『NANO-MUGEN CIRCUIT 2012』@ Zepp DiverCity Tokyo

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広島・大阪・名古屋・東京の4ヵ所を回った『NANO-MUGEN CIRCUIT 2012』のファイナル。4公演すべてステージに立ったのはASIAN KUNG-FU GENERATIONとOZMA(DJの方ではなく、以前もアジカンが日本に呼んで一緒にツアーした米国は西海岸のバンドの方です、念のため)で、加えて広島はThe Cigavettes、大阪は岩崎愛、名古屋はQUATTRO、そしてこのファイナルにはbloodthirsty butchersとthe chef cooks meが出演。トップはブッチャーズ、次シェフ、3番手がOZMA、トリはアジカン、という出演順でした。

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『NANO-MUGEN CIRCUIT 2012』@ Zepp DiverCity Tokyo
1 bloodthirsty butchers
メンバー4人、バックライトに照らされながら、全5曲をプレイ。私、ライヴ観たの結構久々だったんですが、もう、一音一音に、圧倒されました。すべてが、鋼のよう。「音が」とか「言葉が」とかじゃなく、「すべてが」です。ブッチャーズの曲のアレンジって、ほとんどコードかき鳴らすのみのギター×時々そこからそれるリードギター×いらんんことしないベース×どかどか叩きっぱなしのドラム、っていうものであって、つまりちょっとどうかと思うくらいシンプルなことを爆音でやる、という感じなのに、なんでこんなに独自でワン&オンリーなものになるんだろう。と、いつも思う。フロアもみんな、固唾を飲んでステージを凝視している感じ、だったのが、「ウケてないのか?」と心配になったのか、3曲目“サラバ世界君主”を終えたところで、「みんな元気か? (客席の)照明明るくして! (明るくなり、客席を見る)。いや、おじさん、ちょっと不安だった。ずっと不安だったんで」と口にする吉村さんだったのでした。
大丈夫だったと思います。確かにわーわーと盛り上がってはいなかったが、フロアから立ち上る「ステージに全神経を集中する念」、かなりのものだったので。というか、ブッチャーズ、自分たちのワンマンだって、お客、わーわー盛り上がったりしないし。そういう音楽じゃないし。で、そういう音楽じゃないってところもすばらしいわけだし、このバンドの場合。
僕は自分で吉村秀樹にインタヴューをしたことはないが、昔、取材の仕切りをやったり、上司が行ったインタヴューをまとめたりしたことはある。という経験によって実感したんだけど、吉村秀樹の話って、時としてわかりづらい。話がすっとんで、こっちとしては「えっ?」なんだけど、本人の中ではちゃんとつながっていて、確信の上で放たれている言葉である、だからなんだかわからないけどすごい説得力、みたいになることがある。この日もありました、MCで。
「今、日本を応援するのは、ここじゃないっすか? そういうことだと思うぜ。ほんと、これからも日本をよろしくお願いします。頼むぜー!」
前後の脈絡なく突然放たれたので、なんで今この話になったのかわかりませんでしたが、やはり、なんだかすごい説得力でした。フロアもそうだったみたいで、「うおー」とか「いえー」とか、声が返っていました。かっこいいなあ、この人。

