くるり@代々木公園野外ステージ

くるり@代々木公園野外ステージ
くるり@代々木公園野外ステージ
ニュー・シングル『everybody feels the same』のリリース日の1日前(つまり店着日)に行われたフリー・ライヴ。くるり、フリー・ライヴって、地元では2004年に京都駅で1回やっているが、あとインストア・ライヴとかも昔はあったが、東京圏で、この規模で、しかも野外でこういう試みをするのは、これが初めて。
新宿や渋谷のタワーレコードなどでこのシングルを買うとうちわがもらえて、そのうちわを持っていると最前エリアに入れる、というサービスあり。まあ、それくらいはやらないと。これ、宣伝のためにやるんだろうし、フリー・ライヴってことは機材だのスタッフだのの実費はオール持ち出しになるんだし、その持ち出し分をどこから払うのかというと、きっとレコード会社の宣伝費からだろうし、ええと、これ、全部でどれくらいかかるかなあ、Yさん(くるり担当)大変だろうなあ……と、考えなくてよいことまで考えて、一瞬暗い気持ちになりました。
なお、その最前エリア、私、関係者ヅラして入れてもらえたんですが、ライヴ後半に、後ろの方からも観てみたくなって出ようとしたら、会場整理のスタッフが「戻る時に必要になりますので」と、整理券をくれました。出たら戻れないかと思ってた。細やかな気遣い。偉い運営スタッフ。

さて。予定時刻の17:45、さほど遅れずメンバー登場。ドラムはBoBo。そうだ、韓国でのレコーディングと、その後のライヴハウス・ツアー(東京・大阪・名古屋・福岡などの大都市はなし、それ以外を回る、という趣旨のあれです)はあらきゆうこが叩いてたけど、そのツアーが終わった時、岸田が公式サイトの日記で「ゆうこちゃんとは『京都大作戦』まで一緒に旅をして、その後夏のあいだだけしばしのお別れ。さみしい」とか書いてた。じゃあロック・イン・ジャパンもBoBoなのかな。
岸田、出てくるなり本当にうれしそう、あのくしゃっとした笑顔を見せる。「くしゃっとした笑顔」って。とファンに怒られそうだが、あれ、黒人のブルースマンのかっちょいいジジイみたいで、私、好きなんです。
で、岸田、「いっぱいいるわあ。こんちはこんちはこんちは、くるりです」とあいさつしたあと、1曲目に突入。いきなりニュー・シングルの表題曲であり、このライヴのタイトルにもなっている“everybody feels the same”だ。一見あったりまえの、ごくオードソックスな、下手すると「凡庸」と言ってすらいいようなアレンジやコード進行や構成でもって、とんでもねえ名曲を生むことが、くるりには時々ある。過去のその例が、たとえば“ロックンロール”だったりする。と、僕は思っているんだけど、この曲、まさにそのタイプで、そのレベル。初めて聴いた時、意味なく「おいおいおい」と声に出して言ってしまったくらい、すばらしい。「ええと、この歌詞のこの部分はどういう思いをこめているんだろう」とか、いちいち考える必要がない。音とメロディと共に耳に入ってきた瞬間に、全部ガツンとわかる。「感じられる」と言ったほうがいいかもしれない。なんで「ウィスキーはモルトグレーン」なのか。いや、だってそうでしょ。バーボンじゃないでしょ。そういう感じなのです。って、わからないか。えーと、じゃあ、「OASIS BLUR SUPERGRASS HAPPY MONDAYS…」って、他のバンドに比べると知名度で明らかに劣るSUPERGRASSが入っているのも、プライマルじゃなくてハピマンなのも、もういちいち、なんでなのかがわかる、そういう感じなのです。もっとわからないか。とにかく、ここ数年のくるりのシングル、どれもいいけど、その中でも屈指の出来だと思う。間奏でファンファンがトランペットを吹きまくり、その次の間奏では吉田省念がソロを弾きまくる。どんどん曲の温度が上がる。

くるり@代々木公園野外ステージ
くるり@代々木公園野外ステージ
続いては、そのシングルにも入っていない、やたら速いテンポの新曲。ファンファンが奏でるイントロも、岸田がまくしたてるメロディも(「メロディをまくしたてる」って日本語としては破綻しているが、でもほんとそんな感じだった)、そのまんま“マイムマイム”。あの民謡のマイムマイムです。運動会とかで踊るやつ。それが異様にスリリングなロックンロールになっていて、意外すぎて笑う。そして3曲目は、出た、“トレイン・ロック・フェスティバル”。よくまあ平日の夕方にこんなに集まったもんだ、と言いたくなるオーディエンス(公式発表は5000人でした)、みんな大喜び。

