前日が大まかに言うと「爆音」なアーティストが揃っていたことと比較すると、この日は休日ということもあってか、悠々自適のマイペースぶりがいい、大人なラインナップ。星野 源が欠席になってしまったことは残念だったが、各アクトがそれを補って余りある熱演を見せた一夜になった(イベント中盤の転換時に、星野 源本人からの声のコメントが2分ほど流れました。「ごめんなさい」「元気です」「今日は楽しんでください!」と繰り返す声はいつも通りで、どうやら順調に回復に向かっている様子です)。それでは、出演順にレポートします。
■黒沼英之
オープニング・アクトということで、開演予定時刻18:00より早い17:40頃に登場した彼。昨年秋にインディーズから1stアルバム『イン・ハー・クローゼット』をリリースしたばかりのニューカマーだ。自身の弾く電子ピアノにベースとドラムを配した編成で、胸の内の悩ましさ・やりきれなさを、時に切々と、時に狂おしく歌って見せる。
ファッションモデルもやっているというだけありルックスも佇まいもスマートで、歌声もきれいな高音なのだが、なかなかどうして、歌いっぷりはソウルフルな汗くささが漂ったもの。~簡単なはずだったことを難しくしてしまう~青春期の苦悶を、決して太い声ではないものの懸命に張り上げて歌う姿は堂に入ったもので、そんなテンションの合間に溜め息のように漏らす「あぁ~」というつぶやきもセクシー。ベテラン勢の揃ったこの日にあって、ニューカマーながら遜色の無い光を放っていた。
「これまで、スピードスターのアーティストの曲を沢山聴いてきました。そして今日、一緒のステージに立てるなんて、本当に嬉しいです」という健気な挨拶とともに3曲でステージを後にした彼だが、初見の人が多いであろうオーディエンスに充分以上のインパクトを残したと思う。
■ハナレグミ
本来の開演時刻18:00ちょっと前になったところで、まず「ご注意・ご案内の場内アナウンス」がつじあやのによる、はんなりとした京都弁まじりの口調で流れ場内がリラックスしたところで、まず登場したのが、この人。鍵盤(スカパラの沖祐市)とウッドベースを従えたアコ―ステック編成ながら、蛍光の入った黄色シャツ&緑スニーカーをはじめとする派手な衣装も含め、開口一番のあっけらかんとした「めちゃめちゃ(お客さんが)入ってますね~、ありがとう!」という挨拶から早速オープンな人柄を全開にしてくる。
冒頭こそ、スローナンバー“光と影”の染みわたるような歌声で場内を大人な色に染めていた彼だったが、中盤「躍らせる気はあるからね」と悪戯っぽく囁いてからは、歌声もギター・ストロークも一転してファンキーなものに。“明日天気になれ”からは、煽らずとも観客サイドから自然と手拍子と合唱が湧きあがっていく。彼自身も温まってくるや「みんな、アホか~い?」と語りかけ、どんどん場内の理性を外していく展開に持ち込んで行くのだが、彼もギターを鳴らしながら歩くわ跳ねるわ、少ない人数を一手にカバーする躍動感を見せるなど、なかなかに忙しい。そして、ラテン風味の“オアシス”ではギターをレスポールに持ち替え、太いギターサウンドでドライヴ感を一層強調。「ラララ~ン」というコーラス部分の繰り返しが妙に執拗だな?と思っていたところ、このコーラスが場内に行き渡ったタイミングを見計らって歌詞を「ゲゲゲ~ン」に変更。「みんな、源ちゃんにパワーを送ってくれよ!」と叫び、場内の歌声をさらに熱っぽいものに引っ張り上げていく手腕も巧い。大合唱の場内を見て「源ちゃん、こんな感じになっちゃったけど、いいかな?」と照れながら語っていた。気がつけば、鍵盤の沖もオルガンの上に飛び乗って足元で鍵盤をさばいている有様で、ウッドベースのグルーヴも逞しく、全員がアンサンブルという概念を超えたところで一丸となっている、そんな瞬間でした。
彼自身も「この3人、いいですね。また、やりましょう!」とご満悦の様子で、最後はカーティス・メイフィールドのカヴァー“People Get Ready”でしっかりと締め、まずは1番手としてお役目以上の一体感を作り上げてステージを後にしていった。
