パブリック・イメージ・リミテッド @ SHIBUYA-AX

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20年ぶりのアルバム『This Is P.i.L.』を携えてのツアー、SHIBUYA-AX2デイズの1日目のレポートなのだが、少しでも興味があって、参加を決めかねているという人は、迷わず4/6のジャパン・ツアー最終日に足を運んでほしい。それぐらい素晴らしいライヴだった。さすが、P.i.L.。さすが、ジョン・ライドン。東京では2デイズということもあってか若干オーディエンスの入りが寂しかった初日なのだが、これは本当に勿体ない。何より、そんな状況をものともしないパフォーマンスと、集まったオーディエンスの熱狂があった。

2011年、サマーソニック来日のタイミングで単独公演も行ったとき、ジョンは「新作を出したいんだけど、レコード会社が見つからないんだよ」と開けっぴろげな愚痴を零していた。ジョン・ライドンが、である。結果的に『This Is P.i.L.』は自主リリース(日本盤はEMIからリリース)となり、そして多くのリスナーやメディアの好評を博すことになる。一昨年のライヴと新作が素晴らしかったので、たっぷり期待して今回の公演に臨んだのだが、いくら期待してもし過ぎることはない、そんなパフォーマンスで応えてくれたP.i.L.だった。

現在の体型によく似合った衣装で、どことなく可愛らしいルックスのジョンが両手を広げながら深くお辞儀をし、「Hello Tokyo, Good evening. This is PiLLLLLL…」と『フラワーズ・オブ・ロマンス』のオープニング曲“For Enclosed Walls”からパフォーマンスがスタート。ヒステリックだが伸びやかな響きを持つジョンのヴォーカルも滑り出し快調である。歴代の代表曲に新作曲4曲を含むセット・リストで、レポートの末尾に添えたリストだけ見ると全15曲と多くはないように思えるけれど、これはところどころに長尺のナンバーが配置されているため。“Albatross”がいきなり長い。反復する強靭なバンド・グルーヴに吞み込まれ、スピリチュアルな陶酔感の中で、物質社会のシャーマンと化したジョンの声を浴びることになる。

“Deeper Water”、“Reggie Song”といった、個人的には新作曲の中でも聴きたかった曲を披露してくれるのが嬉しい。過去の人気曲に負けず劣らず、コーラスのフックを活かした腰の強いソング・ライティングが映える。ギラギラとした鋭利なギター・サウンドを繰り出していたルー・エドモンズは、“Reggie Song”以降にエレクトリック・サズ(ネック部分が長い、3弦の楽器)をボトルネックを用いながらプレイしたり、“Flowers Of Romance”ではバンジョーを弓弾きしたりと、独創的なアイデアを次々に持ち込む。ラップトップ上の同期サウンドやシンセサイザーも操るベーシストのスコット・ファース、ザ・ポップ・グループやニュー・エイジ・ステッパーズのオリジナル・ドラマーでもあるブルース・スミスといった面々の4ピースは、ロック脱構築を地で行く挑発的な楽曲をひたすら繰り出してゆくのだが、最も驚くべきは、そのバンド・サウンドが決してキャッチーさを損なわないということだ。凄まじい音楽の磁場/引力が形成されている。

UKダブ/パンクのバック・トゥ・ベーシックとでも呼ぶべき“One Drop”に触れながら思ったのは、今のジョン・ライドンとP.i.L.の積極的な活動姿勢と高い熱量を支えている理由のひとつに、もしかするとジョンの義娘アリ・アップの若い死(享年48歳・2010年)があるのではないかということだった。“Warrior”では「俺は決して屈服しない!」と高らかに唱え、ユーモアを交えながらも反骨精神を剥き出しにするジョン。酒と水を交互に呷り(でもそのほとんどは飲まずに吐き捨てているようだった)、本編終盤は“白鳥の湖”こと“Death Disco”からの、“This Is Not A Love Song”、そして堂々の“Public Image”というアップリフティングなナンバーの連打でフィニッシュである。「4分間だけ待ってて。ちょっとタバコ吸ってくるから。まだ帰るなよ!」とジョンは去り際にお約束の一言を残す。

で、戻ってくると改めて感謝の言葉を告げ、「Good night」と帰る素振りを見せるのだが、アンコールも含めて2時間弱、ソロでレフトフィールドに客演したときのシングル曲“Open Up”のカヴァーまで、ジョンは驚異的な集中力と熱量をもってパフォーマンスを完遂していた。“Out Of The Woods”では、孤立することを恐れずに戦い抜き、今日に至るジョンの姿が歌詞の中の「Jackson」と被る。人がシステムに属するべきなのではなく、人の生活に応じてシステムは変化させるべきなのだということを、P.i.L.の音楽はこの上なく明快に伝えていた。デビュー・アルバムの1曲目“Theme”のいきなりのドン詰まり感を思い返せば、『This Is PiL』の最終トラック“Out Of The Woods”でP.i.L.が生き存え、サヴァイヴしている姿は、一言では言い表せないほどの強い気持ちをもたらしてくれる。(小池宏和)

01. For Enclosed Walls
02. Albatross
03. Deeper Water
04. Memories
05. Reggie Song
06. Disappointed
07. Warrior
08. Flowers Of Romance
09. One Drop
10. Death Disco
11. This Is Not A Love Song
12. Public Image
encore
01. Out Of The Woods
02. Rise
03. Open Up
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