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2 the chef cooks me
私、ブッチャーズ以上に、ライヴ観たのものすごく久々でした。なもんで、すみません、今、こんなバンドになっている、という事実を知りませんでした。びっくりした。ただ、客電が落ちてステージにメンバーが登場した段階、つまりまだ音を出す前の段階で、フロアがあからさまにどよめいていたので、私と同じようにびっくりした方、多かったのではないかと思います。
人数、多い。メンバー5人、サポート6人、合わせて11人。メンバーはギター、ベース、ドラム、グロッケン(ちっちゃい鉄琴)とかギターとか、そしてヴォーカルとキーボードと指揮とその他いろいろのシモリョー。サポートはホーン3人、女性コーラス2人、ギター1人。で、シモリョーがフロアに背を向けて中央に立ち……なんていうんだ? あれ。オーケストラとかコーラス隊とかの指揮者が、バッて指すとそこの人たちが「♪アーッ」って短く音を出す、すると指揮者、また別の人たちを指す、その人たちも「♪アーッ」って同じ高さの音を出す、あれ。「音合わせ」っていう呼び方でいいのかな。それをしばらくやってから、1曲目に突入しました。
で、そっからがもう、耳からウロコ。シェフ、もともと、パンクから始まったミュージシャンがR&Bやソウル方面に移行する、という流れにのった音楽性ではあったけど、もうあからさまにレベルが跳ね上がっている。人数を多くしたから跳ね上がった、のではなく、「こうしたい」「こうなりたい」という目的地がまず見えていて、そのためにこの編成になった、という順序なのが、観て、聴いて、明らか。スイートさと苦さ、緻密さとラフさ、いいかげんさと精密さ、みたいに、矛盾する要素がいっぺんに鳴っていて、そのさまがえらいこと気持ちいい。で、とにかく楽しい。こんなにいいバンドになってたのか。重ね重ね、失礼しました。
「今日はASIAN KUNG-FU GENERATION、呼んでくれてありがとうございます。(オーディエンスに)観てくれてありがとうございます」というあいさつでMCを始めたシモリョー、アジカンとの馴れ初めを説明。曰く、最初は自分がtwitterでゴッチに話しかけて、言葉をかわすようになって、HINATABOCCOへの参加とかもあって、「それでまあ、すり寄った、と」だそうです。あと、シモリョー、前々からアジカンの『NANO-MUGEN FES.』に関して「バンドマンとしてすばらしいことやってる」と強く思っていて、昔、ジャパンのインタヴューでもその話をしたことがあったんだけど、あとで誌面を見たら「アジカンをやってることよりもそっちの方がすごい」みたいにもとれるニュアンスの字面になっていて、「ああっ、そういうつもりで言ったんじゃないのに!」と思った、ということもおっしゃっていました。そのインタヴューしたの僕じゃないし、どんな記事だったのかも覚えていないので、僕としては「ごめんなさい」と謝ることも「いや、違うよ!」と反論することもできませんが、このMCのことを書かないと「ああ、自分たちにとって都合悪いことは伏せるんだ」と思う人がいそうなので、それはしゃくなので、以上、書きました。
とにかく、それで接点ができて、昨年夏のROCK IN JAPAN FES.(彼は磯部正文バンドのメンバーとして出演)でゴッチと会って、自分たちの7インチを渡したら気に入ってくれて、今、ゴッチP(プロデューサー)と一緒に制作作業をしていると。あとでアジカンのステージの時、ゴッチ曰く、プロデューサーってよりもディレクターとして一緒にアルバムを作っていて、彼のレーベルからリリースしたいと考えている、とのことです。楽しみです。

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3 OZMA
フロム・カリフォルニア。前にもアジカン、呼びましたよね。フロント4人が横一線、うしろにドラマー、という立ち位置で(ヴォーカルは曲によってギターだったりベースだったり)、ちょっとラウドかつメロディがひたすらにキャッチーな曲を次から次へと惜しみなく連投。たたずまいはのほほんとしてるし、演奏は淡々としてるし……いや、音は淡々としてないけど、演奏している時のメンバーそれぞれのたたずまいが淡々とした感じなのです。そんな感じで黙々と進んでいくステージなんだけど、メロディの、あとそれを形にしていく声の、せつなさがハンパじゃない。こういうメロディ、私個人は「コステロ風味」と呼んでいます。OZMA、元々、WEEZERやTHE GET UP KIDSとツアーするチャンスがあって、それで世に出たバンドですが、そのWEEZERとかRENTALSとかの、ええと、パワーポップというかあそこらへんの音を出すバンドの歌のメロディって、どれも、何かちょっとエルヴィス・コステロのメロディの感じが入っている、と、僕は感じるのです(THE GET UP KIDSは違いますが)。それ、さかのぼると、コステロがルーツにしている昔のUKロックとかマージー・ビートとかビートルズとかに行き着くんだろうと思うが、とにかくあの、なんとも言えずせつなく響く感じ、それが、特にこのバンドの場合、濃厚な気がする。みっちり、堪能させていただきました。
あと、「ワタシハ、アリババデス! アリ!」(フロア、答えて)「ババ!」「アリ!」「ババ!」という掛け合いが、印象的でした。何がどう印象的なのかきかれると、なんとなく困りますが。


