記録的な大雪に見舞われ、交通機関も軒並み麻痺して混乱が続いた昨日の東京、それでもSHIBUYA-AXを埋めたオーディエンスの熱気に応えるように、ルミニアーズの初来日公演はエモーショナルかつ親密な素晴らしい一夜となった。もともとは昨年4月に実現するはずだったショウケース来日がキャンセルとなり、リスケジュールの末にようやく叶った来日公演だ。その仕切り直しの間には彼らのデビュー・アルバム『ルミニアーズ』は世界的に大成功を収め、この米デンバー出身の5人組は2013年を象徴する新人バンドの一組となった。
ルミニアーズのサウンドの基本はカントリー&フォークで、それがオルタナティヴ・ミュージックのピュアイズムを象徴するものとして鳴るのが今この2010年代らしさだ。そんなネオ・カントリー&フォーク・ムーヴメントの先頭を走るマムフォード・アンド・サンズとも比較されるルミニアーズは、中でも特にトラディショナルなスタイルが持ち味のバンドで、この日のライヴもアコースティック・ギターとマンドリン、そしてチェロが高速で絡み合いながら走り抜けるファスト&フランクなカントリー・チューン“Classy Girls”でまずは簡潔に彼らの魅力を伝えて幕を開けた。続く“Ain't Nobody's Problem”ではピアノも加わりよりメロディアスになった旋律にのって、早くも客席からは大合唱が起きる。しかもサビのコーラスを歌うというレベルではなくて、オーディエンスが最初から最後まで一緒に歌うナンバーだ。この時点で、ルミニアーズのライヴは「観る」のではなく「参加する」のがマナーなのだということが理解できる。
“Flowers in Your Hair”ではアコーディオンが加わり、カーニヴァルのような昂揚と共に参加型のムードがより強まってくる。ちなみに5人のメンバーのうちマルチプレイヤーっぷりを発揮しているのがジェレマイア(ドラム、マンドリン、アコギ)とステルス(ピアノ、アコーディオン、アコギ)の2人で、彼らが曲によってくるくる持ち場をスイッチしながら自在に楽器を弾き倒していく様が観ていて楽しい。そしてここで彼らのブレイクのきっかけとなったシングル“Ho Hey”が早くもドロップされ、最初のクライマックスが訪れる。音源で聴くとシンプルすぎてほとんど侘び寂びの世界観のこのナンバーだが、ライヴだとさらにそのミニマムな構造が際立つ。そのスカッと空いた空間に彼らとオーディエンスの「Ho!」「Hey!」のコール&レスポンスが木霊していく、そこまで含めて完成形と呼べるナンバーなのだという、ルミニアーズの参加型ライヴの極致を見せつける格好だ。そしてそこから一転、ハードかつ重厚なアレンジでみっちり演奏しきるボブ・ディランのカヴァー“Subterranean Homesick Blues”のコントラストも最高だ。
ルミニアーズのライヴの二大要素、ミニマリズムと参加型を特に強く印象づけたのが中盤のナンバー群だ。“Slow It Down”はウェスリー(ヴォーカル&ギター)とジェレマイア、“Duet”はウェスリーとネイラ(チェロ)がそれぞれデュオで歌いあげるナンバーで、両手に3つも4つもタンバリンを持ってビシバシ叩いてはほうり投げ、叩いてはほうり投げを繰り返すジェレマイアなんて街角の大道芸師みたいだ。ヴォーカリストの足元に単品で置かれたバスドラを蹴りながら歌うのも、このルミニアーズといいマムフォード・アンド・サンズといい、ネオ・フォーク・バンドたちのバスキング・スタイルには欠かせない要素になっていると言えそうだ。そんなルミニアーズのバスキング・スタイルが極まったのが“Darlene”と“Elouise”だ。彼らはステージを降りて客席を練り歩きながら、フロアの中央ら辺に陣取って歌い始める。周囲を取り囲むオーディエンスがキーボードを持ってあげていたり、マイクスタンドを支えていたりする様も微笑ましいし、2階席にもアコーディオンを抱えたステルスがやってきて、屋根の上のバイオリン弾きならぬアコーディオン弾き状態で上からフロアのウェスリーたちに加勢する。まさに文字通り会場がひとつになった瞬間だ。
このルミニアーズのパフォーマンスの身軽さ、垣根の無さ、どんなシチュエーションでも鳴らしうる、鳴りうる歌のシンプルな強さこそが彼らの魅力であり、同時に「今なぜフォーク&カントリー回帰なのか」というオルタナティヴ・ロックの現在に対する答えとなる普遍性がそこにはあったように思う。“Stubborn Love”、“Submarines”といったナンバーが、飾り気のないアンチクライマックスの構造を持ちながらも、まごうことなきアンセムとして鳴り、クライマックスを演出していく様は逆説的に新しかったし、オルタナティヴの過渡と成熟、その突き抜けた先の新たな風を感じさせるものだった。(粉川しの)
Classy Girls
Ain't Nobody's Problem
Flowers in Your Hair
Ho Hey
Subterranean Homesick Blues
Dead Sea
Slow It Down
Duet (Falling In Love)
Charlie Boy
Darlene
Elouise
Stubborn Love
Flapper Girl
Submarines
(encore)
Morning Song
Gale Song
Big Parade