only in dreams「Showcase Live」 @ SHIBUYA-AX

only in dreams「Showcase Live」 @ SHIBUYA-AX - ASIAN KUNG-FU GENERATION/all pics by TEPPEIASIAN KUNG-FU GENERATION/all pics by TEPPEI
2010年6月に後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が中心となって立ち上げたレーベル「only in dreams」。音楽ジャンルや国に捉われず良質な音楽をすることを目的に、Dr.DOWNER/岩崎愛/the chef cooks meら邦楽アーティストのみならず、RA RA RIOT/NADA SURF/Radical Dadsら洋楽アーティストの作品も数多くリリースしてきた当レーベルだが、その国内ショーケースライヴが開催された。この日の出演者は、the chef cooks me/岩崎愛/Dr.DOWNERらレーベル所属アーティストにASIAN KUNG-FU GENERATIONを加えた4組(出演順)。NANO-MUGENでも幾度となく体現されている通り、ゴッチの音楽愛とバンド愛が場内の隅々まで満ち溢れた3時間半は、終始ピースフルな空気に包まれた至福のひと時だった。

■the chef cooks me
only in dreams「Showcase Live」 @ SHIBUYA-AX - the chef cooks methe chef cooks me
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レーベル名の由来であるWEEZER“only in dreams”のSEに乗って登場したのは、シモリョー(Vo・Key・Prog)/佐藤ニーチェ(G)/イイジマタクヤ(Dr)のオリジナル・メンバーに村田シゲ(B/CUBISMO GRAFICO FIVE、□□□)、JYO(Key)、さらにブラス・セクションにコーラスまで加えた大所帯の10人! 「僕らのルールはただひとつ、楽しんでもらうだけなんで」というシモリョーの言葉通り、1曲目の“ゴールデン・ターゲット”から煌びやかなサウンドがハンドクラップで溢れ返るフロアに降り注いでいく。ゴッチのプロデュースによる3年半ぶりの新作アルバム『回転体』のリリースを機に、今年9月に当レーベルの一員になったばかり。「僕らを知らない人もいるだろうけど……」と謙遜するシモリョーだったが、放たれるサウンドは会場を歓喜の渦に巻き込む抜群の即効性を持ったもの。ニーチェの清冽なアコギ音がアイリッシュ・パンクの高揚感に火を点ける“適当な闇”にしろ、テンポ・チェンジを繰り返しながら宇宙の彼方へシンフォニックに上り詰める“流転する世界”にしろ、現実の苦しみや哀しみも丸ごと受け止め目映い光で包み込んでしまうような強靭な輝きでもってダイナミックに鳴っていた。その後も超速ナンバー“song of sick”、ドリーミーなポップ・チューン“まちに”と全曲『回転体』からの選曲で攻め立てて、ステージを去った彼ら。「さっき今日の出演者全員で記念撮影したんですよ。僕らは今まで孤独な感じでバンドやってきたんで、初めてファミリー感を味わえてホロッときました」という中盤のMCも含め、どこを切っても多幸感に満ち溢れた最高にハートフルなステージだった。

■岩崎愛
only in dreams「Showcase Live」 @ SHIBUYA-AX - 岩崎愛岩崎愛
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1曲目“花束”の歌い出しの一声で、場内の空気を一変させてしまった岩崎愛。まるで呼吸するかのように放たれるソウルフルな歌声が、アコギ/ペダル・スティール/ドラムの3ピースで紡がれる繊細なアンサンブルと相まってあたたかなムードを作っていく。「金のシャチホコの歌です」と披露された“どっぴんしゃーらー”では、寓話的で親しみやすいメロディの上で《人のせいにするのはもうやめな/悲劇のヒロインぶるのもやめなよ/そうして君に見えるものが きっと幸せだろう》とズバリ。良質な絵本か児童文学のような優しいトーンで真理を諭してくるその歌は、岩崎愛というシンガーソングライターの溢れる才気とイマジネーションをヴィヴィッドに炙り出すものだった。「誰か倒れはったよ。助けてあげて」とフロアのお客さんを気にしたり、自身の曲を気に入ってくれ、CDを作ろうと言ってくれたゴッチに「ほんまですか? 今の言葉忘れませんよ」と詰め寄った出会いのエピソードを明かしたりと、関西弁全開のMCから垣間見える飾らない人柄も、彼女の大きな魅力のひとつ。最後は“東京LIFE”で軽快なハンドクラップを、“ALL RIGHT”で《なんとかなるさ 大丈夫!》の盛大なシンガロングを巻き起こし、ポジティヴなパワーがむくむくと湧き上がってくるような晴れやかなステージを会場一丸となって作り上げてくれた。