■関口和之・つじあやの&ウクレレキャラバン
続いては、この日のために結成されたスペシャルユニットの登場。配置はステージ上にずらっと5人が並ぶ形で、オーディエンスから見て左(下手側)から、ベースのYANAGIMAN(ケツメイシ、ファンモン、溝渕 文などのプロデューサーでもある)、ウクレレを持った関口和之、ウクレレ&いろいろを担当するつじあやの、そして2007年世界口笛チャンピオンの分山貴美子(彼女もウクレレを持っている)、そしてギターとぺダルスティールに小倉博和という編成。これは、作年10月に関口和之がリリースしたアルバム『UKULELE CARAVAN』に参加したメンバーを中心としたもので、一見くつろぎながらも随所で高いミュージシャンシップを見せていた作風を、ライヴでも再現してくるもの。
1曲目は関口が「どうやら、今日は僕が一番先輩らしいので古い曲をやります。誰も知らないかもしれないけど…」と言いながら、早速サザンオールスターズの有名曲“Ya Ya”をゆっくりとしたインストゥルメンタルで披露。うっすらとリズムボックスが鳴る中、メイン・メロディーを関口がウクレレで弾き、つじがグロッケンで加わっていくという新アレンジに、場内もしっかりと聞き耳を立てている様子に。2曲目はアルバムのテーマ曲で、ここではつじもウクレレを手にし彼女のメインヴォーカルで晴れやかな空気を作り、ウクレレユニットならではの軽妙さを醸し出していく。続く“口笛吹きと仔馬”はタイトル通りに口笛をフィーチャーしたものなのだが、いや分山貴美子の口笛は、流石世界王者という看板に相応しいスグレもの。音程や音量が人間技とは思えないほどに正確に安定しているのはもちろん、なにより音色が艶やか。そんな口笛の響きを存分に活かしている、ちょっと後ノリの楽曲も素晴らしいのだが、それにしても一体どんな訓練をするとあんな口笛が吹けるのか?しばらくの間、そればっかり考え込んでしまった。続く、つじの楽曲“風になる”も口笛のカウンター・メロディーが入った新バージョンで披露。ラストは、ラジオの深夜放送「オールナイトニッポン」のテーマでお馴染み“Bitter Sweet Samba”という世代を超えた選曲でした。
■浜崎貴司
ここの転換時に、先に述べた星野 源の録音コメントが入り、場内は大きな拍手に包まれる。そんな、ちょっと真面目な雰囲気になったところで登場した浜崎貴司。「こういう時は、必要以上の拍手と必要以上の声援を!」と叫び、さらにオーディエンスを焚きつけ、ひとりによる演奏に突入。アコ―スティック・ギターがきしむような力強いストロークといい、足元に置いたぺダルによるバスドラム・サウンドの四つ打ちといい、ノッケからいきなり「攻め」のモードに入っているところが、今のこの人らしい。今を駆け抜けろ!と歌う“JOY!”に始まり、続く“ドマナツ”と立て続けにアッパーな曲を聞かせ、充分以上の気合いの程を見せつけてくる。
中盤は、今月30日にリリースされるコラボアルバム『ガチダチ』からの楽曲をいち早く披露するコーナーで、そのアルバムに参加している斉藤和義を早速呼び込み場内を喜ばせて見せる一幕も。もっとも、披露された共作曲は“デタラメ”というもので、歌う前の浜崎の台詞によれば「我々のデタラメさを思い知ってもらう曲で、みなさんを大変残念な気持ちにさせてしまうんですが…」とのことだったが、そう言われると逆に期待してしまうのがこの日の大人なオーディエンスであって、そしてそんな期待に見事に応えていた曲で笑ってしまいました。曲調はペケペケした脱力ロックンロールで、歌詞も「俺もAKBに入りたい」といった寝ぼけた一節で始まり、その後も「これじゃ放送出来ない」と歌う話が続く苦笑もの。しかし、そんな妄想ソングの中にもしっかり「俺が総理大臣なら、54をゼロに」といった一節も含ませるなど、一切の見栄やレトリックを排したストレートな気持ちが歌われた、こういう曲調ならではの良さが光っていたと思う。最後に一人に戻って歌ったのは、レーベルへの祝福と感謝の気持ちを込めて、彼がビクターという会社からリリースした最初の楽曲であり、フライングキッズのデビュー曲でもある“幸せであるように”でした。
