http://jackmanrecords.ro69.jp/artist/panpannotou
ライヴタイトルどおり、この日は3マンでのライヴだったがもちろん彼等はトリに登場。出演時刻が来て颯爽と現れるも、照明もまだうす暗い中から唐突に1曲目“空色”のイントロ、アコースティック・ギターによるリフがリピートされるや、まめが低めの声で日常の陰鬱な情景を、あの早口で一気に吐き出していく流れでライヴはスタート。オーディエンスも、冒頭でまずは一気に盛り上がるという定型パターンではなく、彼の放つ一言一言を聞き逃すまいと全神経を集中して音楽に聞き入っている、そんなシリアスな空気がたちどころに出来上がってしまうのも彼等のライヴらしいところだ。
続いて演奏されたのは昨年の「RO69JACK 11/12」応募曲=優勝曲だった“まんまるお月さま”。この曲は彼等にしては陽性のメロディーを持った曲で、サビのキャッチーさも含め彼等が昨年の「RO69JACK 11/12」の応募の際に「分かりやすい曲」として選んだことも納得の曲なのだが、すでにアルバムを聴いている方ならご存知の通り、そこではSEを凝らしたりアンサンブルに起伏を持たせるなど、CDで聴かせるための新アレンジが施されており、この日ももちろん新バージョンで披露。ちょっと重心を重めにしたテンポで、お月様を「化け物のような目玉」と美しくも畏れ多いものとして描く視線が強調されていて、パンパンの塔の何たるかをさらに強く印象付けていく。
さらには、サポートメンバーながらレコーディングでは全面的に参加し、それ以降もライヴではレギュラーとなっている森内が、べースラインのみならずステージアクションでも一層輝きを増してくるところも見逃せない。フレージングはもとより、常に全身をクネクネと躍動させそのバネから繰り出してくるフレーズは、かなりブラックミュージックのエッセンスが強いもの。アンサンブルに粘っこいグルーヴを含ませてくる手腕の素晴らしさはもちろんだが、何よりそれがまめの中にあるヒップホップ成分を強く焚き付けている様子が見ている側にもひしひしと伝わってくるのが頼もしいところで、バンドがまた新たな血を得て一層飛躍している様子がしっかりと目に見て取れるところも嬉しい。
そんな調子でどんどん飛ばしていく彼等。レコ発ライヴながらMCもほとんど無く、せっかく曲が広く世に発表されたんだから、といわんばかりの強気にして誠実な展開だ。5曲目“どうでもテレフォン”までノンストップで演奏したところで、ようやく最初のMCが入りまめが改めて挨拶する。それでも「レコ発を、デビューした場所、ここ池袋ADAMで出来て嬉しいです。ホームと言いつつ、実はあんまり出ていないんですけれど」と、笑いを誘う。とはいえ「せっかくなので、普段やらない曲もやってみたいと思います」と語り、森内がベースを置き赤いおもちゃのピアノを抱えてカチカチした可愛い音を奏でるスローナンバー“流水”をゆっくりとしたアルペジオで歌う瞬間も披露し、中盤の場の色を変えて見せる気遣いも見せる。
最後には、これもまたバンドのテーマ曲のひとつである“骨”を披露。日常的な学校の風景に始まりながら「ここではないどこか」へ聴く者を導いていく物語そして演奏は、いくつもの章にわたって舞台が移行していくだけでなく、フリーキーなアドリブ展開も多分に含む長尺曲ながらクルクルと表情を変える曲構成で、まったく中弛みのない進行で聞かせる。曲のエンディングは、話の終結の風景とも相俟って実は冷たく重たいものなのだが、こういう曲をライヴの最後に持ってくるところが彼等の持ち味であって、そこを承知しているオーディエンスは、しんみりとした中でメンバーがステージを後にするも、緊張から一気に解き放たれたように盛大なアンコールを求める声が沸き上がっていく。
ほとんどやり逃げと言っていい風情で、オーディエンスの熱狂をよそにその1曲だけで素早くステージを去ってしまった3人。当然のように場内はふたたびアンコールを求める声が止まない。今度は、ちょっと時間が経ってからだろうか、結局三度姿を現したのだが「もうこれで終わりです。バイバイ。CD買ってってください」という、まめの淡々とした挨拶で締めくくっていたところは彼等なりの「レコ発ライヴ」っぽかったのかも。(小池清彦)
セットリスト
1.空色
2.まんまるお月様
3.UFOと僕
4.新世界
5.どうでもテレフォン
6.流水
7.パレード
8.音楽は止まった
9.骨
アンコール
1.鳥人間