歌い終えて岸田、「BoBo-!」というお客の声につられて、「オンドラムス、BoBo!」とメンバー紹介を始める。「オントランペット、ファンファン! オンギター、吉田省念! オンベベベベベース、佐藤征史! わたくし、きしだだだやー×○%#-!!」と、後半ヒアリング不能になったところで飛んだ「日本一―!」という声援に、すかさず「それはどうかと思う!」と返し、みんな大笑い。そして「フジとかで苗場とかに行きそびれてるんで、ここでセルフフェス気分です!」。みんな大拍手。でも、岸田くん、今週末にはROCK IN JAPANありますので。2日目の8月4日(土)、13時からGRASS STAGEです。

続いては“ばらの花”。このあたりで、シングルに入ってる4曲を全部やるわけじゃなくて、シングルの1曲目とシングルには入っていない新曲を少し、あとはお客さんが喜んでくれるおなじみの名曲たち、というセットリストなんだな、ということに気づく。もちろんみんな大喜び。間奏で岸田、あのテープ逆回転みたいな音のギター・ソロを響かせる。
「フリー・ライヴな、うれしいなあ。普段はお金とってやってんねんけど、それも観に来てほしいねんけど、フリー・ライヴええよな。みんな『タダで観れる、イェーィ』て感じやし、俺らも『タダでできる、イェーィ』て感じやし」。タダで「観れる」はわかるけど、なんで「できる」が「イェーィ」なの? という解釈もあるが、これ、本心だと思う。
次は吉田省念がギターをチェロに持ち替えて“ブレーメン”。後半、ファンファン、例の仁王立ちでソロを吹きまくる。かっこいい。それから岸田、シングルの告知をして、ここに来る前に渋谷のタワーやTSUTAYAを回ってきて、僕も5枚買いました、お小遣いに余裕のある方は買ってください、という話をして、「余裕のない方は、秋にアルバムが出ますんでそちらを」といきなり告知。全部で19曲だそうです。めちゃめちゃいいそうです。捨て曲、1曲もないそうです。全曲シングルカット可能だそうです。と、ここまで言って、「こんなん言うてていいんかな?」と我に返る岸田。「言うときましょう!」と即答する佐藤。
そして、「クラブというのは深夜クラブじゃなくてカニのほうです、カニと原子炉と未来、という意味です」と説明して、そのニュー・アルバムに入る新曲“crab,reactor,future”をやる。これもすごい曲だった。リズム、シャッフルと8ビートが交互に出てくる。で、シャッフルのところは主に英語、8ビートのところは日本語。まるで2曲を1曲にくっつけたみたい。くるりの曲で、こんなに英語が出てくるのってめずらしい。ただ、いきなりリズムや曲調が変わる曲は、過去にもくるりにはあったけど、そのどれとも違う、これまでにない感じの曲だった。タイトルどおり、メッセージ性が明らかな歌詞も含めて。

くるり@代々木公園野外ステージ
そのあとは、“ワンダーフォーゲル”“東京”と、鉄板中の鉄板曲を2曲ぶちかまして終了。アンコールに応えて再登場したら、ひとり増えている。堀江博久だ。「たまたま遊びに来てくれて、『弾いてください』て言うたら快諾」だそうで、彼が加わってもう1回“everybody feels the same”をプレイ。1回目はわりと淡々と演奏してたけど、2度目は吉田省念もファンファンも前に出てくるし、堀江、ぴょんぴょん跳ねながらファンファンのキーボードを弾きまくるし、岸田、ピート・タウンゼント奏法(腕をぶんぶん回すやつ)をくり出すし、みんな大暴れ。そして後半、演奏がブレイク、岸田の先導で、手拍子しながら「♪everybody feels the same」の大シンガロング。今日リリースされたばかりの曲が、もういきなりみんなのアンセムになっている、という、かなり感動的な光景でした。

全体に音が小さかったことと(場所が場所なのでしょうがないが)、シングルに入っているほかの曲もやってほしかったこと(どれも異常にいいので)、というのを除けば、確かに「45分のフェス」みたいな、本当にすばらしい時間でした。なお、11月1日から29日まで14本のツアーを行うことも発表されたので、遅くとも、アルバムはその前に出ると思います。本当に、楽しみです。シングルと、この日聴いた2曲のアルバム収録曲の感じだと、確かにすごいアルバムだろうな、という気がするので。(兵庫慎司)


セットリスト

1 everybody feels the same
2 chilipepper japonés(新曲)
3 トレイン・ロック・フェスティバル
4 ばらの花
5 ブレーメン
6 crab,reactor,future(新曲)
7 ワンダーフォーゲル
8 東京

アンコール
9 everybody feels the same
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