「みんな久しぶり! BUMP OF CHICKENです! 初めて来た人!……(客席&アリーナ「はーい」と多数挙手)……2回以上来てるちゅうねん!っていう人!……(またも多数挙手)……初めて来た人、80%いました! で、2回目以上の人も80%!(笑)。でも、その気持ちがうれしい!」。チャマこと直井由文の、もはやお馴染みのMCが会場中に拍手喝采と笑顔を巻き起こし、客席&アリーナ1万人とステージとの距離をぐっと近づけていく。そして、続く「周りを見てみて。これが1万人! この1万人の組み合わせ、今日しか集まりません。BUMP OF CHICKENは、いつだって今日が最初で、今日が最後のライブです。この1万人で、最高のライブを作ろうぜ!」の言葉に、その笑顔はひときわ熱い歓声へと形を変えていった。
4/7・8の幕張メッセを皮切りに、全国13都市・20公演で35万人動員という巨大アリーナ・ツアーを3ヵ月にわたって回ってきた、『BUMP OF CHICKEN TOUR 2012「GOLD GLIDER TOUR」』のセミファイナルにして、7/3・7/4・7/7・7/8と4日間にわたって行われる国立代々木競技場第一体育館の最終公演。ツアー自体は7/14:宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ21)公演まで続くのでセットリストの掲載は控えるが、“三ツ星カルテット”“宇宙飛行士の手紙”など最新アルバム『COSMONAUT』の楽曲に加え“ゼロ”“Smile”“グッドラック”といった『COSMONAUT』以降のシングル曲ーーつまり「バンプ最新型」の曲群を本編の主軸として配しながらも、「ツアー全編セットリスト固め打ち」というわけではなく、会場/公演ごとに少しずつ楽曲を入れ替えてきている。
ステージを覆うスクリーン。そこに映し出される、フランスの漫画家「メビウス」こと故ジャン・ジロー&『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズを手掛ける山崎貴によるオープニング映像……という演出も、以前ここRO69でもレポートしたツアー初日と同様。だが、「アリーナ規模の会場でのライブが文字通り4年ぶり」というシチュエーションだった4月の幕張公演の、歓喜の中に心地好い緊迫感が漂っていた空気感と比べれば、代々木最終日となるこの日のアクトではまさに、その会場のスケールすら自らの表現の一部として完全に取り込んだかのような、ロック・バンドとしての肉体性と高揚感にあふれたステージを展開していた。幕張での“宇宙飛行士への手紙”が、凛とした宇宙空間のスケールを体現したものだったとすれば、この日の4人の演奏と藤原基央の歌声は「途方もなく広大な宇宙を旅する冒険者への想い」そのものにフォーカスしたようなエモーショナルなヴァイブをもって響いてきたし、“ゼロ”“Smile”は荘厳な美しさよりも壮絶なまでの魂の迫力が勝っていた。広大な会場をハンドウェーブとシンガロングで包んでみせた“supernova”は2012年日本ならではのゴスペルか聖歌のように胸を揺さぶる熱量とグルーヴに満ちていたし、“天体観測”は衝動的な疾走感よりも堂々たるロック・マスターピースとしての存在感をもって1万人の身体と心に広がっていった。そこに、“ギルド”“メーデー”といった楽曲が加わることで、その音楽世界にさらなる立体感と色彩感を与えていくのである。
「待っててくれてありがとう! みんなが待っててくださった間、僕らはレコーディングしてました! うちのヴォーカル・ギター=藤原基央くんが曲を書きまして、俺・ヒデちゃん(升秀夫)・ヒロ(増川弘明)がその曲を聴く! で、その聴いた曲を、4人で『どうすればこの曲の求めてる形になるか』って試行錯誤しながらレコーディングして。そのレコーディングしたものがCDになって……」と、前のライブハウス・ツアー『GOOD GLIDER TOUR』から続く4年分の「前回までのあらすじ」的なチャマのMC。「でも、それは全然完成じゃなくて。ここにいる1人1人、全員の耳に届いた時に、僕らの音楽は完成します。僕らの音楽は、聴いてもらうために生まれてくるので。ここにいるみんながいないと、何の意味もありません。だから、ここにいてくれて本当にありがとう! みんなのおかげで、ここに立ててます」の言葉に、オーディエンスはひときわ熱い歓声で応えていく。