■斉藤和義
そしてトリに登場したのが、この人。だからといって構えたところは全然無く、いつものように「ども、ども、いぇ~い、よろしくお願いしま~す」というとぼけた口調で始まったこの日のライヴはひとりによる弾き語り形式。なのだが、「ひとりでもロックンロールは出来る」と言わんばかりに一気に過熱していく姿が、それはそれは頼もしいステージだった。黒いエピフォンのエレキギターを抱え、ロックンロールの基本的なリフをイントロに配した“ずっと好きだった”に始まり(この日は、“ジョニ―B.グッド”のギターフレーズも挿入していた)、場内を徐々にロックのビートで満たして行く。そして、テレビCMにもなった“メトロに乗って”、ライヴの定番曲“歌うたいのバラッド”等々、有名曲で固めた選曲ながらそれらを敢えて剥き身の姿で披露し、歌詞の持つ物語性や、彼のシンガ―としてのエモ―ショナルな声質を今一度顕わにしていく作業は、アッパーな曲以上にむしろ中盤に配されたゆっくりめの曲でこそ発揮されるもの。時折挟みこまれる「オー、イエー!」という叫びも弾き語りだからこそ効果的で、曲順は緩急うまく並べたものだったが、熱気は一方的に高まっていく、そんなステージだった。
なので、終盤「激しめなやつをいきますね」と言って始まった“I LOVE ME”からの喧騒はそれは凄まじいもので、最後は“やさしくなりたい”“月光”とテレビドラマ主題歌として有名な楽曲を連発する頃には、すっかりトリの風格を築いているからお見事。40分ほどのステージだったが、去り際に見えた彼の背中のシャツが汗でびっしょりだったのも納得できるライヴだった。
■アンコール 全員
そんな調子でトリのステージが終わったとあれば、オーディエンスもアンコールの要求が止まらないわけで、場内一斉の手拍子が鳴り響く中、すぐさま多数のマイクスタンドが舞台に設置され、程なく今日の出演者全員がステージに再登場。まずはハナレグミこと永積タカシが「スピ―ドスターズです」のMCで笑いを取り、そのまま「今日はみなさん、この後、一杯ひっかけちゃったりするわけでしょ? じゃ、そんな感じで」と言って歌いだしたのは、昨年夏にCMで彼がカバーした“ウイスキーが、お好きでしょ”(オリジナルはSAYURI名義の石川さゆり)。たちどころに大歓声が沸き起こるや、「すごい! 大人気じゃん!」と本人が呆気にとられている姿も可笑しかったが、そこからハナレグミのバンドメンバーの演奏に乗って、つじ→関口→斉藤→浜崎とヴォーカルを数小節単位で何回も回して行く展開に。途中から、浜崎が「スピードスターは、お好きでしょ?」とアドリブをかまし始めたあたりからだんだん各人が悪ノリしてきて、しまいには浜崎の「あやのちゃんは、何が好き?」という問いかけに、割り込むように永積が「俺はねぇ~」と歌い始めるや、「あんたに訊いてんじゃないよ!」と斬って捨てられる一幕も飛び出すなど、最後はすっかり宴会な気分で幕となったレーベル20周年記念イベントの中日でした。なお、翌日、このイベントの最終日に出演するのは、くるり、SPECIAL OTHERS、細野晴臣、THEラブ人間の4組。こちらもレポートしますので、お楽しみに。(小池清彦)
SET LIST
■黒沼英之 (opening act)
1.blue
2.パラダイス
3.心のかたち
■ハナレグミ
1.光と影
2.ハンキーパンキー
3.明日天気になれ
4.追憶のライラック
5.オアシス
6.People Get Ready
■関口和之・つじあやの&ウクレレキャラバン
1.Ya Ya
2.ウクレレキャラバンのうた
3.口笛吹きと仔馬
4.風になる
5.Bitter Sweet Samba
■浜崎貴司
1.JOY!
2.ドマナツ
3.君と僕
4.デタラメ
5.オリオン通り
6.幸せであるように
■斉藤和義
1.ずっと好きだった
2.メトロに乗って
3.ウサギとカメ
4.歌うたいのバラッド
5.I LOVE ME
6.やさしくなりたい
7.月光
<アンコール>
■全員
1.ウイスキーが、お好きでしょ