「『SAKANATRIBE』という名前で、EXILE TRIBEの存在を知らずに名付けてしまったこのツアーで、全国を回ってきて。今日が実はファイナルだったはず……テヘペロ」とアンコールのMCで語る山口一郎に、本編で思いっきり踊りまくり楽しみまくって熱気と歓喜まみれの満場のオーディエンスが爆笑に包まれる。「私、インフルエンザにかかってしまいまして、仙台2公演を、申し訳ない気持ちでキャンセルさせていただいて……その仙台公演が、東京公演の後に延期になって。今回は、ファイナルではございません! でも、東京最後なんで、気合い入れて演奏しました!」という言葉通り、1月から行われてきた全国ツアー=『SAKANAQUARIUM 2014 "SAKANATRIBE"』の「ツアー・ファイナル」改め「ツアー終盤の山場」となった、TOKYO DOME CITY HALL 2Days公演の2日目。だが、3000人規模の会場としてはどの席からも驚くほど5人の姿を間近に感じることができる今回のステージで、ライブ・バンドとしての訴求力はもちろん、「表現として/エンターテインメントとしてのロックのさらなる可能性を突き詰める探求者」の意志を、そのサウンドはもちろん、照明などの演出も含めて伝えきってみせた、実に意欲的なアクトだった。
客電が消え、SEが止まり、あたかもクラシックのコンサートの開演時のように岩寺基晴/草刈愛美/岡崎英美/江島啓一の4人がゆっくりと歩み出てスタンバイしたところに、山口一郎が登場して深々と一礼。1曲目に披露したのは、2ndアルバム『NIGHT FISHING』の“サンプル”。生音同様の、というか生音そのものの音量で静謐な幕開けを迎えた演奏に、観客は身動きも忘れたように聴き入っていく。5人の「生」に、PA越しに増幅された音像が重なり合い、やがてホール全体を凛とした高揚感へと導いてみせる……ライブというショウを構成する音のひとつひとつに直に触れるような、ゾクゾクするほどスリリングな瞬間だった。そんなマジカルな場面が生み出した多幸感を、そのまま“アルクアラウンド”“セントレイ”の躍動感へと直結して、TOKYO DOME CITY HALLを丸ごとジャンプとクラップあふれるダンス・フロアに変えてみせる。もちろん最新シングル『グッドバイ/ユリイカ』や“夜の踊り子”など最新アルバム『sakanaction』収録曲も披露していたが、今回は特に新作リリース・ツアーのタイミングでもないため、“サンプル”や“哀愁トレイン”といった『NIGHT FISHING』曲のみならず、1st『GO TO THE FUTURE』の“インナーワールド”“三日月サンセット”など初期曲も含めた自身の足跡を、ロック・バンド=サカナクションの「今」のしなやかな肉体性でもって2014年に響かせて、オーディエンスを歓喜の彼方へと導いてみせていた。
昨年の『sakanaction』ツアーでは本編に組み込まれていたクラブ・スタイルのコーナーはアンコールの“Ame(B) - SAKANATRIBE MIX”から“ミュージック”前半に流れる部分に留め、ロック・バンドとしての表現力を最大限に解き放っていたこの日のサカナクション。“Klee”イントロのグラマラスなまでのロックのダイナミズムで3000人を震撼させたかと思えば、山口が円錐形のレーザー光線の繭に包まれた“シーラカンスと僕”でホール一面深海の風景に塗り替えてみせたり、オイルアートの映像とともに“流線”でピンク・フロイド的なサイケデリック・ブルースの音像を展開してみせたり、“SAKANATRIBE”では山口のハード・ロックさながらのピックスクラッチ(ピックで弦を擦ってギュウウウンとノイズを出すテクニック)から赤黒く渦巻くメタリックな爆音世界へと突入したり……といった具合に、バンドが放つ圧巻のバイタリティが、映像・照明などとともに完璧にデザインされた空間と一体になって、オーディエンスの熱量を天井知らずに高めていく。そのまま「みんな、まだまだ踊れる?」という山口のコールから流れ込んだ“夜の踊り子”、そして会場一丸のハンドウェーブとシンガロングを生んだ“アイデンティティ”からラスト・ナンバー“ルーキー”への展開が、至上の祝祭空間を描き出していった。
