まだツアー初日ということもあり、ライブ中の演出やセットリストの掲載はここでは割愛させていただくが(※以降、演奏楽曲に関しては本文中に記載があります)、最新アルバム『COSMONAUT』収録曲と“ゼロ”“Smile”などアルバム後の楽曲を軸に据えた基本的な楽曲構成の面ではライブハウス・ツアー『GOOD GLIDER TOUR』を踏襲—―してはいたものの、それがこの幕張メッセの広大な空間に解き放たれた瞬間、まったく別次元の感動を伴って胸に響く。3月に急逝したフランスの漫画家=メビウスことジャン・ジロー&『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズを手掛ける山崎貴によるオープニング映像から、“三ツ星カルテット”のアグレッシブなビートで会場の空気感をじっくり確かめた後、“宇宙飛行士への手紙”の歌とサウンドが、幕張メッセと銀河を直結するような雄大な響きとともに、凛とした輝きを放っていく。初めてアリーナ・サイズのステージで鳴らされることで、『COSMONAUT』の楽曲がようやく完成した――そんな確かな実感と感激がフロアを包み込み、♪ララララーラ〜と強烈な波動のようなシンガロングを巻き起こしていく。最高だ。
そして何より、この日のアクトでひときわ強く胸に響いたのは、シリアスな歌のみならず4人一丸となって真摯な世界を描き出したハード・バラード“ゼロ”であり、ストリングス・トラックを凌駕する力強く華麗な演奏を聴かせた“友達の唄”であり、静寂の世界から魂の交響曲とでも言うべき熱量まで1曲の中で提示してみせた“Smile”であり、藤原基央の歌と心に息づくブルースにこの上ない輝度と強度を与えてみせた“グッドラック”であり……つまりは『COSMONAUT』以降の、バンプの「今」のモードを真っ直ぐ指し示す楽曲群だった。そして、『GOOD GLIDER TOUR』まで約3年半にわたって本格的なライブ活動を行ってこなかったとは思えないくらいに力強くなった、いや『GOOD GLIDER TOUR』で明確に自ら鍛え上げてきた、藤原/チャマ/増川弘明/升秀夫の4人のバンド・アンサンブルの一体感と表現力。人間が根源的に抱く悲しみや、だからこそ大事な人と分かち合う喜びを、よりヴィヴィッドに、時に冷徹に描き出す藤原の歌と言葉に、メンバーが演奏面でもメンタル面でもしっかり寄り添い伝えようとするアティテュードが、がっちりとギアの合ったサウンドからも伝わってきた。それによって、藤原の歌のスピリットが神秘的なまでの訴求力をもって頭と心を揺さぶってくる。
「みんな、久しぶり! BUMP OF CHICKENです! 『初めてライブ来たよ!』っていう人!……(観客の挙手)……『何回か来てる』っていう人!(挙手)……ほぼみんな手上げてんな(笑)。4人を代表して……本当に会いたかったです!」という挨拶から「せっかく会えたんだから、最後まで聴いてほしいので、倒れないでほしいんだよね。気持ち悪そうな顔してる人がいたら、『僕が助けましょうか?』『なんて素敵な人なんでしょう!』って始まるかもしれないじゃない?(笑)」と続く司会進行役=チャマのMCも序盤から絶好調。「みんな、4年ぶりやね! 4年間何してた? バイト? 学校? 俺らね、4年間ほぼずっとレコーディングしてた! ヴォーカル・藤原基央くんが、詞と曲を書きます。で、『できたよ』って連絡をもらって、3人が聴いて『ほんまにええ曲やなあ』って言うと、『ありがとう』って。それの繰り返しやな。レコーディングの時も、みんなに早く届けたくてレコーディングしてました!」というのは前の『GOOD GLIDER TOUR』のツアーでも聞いた話だが、この巨大な空間で、4年ぶりの幕張公演で聞くとまるっきり鮮烈に響くのが不思議だ。「千葉県のバンドなんです。ようこそ千葉県へ! 八街のピーナツ買って帰ってください(笑)」とご当地PRしていた藤原といい、「何しゃべっていいかわからないね……めっちゃ楽しいです!」(升) 「『GOLD GLIDER TOUR』、今日初めてだし、結構ドキドキしてます。でも楽しんでやらしてもらってます。ありがとう!」(増川)と感激に満ちた言葉といい、より真摯で壮大な次元へと踏み込んだBUMP OF CHICKENの表現を「日常」として全身で謳歌していることが、4人の力強く快活なモードからも伝わってきて、思わず胸が熱くなった。
広大なアリーナを大合唱とハンドウェーブの海に変えてみせた“supernova”の優しい包容力。赤黒く渦巻くようなギター・ロック・サウンドでメッセを揺らしてみせた“カルマ”。そして、性急さよりもタイトな力強さをもって鳴り渡った“天体観測”……それらの楽曲が“イノセント”や“beautiful glider”といった『COSMONAUT』の楽曲と惑星直列し、バンプと僕らの「今」と「その先」を照射していく。バンドからの最高のプレゼント的なアンコールの選曲はここではあえて伏せておくが、ともあれ「もう最終日みたいな気分になっちゃったね……感無量だね。みんな眩しいなあって。俺なんかモヤシみたいな、ひからびたカイワレみたいなもんだからさ」とか「幕張メッセでやるのは、たぶん4年ぶりぐらいだと思うんですね。その時はものすごい強風で、俺なんか飛ばされそうなくらいで……なんで俺、わざわざこんなこと言うんだろう?(笑)」とか、思いのままに藤原がしみじみ語るアンコールでのMCの1つ1つから、ツアー初日の安堵感と充実感が滲んでいたのは確かだ。「ほんと楽しかった。また、僕らのライブに来てください。またやるからさ!」と藤原は言っていた。4人の頼もしい歌とサウンドとヴァイブに身を委ねているうちに、トータル2時間半以上に及ぶステージがあっという間に終わってしまった――そんなアクトだった。ツアーは翌日=8日の幕張公演2日目を経て、3ヵ月以上にわたって続いていく。新たな旅と進化の道程は、まだ始まったばかりだ。(高橋智樹)