MERRY @ SHIBUYA-AX

MERRY @ SHIBUYA-AX - 写真:中村卓写真:中村卓
MERRY 2013「devour」at SHIBUYA-AX

「また必ず戻ってくることを約束します。復活してむちゃくちゃできる日まで、みんなも体がなまらないように鍛えておいてください。またライヴで会いましょう」
ヴォーカリストでありながら滅多にMCをしないガラが、最後の最後、3回目のアンコールの後でしっかりと語っていたのが象徴的だったが、そんな律儀さ・誠実さが全体を貫いていたライヴだった。

ガラが以前から患っていた腰椎椎間板ヘルニアの治療に専念するため、今後のバンド活動について長い目で考えればこその活動休止というシビアな選択をしたMERRY。当日は休止前最後のライヴということで開演前から場内は特別な空気感だったのだが、まずはそんなオーディエンスに真正面から応え倒したストレートさが主役のライヴであり、同時にそのストレートさこそが現在の姿であることも再確認できる、どこまでも清々しい一夜だった。

数年前から各地のフェス・イベントにも出演し始めた彼等は、それまでの内省的なカラーを徐々に後にしており、持ち前のプレイヤビリティを発揮したオープンな楽曲やライヴにシフトしてきている。それは、昨年に過去を総括するべストアルバム『MERRY VERY BEST ~白い羊/黒い羊~』をリリースしたこと、そして今年2月にリリースされたシングル『梟』がスケール感の大きなサウンドに改めての決意表明ともいえる独白を付した楽曲になったことからも明らかで、まさにその楽曲をライヴ1曲目に配し、さらには3回目のアンコールでもう一回念を押すように披露した、そこに彼等の意志が集約されていたと思う。

そんなタイミングだからこそ、今ここでの活動休止という判断は余りにも無念なのだが、しかしそんな気持ちにいたずらに動揺せず、確固たる自信をしなやかに提示してみせた佇まいが嬉しいライヴだったともいえる。元々、技術的には安定したものを持ったメンバーなので、1曲目“梟”から続くパワーナンバー“夜光”でまずは一気に盛り上げつつ、一転してブルースな“絶望”、そしてMERRYのライヴの定番である学校机の上にガラが正座して歌う“ビニ本2丁目八千代館”など多彩な楽曲を並べながら、しかし全体をキリリと引き締まったアンサンブルで支配していく頼もしさがいい。

それにしても、この日のガラは得意のデスシャウトに一層の磨きがかかっていた。冒頭からMCも無いままひたすら曲を連発する流れは、喉にも肉体にもかなりのハードワークのはずで、実際冒頭数曲で顔面はすでに汗まみれ、中盤の“stupid × cupid”で早くも上半身裸になってしまう加熱ぶり(シャツを脱ぐと、腰にきつく巻かれているヘルニア矯正用のコルセットが丸見えで痛々しい)。そんなガラに触発されるように各メンバーも自ずと熱っぽさを増していく、そんな自然発生的な好循環が見えてくる展開もまた見事なもの。“stupid × cupid”で健一がスライドギターで聞かせるサイケな音像といい、結生が“オリエンタルBLサーカス”で聞かせるサイドヴォーカルといい、ガラの声に挑みかかるようにパワフル。クール担当のベースのテツも気が付けばウッドベースの曲で楽器を抱えてステージ前方まで迫り出してくる有様で、ドラマーのネロが思わず掲げるタオルには「全身全霊」という文字が誇らしげに描かれている。アンサンブルを重視しながら、それでも全員が胸の内に抱えた「思い」を惜しみなくオーディエンスの胸に焼き付けようとする姿。そこに無理がないからこそより逞しく目に映る、そんな強さが現在のMERRYなんだな、と改めて感じた展開だった。

そんなライヴの本編最後に用意された楽曲は、彼等にとっての出世作でありテレビ番組の主題歌にも起用された“群青”。そこで今一度「すべてを信じていた」季節を確認するように歌い、そしてオーディエンスに対して「声をください!」と叫ぶや、そこからは場内の合唱に歓声にひたすらに耳を傾けていたガラの姿も、これからのMERRYを示唆していた場面だったと思う。ガラ個人と世界との接点を歌ったものとして誕生しながら、この日・この場面では彼等とオーディエンスとの信頼関係を確認する場として歌われることになった、この曲。この楽曲が彼等の大きなターニングポイントになったこと、そして彼等自身がこの曲で変われたことへの感謝の気持ちを思わず回想する、象徴的な瞬間だった。

そんな流れを受けて始まったアンコールも、当然のことながらムードは陽性なものになる。まずは“T.P.O”で「武道館目指して走ればいい」と正直な気持ちをてらい無く歌い、続けざまに「海よ、太陽よ、空よ」と場内と合唱する“ジャパニーズモダニスト”でさらに一体感をあげていく彼等。ガラも最後には机の上での3点倒立も見せ、足で拍手(?)する芸当まで見せる頃には、活動休止直前とは思えない笑顔がいくつもこぼれ出す。続く2回目のアンコールでも“陽の当たらない場所”“アイデンティティ”と一層明快なメロディーそしてコーラスラインを持った楽曲を配し、今現在の彼等のメンタリティを強くアピールしてくる。

その空気は、2回のアンコールを経ても止まらない拍手の末に、最後の最後に今一度披露された最新曲『梟』へと自然につながっていく。活動休止直前ライヴながら、いや、だからこそ、現在急速に豹変中である彼等の「最新型」をオーディエンスに見せつけていた彼等。大きな変革をディスクにライヴに着実に反映させつつあったこの時期での活動休止は余りにも惜しい。しかし、何よりもガラの完治を優先させた判断には、大きな野心を感じるところでもある。活動再開の時期は現状にところ「未定」とされており、それはいたしかたないところだが、しかし再開した暁には目の覚めるような快進撃が待っているのではないか? そんな予感も充分に残して幕を閉じた一夜だった。(小池清彦)

セットリスト
01 梟
02 夜光
03 絶望
04 【collection】
05 ビニ本2丁目八千代館
06 罪
07 センチメンタル・ニューポップ
08 stupid × cupid
09 オリエンタルBLサーカス
10 ブルージー・ナイト
11 ザァーザァー
12 クライシスモメント
13 ハーメルン
14 不均衡キネマ
15 ロストジェネレーション
16 愛国弐~BURST~
17 Carnival
18 群青

ENCORE1
01 T.O.P
02 ジャパニーズモダニスト
03 消毒

ENCORE2
01 陽の当たらない場所
02 アイデンティティ

ENCORE3
01 梟
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