Dirty Old Men @ 赤坂BLITZ

Dirty Old Men @ 赤坂BLITZ
Dirty Old Men @ 赤坂BLITZ
アルバム制作中のメンバー脱退(しかも2人)という苦難の果てに、それでもバンドを存続させる道を選び、そして全国ワンマンツアーを決行した彼等。結論から言えば、その姿は自身の気持ちを確実に次の舞台へとアップグレードさせた逞しくも美しいもので、開演直前まで多少なりとも抱いていた当方の不安な気持ちを木端微塵に粉砕してくれる、それはそれは精悍なライヴだった。

と、まずは結果オーライであったことを先にお伝えしておくが、しかしこのツアーを迎える日まで彼等の心中は葛藤の連続だったという。フロントマンの高津戸信幸からすれば、結成当初からのメンバーである2人の離脱は音楽的なもの以上に精神的にヘビーなもので、制作中だったアルバムの曲作りもままならない状態に陥ってしまったという。しかし、そんな逆境を克服できたのは、やはり彼が自身の音楽に対する愛情を再確認できたことであり、その契機となったのが彼の右腕として欠かせないギタリスト・山下拓実の存在だった。そんな新たなパワーバランスに気付くことが出来た喜びが、そのまま最新アルバム『doors』の持つダイレクトなラヴソング群へと繋がり、そして新たな決意を存分に解き放った、このツアー・ファイナル公演として結実したのではないかと思う。彼の声は楽曲の性質上、もっぱら繊細あるいはナイ―ヴな形容をされることが多いが実はシャウト・ヴォーカルも一級品であり、今日ははちきれんばかりの万感の思いをひたむきに吐き出し続ける、そんなエモーションに満ちたヴォーカリストであり続けた一夜だった。

なにより冒頭の彼のシャウト一発、そして各メンバーが演奏にステージアクションに存在意義をアピ―ルしまくる熱血ライヴとしてスタートした瞬間から、こちらの不安や心配は根こそぎ吹っ飛んでしまった。1曲目、ニューアルバムのタイトル曲“doors”のイントロを山下が爪弾き始めるや、いきなり高津戸は「ウォー!」だか「イェ―!」だが聴きとり不可能な、最早本能そのものが口をついて出たとしか言いようの無い野性の叫びで場内を焚きつける。そこにオーディエンスが大歓声で応えるや新メンバーのリズム隊が一気に加勢してくるのだが、この二人も早くも新加入とは思えない太く黒いグルーヴで客席の期待に真正面から応えていくという嬉しい展開を見せる。

新ベーシストの渡辺雄司はスリムな長身で、スラっと伸びた手足が実に美しいシルエットを描く一方、ピック弾きのアタックの効いたトーンで聴く者の下半身を遠慮なく扇動してくるタイプ。もちろんステージアクトも派手で、何度もステージ前方まで出てきてはその度に長い脚を左右に思い切り開いてべ―スを引く姿も躍動感たっぷりで、バンドにいきなり華やかなムードを持ちこんでいる。
一方、新ドラマ―の岡田翔太朗はどっしりとした体格をもち、見るからに力仕事を任せたくなる安定感がいい風情。それでいて表情はやたら人懐っこく、しかも声質がなかなかにクリアーな高音で、ヴォーカル・ハーモニーのパートでは高津戸のリード・ヴォーカルを丁寧な3度上のハーモニーで見事にバックアップする器用さも見せる。新メンバーの2人が1曲目からいきなり仕事人ぶりを見せつけ、新体制に対するオーディエンスの決して少なくは無かったであろう取り越し苦労を、まずは一気に霧散させてしまう。

そんな新メンバー2人の腰の座りぶりでノッケから場内を一気に安堵~新たな期待感で満たした段階で、すでに今日のライヴは彼等の勝利が確定したといっても過言ではなかったと思う。となると、思惑通りのライヴは2曲目以降どんどん加速することとなるわけで、ジャンプナンバー“メリーゴーランド”では早くも場内一丸となったコ―ルが巻き起こり、続いて登場したニューアルバムにおけるもう一つのテーマ曲ともいる“変えるのうた”では「変えることを恐れない」「初めて触れる世界」という決意表明ぶりも一層潔く響き、続くラヴソング“ふたり”における「君」が待ってくれていたオーディエンスにそのまま当てはまるメッセージ性も冴え渡る。言わば、荒波を乗り越えた新たな姿をダイレクトに示す楽曲達が、そのままリスナーに対する強い責任感を示す意味も含んでいるわけで、そこにオーディエンスもまた新たな信頼感を託すこととなる、好循環の見本のような展開へと発展していく。

そんな場内の気運を察知したからだろう、どんどんぶっ通しで続いた5曲目、彼等のレパートリ―の中でも珍しくハッピーなカラ―を持った“elif”では、その軽快なイントロが始まったところで高津戸が突如「メンバー紹介をします!」と宣言。シンプルに「ベース、渡辺雄司!」「ドラム、岡田翔太朗!」「ギター、山下拓実!」と順番に指さしながら連呼するだけのものではあったが、既にこれだけのものを見せれば多くを語る必要は無い、そんないい空気が完成したタイミングだっただけに、場内の歓迎の意を表する歓声も割れんばかりに大きなもの。高津戸はサビ部分の歌詞「スポットライトを浴びて 今から君が主役」という歌詞をオーディエンスに歌わせていたのだが、それは彼なりの新メンバーに対する最高の歓迎の表示だったんだとも思う(「声が聞こえないぞ、みんな!」と叫んで、オーディエンスにひときわ大きい声を要求していたシーンは笑えました)。

