ダフィー @ 恵比寿リキッドルーム

ダフィー @ 恵比寿リキッドルーム - ダフィーダフィー
ダフィー @ 恵比寿リキッドルーム - ダフィーダフィー
ダフィー。洋楽情報に普段から目配せをしている人なら、音を聴いたことはなくても、その名前は知ってるんじゃないだろうか。今年3月、本国イギリスでアルバム『ロックフェリー』を発表。この作品は、直後から全英アルバム・チャートで1位をしばらく独走。その後上下を繰り返しトップ10に30週近くに亘ってチャート・インし続けている。加えて全米アルバム・チャートでも4位を獲得。近年、エイミー・ワインハウス、アデル、レオナ・ルイスなど才能溢れる女性シンガーを輩出しているイギリスだが、彼女も世界的な成功を収めたシンガーの一人だ。

9月末、満を持して国内盤が発売されたが、絶好のタイミングでの来日ショーケースが実現。今夜はCD購入者を中心にした完全招待制のイベントとなる。そのため、司会者(ちなみにタレントのシェイラでした)がいたり、トークショーがあったり、TV放映に備えてなんとクレーンやドリー(レールを敷いてその上を左右移動する台車)といった大掛かりな機材含めた6、7台の動画撮影部隊があのリキッドの場内に配員されていたりと、普段のライブとは一味違う雰囲気もあったが、ダフィーは全13曲を披露。歌声や人柄といった彼女の魅力が、満員御礼の観客に余すことなく伝わってくる一夜となった。

サポートのギタリストとともにステージに姿をみせたダフィー。暗転し静まりかえった場内に「Don’t you be wasting〜」と、アカペラで歌声が響き亘る。オープニングはアルバム中、最もシンプルながら、むせかえるような濃密さをたたえたナンバー“シロップ&ハニー”だ。その歌声は、CDで聴くよりハイトーンで、個性も強い。やや鼻にかかったハスキーでスモーキーな声質。ムーディな艶感、渋み、そして24歳の女性らしいキュートさも同居する。一度聴いてしまうと、その歌声が鳴り止んだときに、また無性にその歌声が欲しくなる。つまり、この人にしかない歌声を持っているシンガーなのだ。それゆえの禁断症状が出てくる。なんとも中毒性が高い。

2曲目からギタリスト2名、ベース、パーカッション、ドラム、シンセという6人編成のバック・バンドを従えてのパフォーマンス。「コンニチワ、トーキョー」「日本に来られてウレシイデス」と日本語のMCを連発するダフィー。結構日本語を覚えてきていて、よく記事などで「素朴な人だ」と書かれているけど、気さくで和やかな空気を作りだせる人だ。

白いミニ・ワンピースを細いベルトでウエストマークし、足元は黒のパンプス。シンプルだけど、チャーミングなファッション。そして所作も実にかわいい。60年代の女性ソウル・グループを連想させる、優雅な振付。ポイント、ポイントでお尻を突き出したり、美脚をアピールしたりと、上品なエロスも漂わせ、ただならぬ貫禄も。往年のソウル/R&Bマナーを纏っているが、あざとさは一切ない。やはりあれだけ存在感の強い女性シンガーが多数いる中で、彼女が頭一つ抜けた存在になっているのは、一見地味ながらも確固たるキャラが立っていることも要因としてあるような気もする。ビヨンセやエイミー・ワインハウスといった歌姫たちがそうであるように、歌声も所作も、思わず物真似したくなるというか、物真似する人が出てきたら爆笑必至だろうなと思わせる滋味がある。

とはいえ、彼女がここまで世界的に、今、人々に受け容れられている最大の理由は、日々の何気ない恋愛や光景にイキイキとした輝きを与えるダフィーのソウル・ミュージックに共鳴したからなのだ。近年、別にセレブになりたいわけじゃない、毎日をきちんと暮らしていくんだ、という普遍的な意味での“幸福”を求める人にとってのソウル・ミュージックが不在だった。そこにダフィーの歌はスコンと入りこんだ。ギミックやハイプに食傷気味になっている人にとっても、ダフィーの歌は、目からうろこだったんじゃないだろうか。

人口2,000人の田舎町で育ち、流行なんかとは無縁の世界で、父親が持っていた昔のレコードを聴きながら健やかに育ってきたという彼女の生い立ちや、デビューに至るまで恩人と二人三脚で才能を開花させたことはよく知られている。そんな等身大さと、浪花節的なエピソードも、なんか“安心感”があっていい。圧倒的個性の歌声と、ひたむきな情熱から生まれた普遍的なグッド・ミュージック、そして得がたいキャラクターを備えたこの歌姫。MCによれば、2009年3月頃に来日公演を予定しているようなので、今回見られなかった方は、次回お見逃し無く!(森田美喜子)
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