中村一義 @横浜BLITZ

中村一義 @横浜BLITZ
中村一義は、孤高の天才シンガーソングライターとして世に登場した男である。しかし、盟友・町田昌弘ともに日本全国のライヴハウスを行脚した、初のシンプルかつラフな弾き語り形式でのトーク&ライヴツアーで見せた表情は、「孤高の天才」と呼ぶべきものではないように感じた。無論、その歌声の偉大さは中村一義である。けれど、「会話をするように音楽を楽しむ」ことをテーマとしたトーク&ライヴツアー「まちなかオンリー!」で響かせていたのは、彼の音楽の親密さであり、あたたかさであり、そして大きな優しさだった。

ライヴは“愛すべき天使たちへ”でスタート。横浜BLITZのステージの真ん中で、椅子に腰掛けて、観客一人ひとりに語りかけるように歌う中村一義。その隣で、アコースティック・ギターをガンガン弾きまくる町田昌弘。曲の途中、「横浜BLITZ、『まちなかオンリー!』ラストでございます!」というセリフを中村が思い切り噛んでしまい、会場をざわつかせるという一幕も。「まちなかオンリー!」ファイナルは、なんともこのツアーらしい緩い感じで幕を開けた。

1曲歌ったところで、早くもトークコーナーが始まってしまう。7月26日、広島CLUB QUATTROよりスタートしたこのツアーがいかに暑かったかと切々と語る中村に、「暑いのが苦手なら、もうちょっとツアーの時期を選んだほうが良かったんじゃない?」と冷静なツッコミを入れる町田。マイペースな二人のやりとりがなんともおかしい。「それにしても、天気もいろいろだったね……」と中村の分かりやすい前フリから始まったのは、“晴れたり、曇ったり”。アルバム『太陽』と同じく1分足らずの“秋”を続けると、デビュー当時から歌っていた、はっぴいえんどの“恋は桃色”のカヴァーで会場を沸かせる。

ツアーの思い出を写真と共に振り返る「まちなかダイアリー総集編」で再びゆるゆるとしたトークを繰り広げると、ご当地ゆかりのアーティストの名曲をカヴァーする企画「カヴァーしたいんなら、カヴァーしちゃいな?」へ。「横浜と言ったらこの人たちでしょ!」(町田)と歌ったのは、まさかのキャロル“ファンキー・モンキー・ベイビー”だ。いつになく力強く男くさく歌い上げる中村のヴォーカルも圧倒的だが、このロックンロール・ナンバーをアコースティック・ギター1本で再構築してしまう町田のギターも尋常じゃない。さらに聴き手の胸をえぐるようにシリアスに響く“セブンスター”を続けると、「名前の曲を歌いたいと思います」(中村)と100sの“なのもとに”を披露。会場の空気を一気に変え、観客を曲の世界の中に引きずり込んでいった。

横浜BLITZが驚きと歓声に包まれたのは、カヴァー企画の総集編としてリクエストの多かった3曲を演奏する「カヴァーしたいんなら、カヴァーしちゃいな?スペシャル」だ。1曲目は「まさかこの曲を歌える日が来るなんて」と中村が語って披露した、岡村靖幸の“あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう”。歓声と一緒に大きな手拍子が巻き起こり、会場中が歓喜に包まれた。続いては、「ずっと同じコード進行が続くので、一つの文字をずっと書いているみたいに、だんだん変なことを考えだしちゃう」と町田が語る、ウルフルズの“笑えれば”。まるで今日の中村本人のような、優しくあたたかいメロディが会場に笑顔を広げていった。そして「ラスボスです。これで声が壊れたらごめんね」と、フラワーカンパニーズ“深夜高速”を熱唱! こみ上げてくる熱い感情を、体を折り曲げて歌い上げる中村に、心を強く掴まれる。

中村一義 @横浜BLITZ
「2人でやると寂しいというかしんみりするので、皆さんに手伝っていただきます」と歌った、ツアーのテーマ曲“魔法をかけてやる!!”は、観客が手と足で刻むリズムにのせて演奏。さらに、「この曲、サビを自分で歌ってないんですよ、なんてこった〜!」と中村が頭を抱えた “ジュビリー”では、観客が男性コーラスと女性コーラスに分かれてサビの部分を合唱し、横浜BLITZがなんとも喜び祝いたいような祝賀感に包まれる。「歌ってくれたみんなへのお礼に、デビュー曲やります」と歌った“犬と猫”では、町田のアコースティック・ギターの豪快なアレンジで興奮を加速させた。ラストはHermann H.&The Pacemakersの岡本洋平と若井悠樹をステージに呼び込み、4人で“1,2,3”を歌って大団円。アンコールでは大きな手拍子の中“キャノンボール”を観客と一緒に大合唱し、“バハハイ”を2回連続で歌ってライヴは終了した。

いつになく、中村一義というシンガーをすぐそばに感じた「まちなかオンリー!」。集まった観客は、きっと中村一義の音楽を胸に抱いて生きてきた人たちばかりだっただろう。会場の一体感は、ものすごいものがあった。この空間を永遠に心に閉じ込めておきたいと思うほど、特別な高揚感と喜びに満ちあふれたライヴだった。(大山貴弘)
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