曽我部恵一BAND @ LIQUIDROOM ebisu

「曽我部恵一BAND TOUR 2013 トーキョー・コーリング THE PARTY!!!」

『曽我部恵一BAND』から『トーキョー・コーリング』にかけて、音楽表現のレンジをぐぐっと押し広げたソカバンの最新ツアー。追加公演にしてファイナルとなったリキッドルームは、ワンマンではなく〈THE PARTY!!!〉と題されたイヴェントとなった。曽我部のオフィシャル・サイト上のコメントによると、《「PARTY」には党派や政党って意味もある》《ぼくたちの態度、思想、リズム、ダンス、勘違いや悪ふざけ、情熱、愛、そしてその他のささやかだけれど役に立つかもしれないものが、この夜、きっと見える、と思う》といった説明がなされている。ワンマンでがっつりと見せるよりも、テーマを掲げたイヴェントとしての方が見えることもある、といった趣旨なのだ。もちろん、純粋に音楽イヴェントとしても素晴らしい一夜だったが。

DJとして参加したPUNPEEが邦楽ヒップ・ホップの鮮やかな選曲とミックスによってフロアを温めたところに、まずはどついたるねんが登場。派手に髪を逆立て、無数の鋲が打たれたシカゴ・ブルズのジャケットを身に纏ったワトソン(Vo.)がユーモラスなアカペラの熱唱を繰り広げてから、他のメンバーも姿を見せて爆笑パフォーマンスがスタートだ。ろくに楽器を弾かず勢いだけで歌い踊るような場面も多いのだが、今にもステージから転げ落ちそうになりながら奇っ怪なダンスを踊る山ちゃん(Mara)といい、「今日、初めて両親が観に来てくれました!」と感無量なうがい(Key./Sampler/G.)といい、帰りの燃料を積まずに行ったら行きっぱなしみたいな全力のステージで最高のトップバッターである。笑いの中にも「こんなに期待されたのは初めてだから〜」とワトソンが歌う“1986”が泣けた。彼らは昨年末にその曲をタイトルに冠したアルバム『1986』を、今年1月には全99曲収録という『どどどどどついたるねん』をリリースしている。

転換中にはツェッペリンやレッチリ、ビースティーズ辺りの洋楽曲を次々にマッシュアップするPUNPEE。そしてライヴの2組目は、奇妙礼太郎率いる4ピースのロックンロール・バンド=アニメーションズだ。パンキッシュだがやたらにチャーミングなメロディと無駄のないパブ・ロック風の演奏、それに奇妙礼太郎のソウルフルな歌声が映えて惹き込まれる。奇妙礼太郎は「ライヴ・ハウスには可愛い女の子は一人もいないのさ〜」みたいな歌詞でオーディエンスを確実に魅了してしまう。自分たちが好きなもの、自分たちに似合うものを徹底的に突き詰め、甘言や虚飾を切り捨ててゆく素晴らしいロックンロールである。ディスコ・チューンの“音楽を止めないで”まで8曲を披露。3/20にはROSE RECORDSからライヴ盤『ANIMATIONS LIVE!』がリリースされるが、この日の会場でも先行販売されていた。

さて、三たびのPUNPEEによるDJはJ−POPミックスで、cero→クラムボン→椎名林檎→Perfumeという流れのプレイが素晴らしかったが、ここでひときわ大きな喝采を巻き起こしながらソカバンの登場だ。ちょっとビビるぐらいカッコいいライヴだった。上野智文(G./Vo.)の柔らかなカッティングが跳ねる“トーキョー・コーリング”から、音源とは打って変わってシークエンスなしの生グルーヴで加熱してゆく。それが凄まじくファンキーでエモーショナルなのである。“ルビィ”からBPMの早い“ワルツ”へと、「ロック」が勝ってる、だからこそ踊れるし盛り上がれるダンス・ロック・チューンが続く。で、この後に“ロックンロール”や“スウィング時代”といった切れ味鋭いロック・ナンバーによってフロアの盛り上がりはピークに達してゆくのだが、序盤の『トーキョー・コーリング』曲の、誰一人として逃さない、みたいなグルーヴがあってこそ到達した沸点だったように思える。

この後のソカバンはもう、何をやっても大丈夫な無敵感を纏っていた。“キラキラ!”の思い切りの良い華やかさや、昨年からライヴの度に披露していると言う、曽我部ひとりの弾き語りからフォーキーに始まる“満員電車は走る”。リアルを抉りながらどこかで必ず聴く者を救ってしまう曽我部の歌と、バンドでヒート・アップする展開ののち、曽我部は余りにも激しくギターを振りかぶるので、あわや隣の大塚謙一郎(Ba./Vo.)の顔面にヒットしてしまいそうだった。言葉が零れ落ちるスポークン・ワード曲“サマー・シンフォニー”では、PUNPEEがラッパーとしてゲスト出演。曽我部への感謝を語るフリースタイルで歓声を浴びていた。さすがの実力派である。半ば“サマー・シンフォニーver 2 feat PSG”の再現となった。

終盤は“サーカス”〜“どうしたの?”で会場内の空気が撹拌するような心地よい時間が続き、オータコージが思いっきりドラムを引っぱたきながら盛大なコーラスを支える“魔法のバスに乗って”、さらには締め括りのロックンロールSTARS”で本編を終えた。アンコールに応えた曽我部は“天使”を披露する前に、「タランティーノの『ジャンゴ (繋がれざる者)』観た!? これが最高の最高で。遠藤賢司さんにメールして、やっぱりタランティーノは自分が作りたいものを作ってるからいいよねって。やっぱりモノ作りってそうだよね! これからもそうやって、音楽を作っていきたいと思います」と上気しながら語っていた。

曽我部という人の音楽への深い造詣と飽くなき探究心からすれば、表現の可能性は限りないし、だからこそ表現のフォーカスを絞り、衝動とフィットさせるためにソカバンの率直なロックンロールが生み出されたのだと思う。でも、『曽我部恵一BAND』と『トーキョー・コーリング』で、一気に表現のレンジが拡大した。ロックなまま広がった。彼が語るところの「PARTY」を、つまり人々と繋がる可能性を増やすためではないだろうか。そんな志の形を受け止めることが出来たイヴェントであった。それにしてもソカバン、凄いことになっている。今後のライヴを観る機会を、ぜひ大切にしてほしい。(小池宏和)
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