で、ひとつ4月の幕張公演から変わったのは、そのMCから現時点での最新シングル曲“グッドラック”へ流れ込む前に「『グッドラック』についてるショート・ムービーが、VMAJの映画部門で賞を獲りました!(6月23日に行われたミュージック・ビデオの国際規模の授賞式典『MTV VIDEO MUSIC AWARD JAPAN(VMAJ) 2012』で“グッドラック”と『ALWAYS 三丁目の夕日'64』(山崎貴監督)が「最優秀映画ビデオ賞」に輝いた)。ありがとう!」という感謝の言葉が加わっていたことだ。そして、雄大な“グッドラック”の世界へーーミドル・テンポの穏やかなアンサンブルとメロディに、藤原基央の「大切な人を心の底から想うがゆえにあふれ出してしまうブルース感」を凝縮した楽曲世界。それを「楽曲の求める形」のサウンドとビートへと誤差なく変換していくチャマ/増川/升。今のバンプ4人のクリエイティビティの結晶のような楽曲が、あたたかく滋味深く、会場の隅々まで染み渡っていった。
どこまでもストイックな演奏とは対照的に、曲間での4人は至って朗らかで人懐っこくて、常に笑顔だった。最前列に詰めかけたオーディエンスに「大丈夫?」と呼びかける藤原が逆にオーディエンスから「大丈夫?」と声をかけられ、「僕は大丈夫ですよ? だいたい大丈夫じゃなさそうに見えるんですよ。昔からそう」(藤原) 「俺もそう! プールの授業とかすげえ嫌で。草むしりしてました」(増川)と昔話で笑い合ったり、「BUMP OF CHICKENも今年33になりまして。33歳になって何が変わったかって、気温差に敏感になった。楽屋でもエアコン設定は28度! 昔は18度で素っ裸だったもん(笑)」(チャマ)と年齢ネタでウケをとったり、この日は1日「しゃべらない人の体(てい)」でいたらしい升が歓声を受けてじょじょに空気の入ってきたバルーン人形のようにドラムセットの上に立ち上がって感謝の意を表したりーーそれらすべての場面が、1曲1曲を全身で謳歌していた1万人にとっての新たな「思い出」となって、それぞれの「明日」へとつながっていく。
「千葉県佐倉市から出てきた僕らがね、オシャレ爆心地・原宿でライブをやってるわけですよ。たくさんあるエンターテインメントの中から、まず音楽を選んでくれてありがとう! 宇宙規模でたくさんある音楽の中から、BUMP OF CHICKENを選んでくれてありがとう! 貴重な時間の中、ライブに来てくれてありがとう!」……アンコールのMCで、チャマはそう語っていた。ただ楽曲を共有するだけではなく、その音楽に触れる者すべての人生とともに寄り添っていく「場所」としての包容力を、この日のBUMP OF CHICKENのアクトは十二分に見せてくれた。「俺らあと仙台行ってくるから!」と増川。「みんなから受け取った気持ちを、全部仙台に持っていくから。で、全部置いてくるから!」とチャマ。アグレッシブな楽曲で1万人の情熱の最後の一滴まで完全燃焼させるようなアンコールの後、チャマ/増川/升が退場した後、藤原がマイクの前に立って、珍しく長々と&赤裸々に、この代々木4日間を総括したMCをしていたのだが……「今日ここにいるみんなとの秘密にしてね」と藤原が言っていたのであえて割愛。ツアーはいよいよ7/14のグランド・フィナーレを残すのみ。そして、『グッドラック』以来8ヵ月ぶりのシングルにして7月10日スタートのドラマ『息もできない夏』主題歌『firefly』が9月12日発売決定! そのメロディを通してバンプと僕らの「明日」が再び重なり合う日が、今から楽しみだ。(高橋智樹)
BUMP OF CHICKEN @ 国立代々木競技場第一体育館
2012.07.08