シシド・カフカ @ 渋谷クラブクアトロ

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この才媛には、ぜひ生のステージで向き合うべきだ。CMやPV映像で目の当たりにすることが出来る、シアトリカルでフォトジェニックな佇まいのシシド・カフカは、いざライヴの現場となれば愛嬌を振り撒きながら生々しい人間性を解き放って人々を魅了する、一人のアーティストと化す。CDシングル・デビューから約1年、この9/4に待望のファースト・アルバム『カフカナイズ』をリリースしたシシド・カフカの、東京初ワンマン。今回お届けするライヴレポートでは、演奏曲など少々のネタバレを含むので、閲覧の際はご注意を。今後は大阪(9/28)や名古屋(10/14)でのワンマン公演も行われるほか、黒木渚/さめざめらとの『渚とカフカとさめざめツアー』も神戸(9/9)、名古屋(9/10)、東京(9/18)と各地を巡る予定になっている。

開演時間を迎え暗転したフロアには、「渋谷クラブクアトロにお越しのあなた。ようこそいらっしゃいました。クアトロ……クアトロ……良い響きよね♡」とカフカ自身による艶かしい声色の影アナが響き渡り、続いて『オールナイトニッポン0(ゼロ)』を彷彿とさせるラジオ・パーソナリティのスタイルで注意事項がアナウンスされる。聞き覚えのある不穏なブレイクビーツをバックに「録音・録画は禁止です。NO MORE ライヴ泥棒」と告げたり、ライヴの機会に女の子とお近づきになりたい男性オーディエンスには「モテる男の3Gは、ジェントル、ギャップ、強引よ」とアドヴァイスを投げ掛けながらも、女性の立場としてノリノリで「簡単にはやらせはせんぞー!!」とドズル某閣下の台詞をサンプリングしてみせたり。誰だ、こんなの教えたのは。軽妙なトークとサブカルまでを見渡すユーモアで人々を釘付けにしながら、サポートのギタリスト/ベーシストと共にステージに姿を現して喝采を浴びるのだった。

「最高の夜にしよう!」と、凛と背筋を伸ばした姿勢でソリッドかつしなやかなドラム・プレイを繰り出し、ヘッドセット・マイクで歌い出すオープニング・ナンバーはシングル曲の“キケンなふたり”だ。強烈にロックな手応えのビートと、キュートでかっこいいヴォーカルの節回しで楽曲を届け、バンド感たっぷりな3ピースのアンサンブルも最高だ。「いいねいいねー! 最初から声出てるねー!!」とオーディエンスに呼び掛けて早速コール&レスポンスに持ち込む手捌きも鮮やか。見目麗しいルックスとトーク、演奏技術と、持ち得るスキルをのっけからフル回転させて人々を乗せてゆくさまは何とも痛快である。

歌謡テイストと手を取り合うブギー・ビート、力強い4つ打ち、クールでオシャレなファンク・グルーヴなど、多彩なスタイルの楽曲群を支えるドラム・プレイと歌を次々に披露してゆくのだが、曲間では唐突にカフカの斜め後方、赤いランプが点灯し、「酸素吸入中」の表示が出て笑わせてくれる。ヘッドセット・マイクが拾う、彼女の荒い息遣いがリアルだ。「自分でもねえ、予測があったんですよ。絶対、ペース配分しないなと思って(笑)。だって、つまらないじゃん!」と、前のめりにワンマン公演を楽しみ尽くそうとする姿勢が伺える。「あ、気付いた? ワイヤレス導入しました! 前はここ(ドラム・セット)に釘付けだったけど、今日は文句あったらこうやって言いにくるからね」とステージの淵に身を乗り出しては、心地良さそうにフロアを見渡している。

シシド・カフカ @ 渋谷クラブクアトロ
友人のオーディションに付いていったら自分も歌わされた「よく聞くじゃん? 本当にあるんだと思って」という往事のエピソードや、2人のプロデューサーと出会ってからの8年越しの音楽表現スタイルの確立について触れながら、カフカは「叩きながら歌うなんて、思ってなかったもんね。つらいの分かってたし(笑)。喚きながら全力疾走してるようなもんだよ。今度やってごらん」「歌詞を書くことは、自分を掘り下げることで。ああ、自分は何も持ってないんだぁ、って気付いて、絶望して。やってみても上手くいかなかったり、また自分が嫌いになったりもして」といった経験を語る。そして、当時の思いが込められた“群青”を、自らギターをストロークさせるアコースティック・セットで、フロアに染み渡らせるように歌うのだった。ドラムスというツールを通したスタイルだけではなく、歌詞に込められた思いで自己表現を力強くドライヴさせることが出来るアーティストなのだと、気付かされるような一幕だ。

カフカは「何も持っていない」と語っていたけれど、彼女は間違いなく、才能に恵まれたアーティストである。歌のエモーションに、ビートの一発一発に、その才能は息づいている。ただ、美貌に恵まれモデル業をこなし、鮮やかなトークも冴える彼女が、なぜ振り乱した髪を汗で額に張り付かせながら、ドラムを叩きまくり歌うのか。そこには、才能だけでやっていけるほど世の中甘くないよ、といった彼女なりの経験値と思いが、宿されているからだろう。才能=文字通りの意味でのタレントとは何なのか。シシド・カフカというアーティストは、ステージ上で、そのテーマを全身で問いただしているように見える。

再びラジオ・パーソナリティ風のインタールードが差し込まれている間にお色直しを行ったカフカは、アルバムに収められていたビール讃歌のパーティ・チューン“100年ビール”を合図に怒濤の後半戦へと傾れ込んでゆく。途中、またもや赤ランプが点灯し「ちょっと待って! あと5秒ちょうだい!」と告げる彼女に、容赦なく襲いかかるのはオーディエンスのカウントダウンである。これが「よっしゃ、いこっか!」と何度でも彼女を燃え上がらせるヴァイブを生み出し、「終わりが近づいて参りました……」「ムリ!」「えーっ、とかじゃなくて、ムリなんだ(笑)」といった特別な歓喜が練り上げられてゆく。ゴリゴリのロック・チューンなのに煌めきも宿した配信デビュー曲“デイドリームライダー”で本編は締め括られたのだが、アンコールに応えてプリッツのCMの話題に触れながら「まだ聴いてない曲あるよね?」と披露されるのは、もちろん《プリプリ プ プ プリプリ プ プ プ》のフレーズが小気味良く弾ける“Hunger×Anger”だ。

「せっかくだから、大きいこと言おうと思う。知ってるかい、あたし、チキンハートなんだよ? ここにいる皆さんを、武道館に連れて行きます! 皆さんと、ひとつひとつのことを大きくしていけたらと思います!」と語ったカフカ。喚きながら全力疾走するのは、確かにつらい。でも、もしかすると、喚きながら全力疾走した方が速いかも知れない。彼女はその可能性に気付き、トライし続けるアーティストなのだ。そんな姿が、更なる興奮を呼び起こし、より多くの人々を巻き込んでゆくのだろう。(小池宏和)
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