SAKEROCK/cero/TUCKER 『BOYS IN THE CITY』@赤坂BLITZ

今年で設立10周年を迎えたインディー・レーベル、カクバリズムの10周年記念イベント「KAKUBARHYTHM presents“boys in the city”」。言うまでもなく、このイベントの趣旨はSAKEROCK、YOUR SONG IS GOODなど個性豊かなアーティストを輩出し、インディー界で大きな存在感を放ってきた当レーベルの10周年を祝うというものだ。しかし、もうひとつ、大きなトピックは、新生・SAKEROCKのお披露目ライブが行われる場がここだということ。昨年末にベースの田中馨が脱退して以降、今夜はじめて彼らがステージに立つのだ。田中馨の脱退公演となった昨年12月26日のライブでは、今までの方法論を大きく変えて新たなSAKEROCKとして生まれ変わることを力強く宣言していた彼ら。それがどう形になったのか? その模様を、共演者のTUCKER、ceroのレポートとともにお届けする。

■TUCKER
エレクトーン、ドラムセット、ターンテーブル、ベース、エフェクターなどが所狭しと置かれたステージに、一人現れたTUCKER。複数の楽器を次々と鳴らしてはループマシンで音を重ねていくというスタイルで、ジャズ/ヒップホップ/パンクなど多彩な要素を掛け合わせた重層的なサウンドをたった一人で構築していく。ループするビートとノスタルジックなエレクトーンの旋律によって、聴き手を快楽の世界へトリップさせる楽曲群。なにより、楽器と楽器の間を忙しく動き回りながら即興的に音を繰り出していくTUCKERの超絶パフォーマンスから目が離せない。中でも圧巻はラスト。マリンバの音色、エレクトロビート、スクラッチ音などを次々と重ねてカオティックなサウンドを爆発させたかと思いきや、なんとテキーラをキーボードの上にぶち撒けオン・ファイヤ! 曲ができあがる過程を生で見せていくような面白さがありながら、アクロバティックなショウとしての華やかさもMAXの、興奮のアクトだった。

■cero
キラキラとした陽光が降り注ぐような透明なサウンドで幕を開けたceroのステージ。“21世紀の日照りの都に雨が降る”“exotic penguin night”などをリラックスしたムードで奏で、フロアに心地よい風を吹かせていく。どこかトボけたメロディ、物語性の高い歌詞、鍵盤やエレクトロビートを駆使して紡がれるアンサンブル、そのどれもが奔放でイマジネーション豊か。中盤の新曲“comtemporaly tokyo cruise”では、4人のハーモニーとピアノの旋律が美しく響きわたる異国情緒あふれるサウンドで、フロアを別天地へと誘ってくれた。暗闇に柔らかな光を灯していくような繊細なサウンドスケープが描かれた“大停電の夜に”を経て、ラストの“(I found it)Back Beard”へ。それまでのギター+ベース+ドラム+キーボードのバンド編成から一転、オーボエ、フルート、サックスなどの管楽器を交えたふくよかなアンサンブルでフロアを優しく包み込み、約50分のアクトを終えた。

■SAKEROCK
そして21時08分。いよいよSAKEROCKの登場! TUCKERからceroへの転換時は張られていなかった黒幕が転換中にステージを覆い、暗転とともに黒幕の向こう側からストリングスの音色が聴こえてくる、という趣向でスタート。中央から幕が開くと、星野源(マリンバ)、浜野謙太(トロンボーン)、伊藤大地(ドラム)のSAKEROCKの3人に、ギターの辻村豪文(キセル)、ベースの吉田一郎(ZAZEN BOYS)、キーボードの池田貴史(レキシ)、ヴァイオリンの岡村美央、ヴィオラの高嶋真由、チェロの古川淑恵のサポートメンバーを加えた9人編成のバンドの姿が露になる。そのまま1曲目“慰安旅行”が始まると、いきなりビックリ。本来はハマケンのトロンボーンが務めるメロディパートを、星野のマリンバとストリングスが務めていたのだ。しかも、BPMを大きく落として鳴らされる旋律は、原曲の軽やかさとは打って変わって優美に響く。かと思えば、続く“会社員”では9人編成ならではの色彩豊かな音塊が炸裂。マリンバ、トロンボーン、キーボード、ドラム、ストリングスが目まぐるしく入れ替わり、ジェットコースター並みにスリリングなアンサンブルを紡いでいた。もちろん、曲終わりには割れんばかりの大歓声。とにかく鍵盤を連打しまくるアグレッシヴな演奏を終えて、バチを両手に決めポーズをとる星野の姿がとっても眩しい!

メンバー紹介を経て、ライブは中盤へ。先に言っておくと、その後も新生・SAKEROCKの初ライブにふさわしい驚きと興奮の連続だった。“千のナイフと妖怪道中記”では吉田一郎のグルーヴィーなベースラインが冴えわたり、YMOのカバー曲“Fire cracker”では星野のマリンバと辻村豪文のギターが切迫した掛け合いを披露する。さらに“エメラルドミュージック”ではソリッドな音塊が疾走し、“老夫婦”ではストリングスと池ちゃんのキーボードが煌びやかに鳴り響く。9人編成になったことで、格段に分厚くなったグルーヴと格段にカラフルになったメロディ。それらが独特の「ゆるさ」と「素朴さ」をもったSAKEROCK本来の音世界を、グッと濃密でスリリングなものに変えていた。それまでマリンバに徹していた星野がギターを手にした終盤は、より攻撃的な展開に。「次の曲では是非モッシュをしてください」(星野)とフロアを軽やかに揺らした“SAKEROCKのテーマ”を経て、せめぎ合うサウンドが一気にスパークした本編ラストの“MUDA”は、もうなんだか凄いことになっていた。全8曲、1時間弱のステージ。“MUDA”の前で「次の曲でラストです。このバンドに限っては、これ以上曲ないです!」と星野が告げると「えー!」という声がフロアから上がっていたけれど、密度の濃さだけで言ってしまえば今夜のライブは相当のレベルだったと思う。
ちなみにアンコールでは「本当にもう曲がないんです!」ということで、本編で演奏済みの“エメラルドミュージック”をBPM最速ヴァージョンでプレイ、フロアを沸かせていました。

それにしても。ここまで見事なライブを見せつけられて思うのは、やはりSAKEROCKの3人のすごさだ。脱退したメンバーの穴を単純に埋めるという受身の姿勢ではなく、こちらの予想をはるかに超えたアイデアでバンドの進化を華やかに提示していく前向きな発想力。熟練のサポートメンバーを相手取っても決して引けをとらない、高いプレイヤビリティ。そもそも、至福の粋を極めたようなSAKEROCKの音楽性だけをとっても圧倒的にオリジナルで稀有なものだけど、バンドを力強く推し進めていく側面においても、彼らが秀でたポテンシャルを持っていることがよくわかるアクトだった。
あと、忘れてはならないのがMCタイム。今回は星野がほぼメインでMCを務め、そこにサポートの池ちゃんが茶々を入れる、という形で進行していた。その代わり、過去のライブで長い時間を占めていたメンバー同士のゆるーいトークはなし。「人の庭でいっぱい遊ぶのヤメテ!」と星野がキレ気味に言うほど喋りすぎの池ちゃんとは対照的に、ハマケンもほとんど喋らなかった。それ故にオーディエンスから「物足りなーい」という声が飛ぶシーンもあったけど、これも新生・SAKEROCKの新たな試みのひとつとして好意的に受け止めたいと思う。何はともあれ、この場に立ち会えたことが本当にラッキーに思える、最高の新体制お披露目ライブだった。(齋藤美穂)
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