「ここの会場で前回ライブをやらせてもらったのが、3年と9ヵ月前らしいんですけど。光陰矢の如しで、今年の夏でスピッツも27周年ということで。みなさんのおかげで、こうやって長くバンドを長く続けられています。ありがとうございます!」という草野マサムネの言葉に、満場のZepp Tokyoから拍手喝采が降り注ぐ。そこへ続けて「ひとりも欠けずにね、昭和の時代からやってますよ。レインボーブリッジもできてなかったし、青島都知事が『都市博を中止』するって言ってたのが昨日のことのように思い出されます。生まれてなかった人もいらっしゃるかもしれないですけど(笑)」という自分たちの世代ネタでフロアを沸かせながら、熱気あふれる会場をさらに歓喜の先へと導いていく……前作『とげまる』から3年ぶり・14作目となるオリジナル・アルバム『小さな生き物』を引っ提げて、昨年11月1日から開催されてきた全国ツアー『SPITZ JAMBOREE TOUR 2013-2014 “小さな生き物”』の中盤、関東地方スケジュールのラストを飾る東京・Zepp Tokyo 2Daysの2日目。「昨日・今日と、久々のスタンディングのワンマンで。体力が保つかどうかわからないんですが……」という草野の言葉とは裏腹に、最初から最後まで爽快なまでの瑞々しさにあふれた、最高のステージだった。
まだまだツアー中なのでセットリストおよび舞台演出の詳細などはここでは割愛、一部楽曲に触れるに留めさせていただくが、最新アルバム『小さな生き物』収録曲の大半を組み込んで、アンコールまで含め2時間半にわたるライブの軸を構成してみせた充実のアクト。スリルとセンチメントをたっぷり吸い込んだヴィヴィッドな音像&メロディとともに、《まだ続くと信じてる 朝が来るって信じてる 悲しみは忘れないまま》という震災後の「今」の願いと《遠く知らない街から 手紙が届くような ときめきを作れたらなあ》とミュージシャンとしての真摯な想いを響かせてみせた“さらさら”。鉄壁のサポート・キーボード=クジヒロコのピアノ・イントロから、崎山龍男のタムさばき/田村明浩の躍動感あふれまくりのベース・プレイ/草野&三輪テツヤのギター・アンサンブルが極上のメロディとともにフロアを心地好く吹き抜けた“僕はきっと旅に出る”……などなど『小さな生き物』曲群に、“ロビンソン”や“8823”といった名曲の数々が絡み合いながら、珠玉の音楽空間を生み出していく。
何より、この日のライブで改めて驚かされたのは、スピッツの鳴らす音のひとつひとつが、結成27年目とは到底思えない、生まれたてのバンドの如き鮮烈さに満ちていたことだ。「長年いい曲を作り続けているバンド」は他にもいるし、「自身の活動をめいっぱい楽しみ続けているバンド」も他にもいる。が、キャリアを重ねれば重ねるほど、あたかも重力から解放されるような爽快感を獲得し、なおかつ「ロック・バンドが歌を鳴らすこと」の輝きを誰よりも体現している。そんなバンドはスピッツくらいだ。極彩色コーラスのみならずツイン・リード・ギターや爆裂ビートーーつまり「バンドならではの生身の面白さ」をこれでもかってくらいに炸裂させることで、ファンタジック&センチメンタルでありながらどこまでもリアルな歌詞世界が、稀代のシンガーにしてソングライター=草野の歌声とともに立ち昇ってくる。そんな「スピッツという名の磁場」が、色褪せるどころかますます鮮やかに広がっていることを、この場にいた誰もが感じていたはずだ。「すっかり春めいてまいりました昨今、みなさんいかがお過ごしですか? 花粉症とか大丈夫ですか? 花粉症とかアレルギー性鼻炎とかは若さの証拠でもあるらしいんですけど、俺最近花粉症ないんですよねえ……」とか「俺、昔なんで時間にルーズだったかっていうと、起きれなかったんですよね。今はすぐ目が覚めちゃうのに」とか、当の草野がおじさんアピールをすればするほど、“ロビンソン”の歌とアルペジオはよりいっそうマジカルなほどの蒼さとともに胸に響いてくる。「バンド」「音楽」という名の魔法を誰もが初めて発見した時のような高揚感が、この日のZepp Tokyoには確かに満ちていた。
「今日はみんなの顔がよく見えて、楽しかったです。また、九段下あたりで、年内に会いたいです!」とメンバー紹介の際に田村が呼びかけていた通り、5月19日まで続く『SPITZ JAMBOREE TOUR 2013-2014 “小さな生き物”』の後は、自身初となる日本武道館公演を4本含むアリーナ・ツアー=『SPITZ THE GREAT JAMBOREE 2014 "FESTIVARENA"』を開催することが発表されているスピッツ。96~97年に行われた野外ライブシリーズ「THE GREAT JAMBOREE」の名前を掲げ、アルバム・リリース・ツアーとはまったく異なる、各年代からセレクトされた選曲のライブを展開するという『"FESTIVARENA"』。そこに広がる祝祭空間は、スピッツ結成27年目の夏をどこまで目映く彩るのか? 今から楽しみで仕方がない。そして、『小さな生き物』ツアーの次回公演は3月18日・19日、Zepp Osaka 2Days!(高橋智樹)