今夏のフジ・ロック出演以来、2度目の来日を果たした英・モアカムの4人組、ザ・ハートブレイクス。12/10の大阪・梅田Shangri-La公演を経て、東京では代官山UNITでのワンマンだ。開演前の客入れSEでは、山本リンダのデビュー曲“こまっちゃうナ”など女性ヴォーカルの昭和歌謡がプレイされていて、洋楽ライヴとしてはいささかシュールな光景なのだけれど、妙に馴染む。ライヴ・カメラマンのTEPPEIさんに教えてもらったのだが、これはマシュー・ホワイトハウス(Vo./G.)所有のiPodに収められている「Japanese Girls Pop」みたいなプレイリストなのだという。誰だ、こんなの教えたのは。いや、恐るべしYouTube世代と言うべきか。ステージのオープニングSEはシャングリラスだったけれど、マシューは昭和のビート・ポップにも、何かエキゾチックな魅力を感じているのかも知れない。何しろセンス良すぎなのである。
マシューの景気の良い挨拶から、まずは“Gorgeous”をスタートさせる4人。クリス・ディーキン(Ba./Cho.)のベース・アンプには、でかでかと「I ♡ TOKYO」のカッティングの文字。緩急をつけて、というよりジョセフ・コンドラス(Dr.)の気分次第かっちゅうくらいの異様に強いビートでドタバタしながらも清々しいバンド・サウンドを繰り広げてゆくのだが、“Liar, My Dear”のイントロではライアン・ウォレス(G./Cho.)の穏やかで美しいギター・フレーズが溢れ、ハートブレイクスの作曲の素晴らしさを垣間見せる。音源ではナイーヴかつ耽美なネオアコ・サウンドを繰り広げている彼らだが、ライヴ・バンドとしてのハートブレイクスは、思い切りの良いロックでフロアを熱くさせてくれるのだ。
今回の公演では、フジで披露された“We Are A Disaster”以外にも幾つかの新曲をプレイしてくれていて、“BAD”は勢いに乗ったハーモニー・ワークと共に力強くドライヴしてゆくナンバー。最終ブリッジ→コーラスへと突入する瞬間、マシューはその場でクルッとスピンしたりして、とてもライヴ映えのする一曲であった。ブルージーでムード一杯にプレイされる“Bittersweet”はバンドの「曲の良さに乗っかる力」が発揮され、“Remorseful”がバウンシーにオーディエンスを沸騰させる。それまでギターを抱えていたマシューがスタンド・マイクで歌い上げる“Hand on Heart”に至る頃には、ライヴのペースを完全に掴んでいた。“Polly”を終えたところに浴びせかけられる、「マシュー!」という男性の野太い声には「ヤッ?」と苦笑いして応えながらも「ビューティフルな夜だね、トーキョー」と楽しそうに告げる。
ライアンがフォーキーで物悲しいアルペジオを奏で、マシューと二人きりで“Jealous, Don't You Know”を披露するなど、ライヴ全体の流れに抑揚をつける工夫も見事だ。リズム隊の二人がステージに戻ると、長い腕を存分に振り回して繰り出されるジョセフのビートが、また異様に音量が大きい。やはりPAのミックス・バランスのさじ加減ではなかったのが笑ったけれども、終盤に投下されたもうひとつの新曲“Hey, Hey Lover”も熱くブルージーなライヴ映えするナンバーであった。本編ラストは、マシューが甘く歌い上げるナンバー“I Don't Think It Would Hurt to Think of You”で、演奏中にライアンも挨拶を挟み込む。アンコールはダメ押しで“Delay, Delay”を投下。4人は肩を組み礼をして、満足そうな笑みを浮かべながら去って行った。
ダンサブルなロックやサーフ・ポップ風のハーモニー・ワークといった時代の流れを汲みながらも、極めて健全にUKロックらしいサウンドとメロディを生み出すハートブレイクスの存在感は、情報が易々と地域を飛び越え、ちょっと聴いただけではどこの出身なんだか分からないことが多い今のインディー・ポップ・シーン(それはそれで面白いのだけれど)の中でも特徴的だ。YouTube世代の中でも第2世代の登場を感じさせるというか、自らの歴史性や地域性を対象化した上で、きっちりと自分たちのサウンドにしているのである。だから我々はハートブレイクスに、いかにもUKロックらしいUKロックとして気持ち良く触れることが出来るし、マシューは昭和歌謡をエキゾチックなポップ・ミュージックとして楽しむことが出来る。これは、一面的な保守性とは違うはずだ。今後は早くも新たなレコーディングに臨むと語り、「また何度も何度も何度も、日本に戻って来るよ!」と宣言していたマシュー。勢いに満ちながら世界に羽ばたき、またそのための方法を知っている彼らザ・ハートブレイクスの将来が、とても楽しみだ。(小池宏和)
01: Gorgeous
02: Save Our Souls
03: Liar, My Dear
04: BAD
05: Bittersweet
06: Winter Gardens
07: Remorseful
08: Hand on Heart
09: We Are A Disaster
10: Polly
11: Jealous, Don't You Know
12: Your Affection
13: Hey, Hey Lover
14: I Don't Think It Would Hurt to Think of You
(encore)
15: Delay, Delay