DOES @ SHIBUYA O-EAST

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先月リリースされたばかりのアルバム『KATHARSIVILIZATION』(読み:カタルシビリゼーション)を引っ提げた全国17本のツアー「カタルシス文明」、その12本目。アルバムとツアーそれぞれのタイトルだけ見ると少しく難しい印象を与えるが内実は全く逆で、アルバムは彼等史上もっとも陽性にして健気な意欲が漲ったものになっている。それは昨年の震災を受け、楽曲制作にあたっての意識をほぼゼロ・リセットし、まっさらな場所から新しい風景を描くべきという意識の大きな変化があったから。これまで一人称の目線から描き出される心象を孤独な風の中に泳がせるストーリーの多かった彼等にとっては一大転機作なわけだが、しかしライヴにおいては剛直球を得意とする虚飾の無い進行はそのままに、放たれるエネルギーは一層明快なものに変化するという、新しいフェーズを披露するステージとなった。

何より、スケジュール序盤にまず東北のサーキットを組んだところに彼等の本懐がうかがえるのが今回のツアーで、まず東北に届けたいという想いを果たし、そこで一層強い確信を得ることで自身も波に乗ってくるという、いいツアーの見本のようなムードに満ちていたことも大きかったと思う。

というわけで、今回のツアーは中盤に東京がブッキングされるという変則的なスケジュールとなっており、先々まだツアーは続くので、ここでは詳細なセットリストは掲載できないのだが、アルバム『KATHARSIVILIZATION』を軸にしたメニューはところどころコール&レスポンスや手拍子などで一体感と温かさをほどよく演出しながらも、なにより彼等の本懐である骨太なビートと実直な人柄がより顕わになった、まさにツアータイトル通りにカタルシスに向かって一歩一歩前進していくような、ひたむきさに満ちたライヴとなった。

開演予定時刻を5分ほど過ぎたあたりで場内がスッと暗くなるや、女性が多い場内にも拘わらず、歓声というよりは野太い応援団のような「オーッ!」という声が上がるのは、まずはいつもの彼等のライヴらしいところ。そこからほとんど間を置かず、ステージ下手からサポートギターのオサムを含む4人全員が一斉に現れ、各人の定位置につくのだが、その足取りがとにかく軽快。ベースのヤスシは曲が始まる前から、リズミカルなステップでステージ上で飛び跳ねており、それだけでここまでいいツアーを回ってきた実感がしっかり伝わってくる。場内の熱気がどんどん上昇していくタイミングを逃さず素早いセッティングから間髪入れずに始まったステージは、1曲終わったところでワタルがまずは「東京!カタルシス!」と叫び場内を盛り上げたほかはほとんどMCも入れないまま、曲を間断なく立て続けに披露していく展開に。こういう武骨な攻め方は定例ながら、しかし新アルバムからの楽曲のオープンなコーラスやメロディーの分かりやすさで着実に場内のコミュニケーションが温まっていく新たな感覚がいい。序盤で象徴だったのは、アルバムに先駆けてリリースされたシングル“今を生きる”で見られたように、歌いたいテーマがはっきりしているからこそ、その歌詞と声にフォーカスを絞りバンドサウンドはそこに丁寧に寄り添っていくというシンプルさ。根底に太いビートを持ち、言葉を無理無くメロディーに乗せていく彼等の持ち味が改めて映えていたナンバーがオーディエンスに大きな声援と挙手で迎えられていく風景に、彼らもどんどん足取りが軽くなっていく。

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そんな手応えをすでに各地で充分に体感してきたからだろうか、この日の4人の佇まいや立ち振舞は、とにかく腰の据わった安定感が良かった。派手な煽りやパフォーマンスは無くとも、ただただひたむきに音楽に奉仕する姿勢で見せていく4人。全員が黒のジャケットやシャツで揃えた姿はそれだけでシャープな雰囲気を醸し出す一方、フロント3人が手にした楽器もすべて黒というこだわりもシックなもので(下手からヤスシはリッケンバッカーのベース、ワタルはテレキャスター、オサムはエピフォン)彼等の「男気」を視覚的にも明確な手法で伝えてくる。

オープニングから立て続けに20分近く演奏し、場内の熱気を思い切り上げたところでようやく初のMCが入る。「東京、いいね。ツアーはまだまだ続くんだけれど、まるでファイナルのようで(笑)。でも、ファイナルのようなカタルシスで行こう!」という手短ながら自信もたっぷりのワタルの話に沸き立つオーディエンス。そこから「じゃ、今日は雨に降られたから…“曇天”」と叫んですぐさま次の曲が始まる流れも心地よく、そこからは再びノンストップで曲を立て続けに披露していくソリッドな展開に突入。

中盤からは、ドラムがイントロの曲では場内に手拍子をさりげなく促してみたり、ワタル一人でギターのアルぺジオをつま弾く時には何気にモニターに腰を下ろしてみたり、ちょっと頬を緩ませる瞬間も見せるリラックスしたステージに。しかしながら、ところどころに挟みこまれた過去の楽曲たちはいずれも「再生」や「新しい世界」を歌った、つまりニューアルバムとの親和性にこだわった選曲で統一されるなど、彼等の共通意識が一貫して根底に流れていることを強く感じさせる瞬間もあり、場内に常にいい緊張感が残る。それだけに終盤になってようやく登場したスロー・ナンバー“ライカの夢”で聞かせた「終わることなんてない、急がなくていい」という、アルバム『KATHARSIVILIZATION』の中でもひときわドラマティックだった物語が特に美しく響いた場面は今回のツアーならではの風景で、歌い終わった後には場内に清々しい静寂が訪れる一幕も。そんなおおらかな空気感でライヴ大団円への道標を作り、そしてツアー・タイトル曲“カタルシス“で自らを「ダサいね、でも、生きてる」とありのままに訴えたスピード・ナンバーから締めになだれ込んで行くステージは、彼等のストイシズムを最後の最後まで強い息吹とともに実感させるもので、当然のこと、本編が終了しても場内に残したエネルギー量は衰えることなく、鳴り止まないアンコールへと繋がっていく。

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それに応えてすぐさま4人がステージに再度登場。ワタルは、まずは今日が「カタルシス文明」というテーマ性の強いライヴだったことを手短かに確認しながらも、「アンコールは自由にやろうということで!」とオーディエンスを改めて焚きつけ、本編とは一転した、まだまだやり足りない曲を一気に披露するコーナーへと突入していく。

シングルのカップリング曲や、ワタルがギターを持たずにハンドマイクでステージを闊歩するレアな瞬間なども含みながら一気に駆け抜けていくメニューは確かに自由自在、と言う以上にほとんどやんちゃ坊主のようなハジけっぷり。これはこれで、別の側面もたっぷりと見せつける選曲だったのだが、何より本編でのメイン・テーマが浸透していたからこそ底抜けの自由奔放さが映えていた瞬間でもあり、ここまで来れば最早余裕の領域で盛り上がる。そんなサービス精神もしっかり発揮しながら、気がつけばあっという間に2時間が過ぎ去っており、硬軟ともに至極順調な様子を見せつけて彼等はステージを去って行った。

ツアーまだまだ後半戦を残しているので、彼等の自信は今後もさらに確かなものになっていくことと思う。ツアー終了後も彼等は変わらず動き回る予定で、6月28日にはドラマー・ケーサクの故郷、鹿児島県の奄美大島での凱旋ライヴが決定。そして8月5日には「ROCK IN JAPAN FES.2012」のステージに登場する。(小池清彦)
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