言い訳無用のまま、ひたすら現場力で新生DIRTY OLD MENをアピールするステージはさらに曲が間断無く続くも、“約束の唄”の新たなアレンジによるバージョンや(ミステリアスなアフロ風のドラムでスタート)、ギターの弾き語りで始まり山下と岡田のコーラスハーモニーをフィーチャーした“言葉探し病”といったナンバーなど、ユニークな側面も惜しみなく披露していく。時間的にはほぼ中盤になったタイミングでようやく最初のMCらしいMCが入ったのだが、すでにここまでくれば細かい説明は言わずもがな。「ツアー・ファイナル、赤坂BLITZへようこそ! みんなの顔をみたらホッとしました。ここにある時間は誰にも邪魔出来ないから。まだ、行けるよね、みんな!」と話を手短にまとめて、またしても楽曲に突入していく徹底的なまでに潔いステージ。そこから始まったスローナンバーのコーナーも、絶望からの蘇生を願う歌詞をヒリヒリと痛む声で歌う高津戸の本懐が一層発揮されたものとなり、自分を存続させてくれた君=オーディエンスという図式も一層確かなものへと深化し、場の磁力を高めていく。

Dirty Old Men @ 赤坂BLITZ
それでも、終盤へ向かう前のMCでは今回のメンバー・チェンジについての心境を偽りなく吐露する瞬間も。「無理矢理変わらなくてもいいと思うけど、それでも変わらなくちゃいけない時もあります。これまでタラタラやって来た男ですけれど、腹括って、突っ走っていきます。一回、音楽が嫌いになりかけたけれど…でもやっぱり好きな気持ちは変わらなかった。懐かしい曲をやります」と言ってスタートとしたのはインディーズ時代の最初のシングル“rain show”。蒼くも赤裸々な情熱を真っ直ぐに歌ったこの楽曲が彼にとって今一度意味のある楽曲へと豹変していったことは想像に難くないし、そのまま直情型のラヴソング“ワスレジノ葉”、距離感もわからないまま希望へ向かって闇雲に手を伸ばす“蛍火”へと続く流れは、彼が何のために歌を作っているのかをこちらに再度確認させるかのような、厳かな響きに満ちた時間となった。

晴れて自らをリセット出来た喜びからか、「最高の仲間と出会いました。これからもずっと歌い続けていきます。これからのDIRTY OLD MENを楽しみにしていて下さい」と最後の挨拶も実に簡潔だった高津戸。そして「何千回何万回でもあなたと恋に落ちる」と歌う“スターチス”、そして「こんなに人を好きになれるんだね」とちょっと照れて歌う“シアワセノカタチ”でステージが締め括られる頃には、その幸せを共有するかのように客席全体をバックライトが煌々と照らしだすという心憎い演出も披露されるなど、新たな生命を祝福するような清々しい空気の中、「最高をありがとう!」というシャウトとともに新生DIRTY OLD MENのお披露目ツアーは幕となった。
当然のことアンコールを求める声は鳴り止まず、すぐさま4人がステージに現れる。最早何も付け加えることは無いかのようにスッキリとした表情のメンバーは、すぐさま楽器をセッティング。まずはインディーズのファーストアルバムの1曲目でもある深淵なナンバー“moon wet with honey”で「あの頃の2人はまだ笑っている。さぁ歩こう」と歌い、彼等の原点が現在の心境ときちんと重なることを確認する。続いて2曲目は真逆にコミカルな面を歌ったロックンロール“chocworld”でリラックスしたムードまで演出するなど、今や場の色を如何様にでもコントロール出来る試合巧者ぶりを見せつける一幕も。そして最後の最後、ダブルアンコールで演奏されたのは、これもインディーズ時代の古いナンバー“blue “D””。「手のひらサイズのちっぽけな夢も勇気も持てない僕」を歌った、これまた高津戸の曲作りの原風景ともなっている楽曲だが、しかしオーディエンスが一斉に手のひらを掲げ、演奏中はもちろん曲が終わってからも彼等に向かってそのまま手を振り続けていた様子は、また新しい旅の始まりの風景としてこの上なくお似合いの絵だったように思う。(小池清彦)

Dirty Old Men @ 赤坂BLITZ
セットリスト
1 doors
2 メリーゴーランド
3 変えるのうた
4 ふたり
5 elif
6 約束の唄
7 言葉探し病
8 a heart of difference
9 コウモリ
10 ただ君を想う
11 何度も
12 探し物
13 rain show
14 ワスレジノ葉
15 蛍火
16 MY HERO
17 スターチス
18 シアワセノカタチ
ENCORE
1 moon wet with honey
2 chocworld
DOUBLE ENCORE
1 blue“D”
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