シャツにサングラスというラフな出で立ち。2012年現在においてポーグスを観に出掛けるということは、第一にシェインの生存確認のためである。呂律は回ってないし手は震えてるしの酔いどれ天使。でも、悪い方に想像を膨らませてしまっていたことが逆に良かったのか、個人的にはこの夜のシェインはすこぶる元気でゴキゲンに見えた。あくまでもシェインにしては、の話だが。

アコースティック・ギターにティン・ホイッスル、バンジョーにマンドリン、アコーディオンが賑々しく転がり出すアイリッシュ・パンク“Streams of Whiskey”で演奏がスタート。いきなりシンガロングが巻き起こってしまう。笑顔でピース・サインを繰り出しているシェインは、続く“If I Should Fall from Grace with God”でクリスピーなパンク・ヴォーカルを披露しつつ、巻き舌のシャウトまで放って絶好調だ。豊かなハーモニーの中でじっくり聴かせる“A Pair of Brown Eyes”あたりまでは、もしかするとシェイン、余り飲んでないのか? と思ってしまうぐらいだった。

スパイダー・ステイシーが挨拶してポップな“Tuesday Morning”で自らリード・ヴォーカルを務める間、シェインは中座してステージ袖に姿をくらましている。そしてカップを手に戻ってくるのだが、トラッド・ナンバー“Kitty”で歌詞が飛びまくる。とっさにスパイダーがガイド・ヴォーカルよろしく助け舟を出し、囃し声と笑い声の中で苦笑いしながら照れ隠しにくわえ煙草のシェインである。微笑ましい一幕だった。最初から最後まで完璧なパフォーマンスをこなしてしまうシェインなんて、ただの天才アーティストじゃないか。カントリー・ロック風の名曲“The Sunnyside of The Street”はばっちり決まった。ハラハラしながら観るのが楽しい。

シェインはその後も、メンバーの激しいアクションとともに繰り出されるインスト・チューン“Repeal of The Licensing Laws”やフィル・シェヴロンが歌う“Thousands Are Sailing”といった場面で姿を隠しては、暖かい喝采を受けてまた登場していた。それが、余りにもシェインな存在感を更に際立たせてしまう。前線のオーディエンスから贈られたのだろうか、スパイダーがシェインの頭に日の丸のハチマキを締め(似合う)、しかもそこで歌われるのが“The Body of an American”。それ、シュールで面白過ぎるだろう、という豊かなコミュニケーションが成立したパフォーマンスになっていった。

だんじり祭りや火祭りなどを例に挙げるまでもなく、端から見れば奇習とも思えるような祭典は民衆の間で、倫理や、時の権力による保護を踏み越えて伝承されてきた。熱狂を約束するぶっ飛んだ文化とは民衆が常に必要としてきたものであり、それをロックでやればザ・ポーグスになる。アイリッシュ・トラッドを軸足にしてカントリーやスウィング・ジャズやフォルクローレなどなどを呑み込み、一瞬で笑顔を呼び起こすサウンドと共にボロボロでギリギリの歌を共に歌う。《10ポンド貸してくれたら一杯おごるぜ》。そんなどうしようもないフレーズが、合言葉のように放たれなければならない場所があるのだ。

“Sally MacLennane”、“Rainy Night in Soho”、“The Irish Rover”という連打で爆発的に盛り上がるアンコール。酒やけしたシェインの嗄れ声は、相変わらず強靭なシャウトとコミカルな唸り声を交えながら放たれていた。それでもまだ収まりがつかないオーディエンスは一斉にフロアを踏み鳴らし、ダブル・アンコールへ。アコーディオン奏者のジェイムズ・ファーンリーが勢いよくスライディングしてくる。最後の最後は“Fiesta”だ。スパイダーがアルミのトレイで頭を打ち鳴らして拍を取り、シェインはまた歌詞を忘れている。あっはっは。年を重ねるほどにカッコよくなるパンク・バンドの、新作が作れるんじゃないかという熱い1時間半だった。元気に活動を続けて、また来日を果たして欲しい。(小池宏和)


SET LIST
01: Streams of Whiskey
02: If I Should Fall from Grace with God
03: The Broad Majestic Shannon
04: Greenland Whale Fisheries
05: A Pair of Brown Eyes
06: Tuesday Morning
07: Kitty
08: The Sunnyside of The Street
09: Repeal of The Licensing Laws
10: And The Band Played Waltzing Matilda
11: The Body of an American
12: Boys from The County Hell
13: Thousands Are Sailing
14: Dirty Old Town
15: Bottle of Smoke
16: The Sick Bed of C・chulainn

encore
17: Sally MacLennane
18: Rainy Night in Soho
19: The Irish Rover

encore 2
20: Poor Paddy
21: Fiesta
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