■Dr.DOWNER
only in dreams「Showcase Live」 @ SHIBUYA-AX - Dr.DOWNERDr.DOWNER
only in dreams「Showcase Live」 @ SHIBUYA-AX - Dr.DOWNERDr.DOWNER
暗転した場内にSEが鳴り響いた途端、赤、緑、ピンクなど色とりどりのツノを着用したオーディエンスの頭がフロアのあちこちで揺れ始める。そこに現れた猪股ヨウスケ(G・Vo) /高橋ケイタ(G)/星野サトシ(B・Vo)/小石トモアキ(Dr)の4人が、勢いよく“幻想のマボロシ”を発射! 最初の一音で着用したツノを振り落してしまったケイタのヘッド・バンキングの激しさに象徴されるまでもなく、前のめり気味に疾走するバンドサウンドがモッシュで溢れ返るフロアを絶頂の只中へと引きずり込んでいく。“刹那のガール”の前では「この曲、歌詞わかんないんだよね」(ヨウスケ)とカンペを取り出して場を和ませつつ、再び演奏に入れば土石流のように押し寄せるハードエッジな音塊でフロアを圧倒。本能のままにブチかます余りに4人のアンサンブルが乱れる場面もあったけど、それすらも爆発のエンジンに変えてフロアを豪快に導いていくさまは、観ていて痛快なほどだ。“ライジング”ではヨウスケのしゃがれた絶叫が炸裂し、ギターソロでは赤いライトを背負ったケイタがエモーショナルなギターフレーズを威風堂々とプレイ。“暴走列車”ではソリッドなガレージサウンドが土煙を上げんばかりに暴走し、「神奈川県横須賀市から来ましたDr.DOWNER、終わりまーす!」と“ドクターダウナーのテーマ”をあっけらかんと撃ち放って終幕。アウトロでは思い余ったケイタがステージを飛び下りフロアの後方まで進んでギターを弾くなど、最後までやりたい放題&完全燃焼で会場全体を真っ白な灰になるまで燃やし尽くしたDr.DOWNERだった。

■ASIAN KUNG-FU GENERATION
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そして20時30分。始まりの予感を煽るSEと、盛大なハンドクラップに迎えられて後藤正文(G・Vo)/喜多健介(G)/山田貴洋(B)/伊地知潔(Dr)のメンバーにサポート・メンバーのシモリョー(Key)を加えた5人が登場。1曲目から宇宙的な広がりを見せる壮大なサウンドスケープを描き出し、オーディエンスをでっかく揺さぶっていく。その後も「ラッセー! ラッセー!」コールが響きわたった“君という花”あり、シモリョーのスペイシーなシンセ音が煌びやかな彩りを添えた“N.G.S”あり、弾むようなリズムで心地よい横揺れを生み出した“今を生きて”あり、更にはスリリングなセッションありと、10年間のバンド・キャリアを総括するような強力なセットリストで攻め立てて、フロアのテンションを上げていく彼ら。派手なパフォーマンスやアジテートは皆無、キャッチーなメロディと広がりに満ちたアンサンブルの力のみで熱狂レベルを塗り替えていくアジカン・サウンドの本領を、改めて思い知らされるような名演の連続だ。

MCでは「only in dreamsからは何もリリースしていませんが、スペシャル・ゲストです」とおどけてみせるゴッチ。この場に集まってくれたオーディエンスへの感謝の気持ちを述べた後に、こう続ける。「今日の3つのバンドに共通しているのは何か。それは卑屈さなんですよね。出会ったときは彼ら、誰にも見つけてもらえなくてイジけてたんですよ。それが今は減ってきて、人としてどんどん魅力的になっているんですけど。俺、その気持ちがすごいわかるんですよ。僕らもデビュー直前までサラリーマンしてて、同い年のバンドはとっくにCDリリースして活躍したりしてるのに、なんで俺たち誰にも見つけてもらえないんだろう?って思ってて。どんどんメンタルが曲がっていく時期があったから、そういう奴らが気になるというか。それで自分でレーベルをやってるんですけど……。だから皆にもアジカンだけ好きになられても困るし、そういう奴らを見つけていけるレーベルであれたら嬉しいなと思います」――そんな赤裸々な想いを語ったMCの後、“踵で愛を打ち鳴らせ”のエモーショナルなサウンドが燦々と降り注ぐ。さらに「10周年のデカいイベント終わってどうなっていくのかと思ったけど、やっぱり楽しいね。また少しずつ曲を作り始めていて。年明けからセッション始めて、1年かけてアルバム録っていこうと思うので、お金貯めといてください!」という嬉しい報告も飛び出して、アッパーなラスト・チューンへ!

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アンコールでは「今日のライヴをステージ脇で全部観ていて、全部鳥肌立ってるから」と嬉しそうに話すゴッチ。初期衝動の塊のような勇壮なロック・ナンバーを投下して、さらにthe chef cooks meのホーン隊3人を招いての大ラスへ――アジカンの未来のみならず、only in dreamsの未来をも明るく照らし出すようなファンファーレが、SHIBUYA-AXの天井を突き破るかのごとく高らかに鳴り響いていた。(齋藤美穂)
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