「クリープハイプの窓」
《嫌い 嫌い 嫌い 嫌い 嫌いと突き放したって 結局ここに帰ってくるんだよ》……衝動と純粋さとリビドーが入り混じったような、あの唯一無二の超ハイトーン・ヴォーカルで“あの嫌いのうた”のフレーズを歌い上げ「……帰ってきたよ!」と呼びかける尾崎世界観(Vo・G)に、満場の中野サンプラザから熱い拍手が沸き上がる――5月25日・札幌cube gardenから仙台/新潟/福岡/広島/大阪/名古屋と回ってきた計8公演の全国ツアー『クリープハイプの窓』のファイナルにして、クリープハイプ最大規模のワンマン・ライブ=東京:中野サンプラザ公演。「昔から勉強とか運動とか全然できなくて、これからどうなるんだろうな?ってすごく心配してたけど……こんなでかいところが埋まって、メンバー4人ともほんと幸せです。ありがとうございます!」と尾崎も途中のMCで話していたが、クリープハイプのどこまでもリアルで鮮烈なロックンロールの大きな到達点であると同時に、その先へ向けた4人の静かな決意も窺えた、充実のステージだった。
2ndシングル『社会の窓』と3rdシングル『憂、燦々』リリース直後のツアーということもあって、冒頭の“あの嫌いのうた”のアッパーな疾走感を『社会の窓』収録の“週刊誌”でさらにドライブさせたり、《下北の》の部分を「サンプラザ」に変えて歓声を巻き起こしたりもしつつ、特に後半の重要部分に『社会の窓』『憂、燦々』曲を配してこの日のステージを構成していたクリープハイプ。バンド史上最大規模のワンマン、しかもバンドにとっても初の椅子席のホール公演ということもあって、「緊張してる?」とか「行儀がよすぎて気持ち悪いんだけど! 後でみんなでウンコ投げたりしないよね?(笑)」とか尾崎が何度も呼びかけるくらい、いつものライブハウスでのはちきれんばかりの熱狂感とは若干異なる空気感ではあったし、それはそのままこの大舞台に立ったバンド自身の緊張感によるものだろう。それでも、「いっぱい名曲がありますので。今日はどんどんやります!」という言葉通り、他でもないその楽曲と演奏そのものでホール丸ごと歓喜の果てへと導いていくような熱演を観せてくれた。
“SHE IS FINE”では客席丸ごと手拍子を巻き起こしたり、小川幸慈(G)の幾何学的ギター・フレーズが印象的な“愛の標識”をひときわ強烈な疾走感とともに鳴らしてみせたりする中、最終兵器的ナンバー“HE IS MINE”はこの日は序盤で炸裂。「過去最大規模の“アレ”になりますけど……やりますか?」と尾崎。《今度会ったら》に続けて、満場の中野サンプラザに「セックスしよう!」の大合唱が響き渡る。直後のMCで「……あれ何て言ってるんですか? 残響がすごくて聴こえませんでした(笑)」ととぼけてみせる尾崎のSっぷりも含めたコミュニケーションが、会場の温度をさらに高めていく。長谷川カオナシ(B)&小泉拓(Dr)の力強いビートが響く“チロルとポルノ”から“風にふかれて”“蜂蜜と風呂場”の流れでのあっけらかんと乾いた高揚感。尾崎がアコギに持ち替えて歌った“グレーマンのせいにする”“明日はどっちだ”。4人のアンサンブルと尾崎の絶唱がひときわエモーショナルな熱を帯びた“おやすみ泣き声、さよなら歌姫”……それらの楽曲ひとつひとつが「バンドの表現」を越えて、この場に集まった「みんなのうた」になっていることが、オーディエンスの視線と熱気からも伝わってくる。