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4 ASIAN KUNG-FU GENERATION
アンコールまで合わせて全12曲。NANO-MUGENコンピに提供した“夜を越えて”のほか、“踵で愛を打ち鳴らせ”“マーチングバンド”など最近の曲が中心で、たまに“リライト”など、過去の代表曲がまじる、という構成。あと、中盤、ゴッチが「NO NUKES」と曲紹介して、“N2”やりました。『マーチングバンド』のカップリングのあの曲だけど、歌い終わってひとこと、「今日にふさわしい曲だね」。まさにこのライヴの直前、大飯原発の再稼動の記者会見を野田総理が行い、ライヴ前にゴッチもそれについてtwitterでコメントをしていたので、そう言ったんだと思うが、このライヴの場では、「詳しいことはそれぞれ調べてください」みたいなことを言って、それ以上、そのことには触れませんでした。正しいと思いました。
で。私、ちゃんとライヴ観たの久々だったのですが、何か、「あれ? こんなバンドだったっけ?」というくらい、びっくりした。何か、前が極真の選手だったとしたら、今は合気道の師範になったような、そんな変化を感じた。全体に、しなやか。2本のギターがどうからむか、その時ベースはどのへんのラインを弾いているか、ドラムはどんなビートを出しているか、その四者の(シンプルでラフなのに)緻密な組み合わせによって、アジカンの曲はアジカンの曲になっている、ということが、すごくよくわかるステージだった。
たとえば。ちょっと前の話ですが、映画『ソラニン』の中で、宮﨑あおいがバンドで歌うシーンを観て、「ああ、ゴッチメロディって誰が歌ってもゴッチメロディなんだなあ」と改めて感じた人は多いのではないかと思う。というか、僕がそうだったんですが。つまり、強力に個性があって、はっきりとしたスタイルがあって、カラーが明確なメロディである、ということです。ゴッチに限らず、優れたメロディ・メーカーはみんなその「××メロディ」を持っているが、そういう才能を持った作曲家に共通のウィークポイントもある。それを持っていると、時として、いい曲を、強い曲を、書けば書くほど、「どれもおんなじ」になってしまうことがあるのだ。自分の最強ポイントはここで、一番得意なのはここなんだからおんなじになる、というのはある意味ではあたりまえなんだけど、でも、それでは困る。じゃあそれを、どう「おんなじ」に聴かせないか。どう新しく響かせるか、どう昔の曲よりも一歩でも前に進むか。ということを、アジカンはずっとやり続けているのかもしれない、で、レコーディングでそれができたらライヴで試してそれを身体化させているのかもしれない、というようなことを、観ながら、ずっとぐるぐる考えていた。
ヘンな言い方だけど、音の細部までなめるように楽しんだ、そういうライヴでした、僕にとっては。で、最近の曲になればなるほど、そういう楽しみ方をした時に、深いし、おもしろい。おかげで、「ああっ、この曲、実はこうだったのか!」みたいな発見がいっぱいありました。

『NANO-MUGEN CIRCUIT 2012』@ Zepp DiverCity Tokyo
あとふたつ。アンコールで出てきた時、「LET'S DANCE!」と描かれたプラカードを持って、客席をバックに写真を撮る、ということをやっていました。次号の「FUTURE TIMES」の表4に使う写真で、今、大阪で問題になっている(というか、大阪だけじゃないんだけど)、深夜営業しているクラブが摘発されている問題を、取り上げるそうです。このプラカード、チャーベくんが作ったそうです。

もうひとつ。昨日、自分のブログにもちょっと書きましたが、後半で“リライト”をやった時のこと。「芽生えてた感情切って泣いて」のところで、演奏がドラムとベースだけになって、ゴッチがそこを歌って、ぱっと最前列のお客さんの誰かひとりにマイクを向けて、その子がくり返して歌う、という一幕がありました。で、それを4、5人とやったゴッチ、最後に「♪ここにいるこいつは岸田哲平~」と歌って、柵前のオフィシャルライヴカメラマン、TEPPEIにマイクをつきつけたのでした。

TEPPEI「えっ…あっ…うっ…♪てっぺい~」

「うろたえる」っていうのは、こういう状態のことを言います。っていうくらい、見事なうろたえっぷりでした、TEPPEI。多くのお客さんは「えっ誰? ああ、カメラマンか」って感じだったかもしれませんが、彼のことを知ってる人たち(私含む)は、もう、血を吐くほど笑いました。ナイスゴッチ。(兵庫慎司)
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