そして「今から、とっても大事な曲を歌います」と“憂、燦々”の前に語り始めた尾崎。「CMで自分たちの曲が流れ始めて、自分たちのことを知らない人にも届くことが増えて。いろんな意見があって……よくわかんなくなったりもしたけど。ツアー8本目、いろんなところに行って、今のところお客さんも受け入れてくれていて、楽しそうにライブを観てくれていて。っていうのを見て、とりあえず今は、目に見えるものとか、目に見えるものを、大事にしようと思いました」という尾崎の言葉に、惜しみない拍手が送られる。「いずれは、知らないそこらへんのおっさんとかも連れていけるような大きなバンドになりたいと思ってますので。これからもよろしくお願いします!」……そんな決意表明とともに鳴らした“憂、燦々”の晴れやかなサウンドとメロディが、ここに集まったすべての人の、そしてもちろん自分たち自身の「これから」を照らし出すように響いた。
長谷川いわく「寝ているほうが起きているより好きな人の曲」という長谷川作詞曲“AT アイリッド”で尾崎&長谷川の絶妙なハモリを聴かせたところで「寝相がね、ちょっと斬新だから」と長谷川をいじる尾崎。ライブももう終盤、「そろそろ終わりますから」の言葉に「えーっ!」と声を上げる客席を見回して「夢の中にいるような感覚ですよ」と感慨深げな表情を見せたところで、“イノチミジカシコイセヨオトメ”から怒濤のクライマックスへ。“手と手”でサンプラザを震わせたパワフルなサウンド。フィードバック・ノイズから流れ込んだ“ウワノソラ”でのアグレッシブなビート感。ミクスチャー・ロックからブレーキの壊れたロックンロールへと雪崩れ込む“身も蓋もない水槽”。キャノン砲の銀テープ飛び交う中で本編を締め括ったのは“社会の窓”。「簡単な質問なんだけど、最低なのか最高なのか、教えてくれますか?」の尾崎の呼びかけとともに、《夜は窮屈すぎて》に続けて「最高です!」と叫び上げるオーディエンスの声が、広大な空間に高々と響き渡った。
アンコールを求める観客に応えて再び登場した4人。観客が持っている銀テープを見て「そのキラキラしてるやつはみんなで分けるんだよ! 歌詞が書いてあるんだよ。ちゃんと分けるんだぞ! で、連絡先とか交換して、付き合え!」という尾崎の言葉に客席がどっと沸く。「今日はせっかく椅子もあるし、座ってもらってじっくり聴いてもらえたらなと思います。とても大事な曲で……大事な曲何曲あるんだよって話だよね、さっきから(笑)」と言いつつ歌ったのは、『憂、燦々』収録の“傷つける”。《愛なんてずっとさ ボールペン位に思ってたよ》――愛ゆえの悲しさと空しさを、アコギを手に切々と歌い上げていく尾崎の声に、オーディエンスは息を呑んで聴き入っていく。4人がステージを去り、これでライブ終了――かと思いきや、再びオン・ステージ。「アルバム出ますので」とさらっと告知した後、ツアーのフィナーレを飾ったのは『社会の窓』から“さっきの話”。《どれもこれも全部が 大事な物ばかりで困ってしまうわ》という歌詞の中の物語が、バンドの状況もファンの想いも抱き締めながら前へ先へと突き進む4人の「今」と重なって、胸が熱くなった。2ndアルバム『吹き零れる程のI、哀、愛』を7月24日リリースし、クリープハイプはさらに進んでいく。彼らの行く先が、今から楽しみで仕方がない。(高橋智樹)
[SET LIST]
01.あの嫌いのうた
02.週刊誌
03.SHE IS FINE
04.左耳
05.ABCDC
06.愛の標識
07.HE IS MINE
08.チロルとポルノ
09.風にふかれて
10.蜂蜜と風呂場
11.グレーマンのせいにする
12.明日はどっちだ
13.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
14.オレンジ
15.憂、燦々
16.ATアイリッド
17.イノチミジカシコイセヨオトメ
18.手と手
19.ウワノソラ
20.身も蓋もない水槽
21.社会の窓
Encore 1
22.傷つける
Encore 2
23.さっきの話
クリープハイプ @ 中野サンプラザ
2013.06.21