アンコールでは前述の“Ame(B) - SAKANATRIBE MIX”“ミュージック”に続けて“Aoi”へ。あの壮麗なコーラスも、幕張メッセの6.1chライブで体験した人智を超える勢いのスケール感とは異なり、江島&草刈の疾走感あふれるビートと密接に絡み合うようなリアリティをもって響いていたのも印象的だった。これだけ構築度の高い「トータル・アートとしてのチーム・サカナクション」が、会場の規模やライブのヴィジョン/コンセプトに合わせて変幻自在にその手法を変えながら常に自身を最適化している、という事実に、思わず胸が熱くなった。「みなさん、本能で踊られて……最高!」という山口の快活な言葉に、熱い拍手喝采が広がる。古い楽曲も演奏しているこのツアーで育ったと思う曲は?という山口の問いに、「“哀愁トレイン”。2ndの曲だから、ライブでやったの7年ぶりとかですかね」(岩寺)、「“三日月サンセット”が、前とは違う感じがしました。グルーヴがあって」(岡崎)、「“SAKANATRIBE”の時の、一郎くんのキュウウウウウンってやつ」(草刈)とメンバーがそれぞれ答える中、江島の「“サンプル”。尺が決まってなくて、その場の空気で変わってくる。みんなの気持ちがわかるようになってきた」という返事を受けて、「メンバー5人の気持ちが揃わないと、グルーヴが整わないんだよね」と山口。「クリック聴きながら演奏するわけじゃないから、誰かのリズムに誰かが乗っかって揃っていくわけだから。メンタルがものすごく影響するなあと思いましたね。音楽は心!」……この日のライブの肉体感とリンクするような山口の言葉に、オーディエンスがじっと耳を傾けている。
「今回、『0から100』っていうのがテーマで、昔やってたことを今やったり、いろんなチャレンジをしてるんだけど。“サンプル”は現実の、ヴォリュームの『0から100』を再現したのね。どういうことかっていうと……」という山口の言葉から、PAで増幅されてない生音の演奏を披露する5人。それが徐々にPA担当:佐々木幸生の手によって、この空間にベストな音量と音像へと生まれ変わっていくと、場内に驚きの声が沸き上がる。さらに照明担当:平山和裕、レーザー担当:七条美令の役割もひとつひとつ紹介しながら、「チーム・サカナクション」の仕組みを山口が丁寧にひもといていく。「説明していくとキリがないくらい、このライブをひとつ行うために、たくさんの人が関わっています。だからみんな、ライブを観に来る時に、そういうのを意識したりすると、もっと音楽を多面的に観れるかもしれないね」。そして、「今日のこのライブ、チーム・サカナクションに拍手いただけますか?」の言葉に、惜しみない拍手が会場に広がっていった。
ここで、この日のライブがNHK BSプレミアムで放送されることが山口の口から告げられると、満場のホールにうわあっと感激の声が湧き起こる。「2013年、僕ら苦手なテレビにたくさん出演させていただいて、『紅白』も出演させていただきましたけども、やっぱり違うね、世界が。音楽の届け方が違う」と昨年を振り返って山口が語る。「でも、挑戦してみてよかったのは……たくさんの人に自分たちのことを知ってもらえたんですね。ライブ終わって出待ちしてくれてる人と話したりすると、『生まれて初めてのライブでした』とか『紅白で知って来ました』とか。そういう、メディアで知ってくれた人を、ここに呼びたいよね。ここに足を運んでもらうために、僕らはどういうことをしたらいいのか、っていうのを考えていくのが、たぶんこれからのバンドの未来だと思うし。ロックから得られる感動の種類を、もっと増やしたい。それが、ツアーをここまでやってきて感じてることです」……そんな決意の言葉とともに鳴り渡ったラスト・ナンバーは“グッドバイ”。《グッドバイ 世界から知ることもできない 不確かな未来へ舵を切る》……そんな山口の熱唱と透徹した音風景が、やがて真っ白にスパークするように熱を帯びて……終了。音楽と、時代と向き合うサカナクションの真摯なミュージシャンシップが、この日のTOKYO DOME CITY HALLには最高の形で結晶していた。
ツアー『SAKANAQUARIUM 2014 "SAKANATRIBE"』は3月28日・29日の仙台・東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)での2公演を残すのみ。そして、この日のライブの模様や密着映像などを盛り込んだNHK BSプレミアムの番組『サカナクションLIVE 2014~不確かな未来へ舵を切る~(仮)』は4月27日23:00~24:29放送。ツアーを観た人、残念ながら観られなかった人はもちろん、今までサカナクション未体験な人も、この機会にぜひ触れてみていただきたい!と切に願わずにいられない名演だった。(高橋智樹)
セットリスト
01.サンプル
02.アルクアラウンド
03.セントレイ
04.表参道26時
05.哀愁トレイン
06.Klee
07.エンドレス
08.シーラカンスと僕
09.流線
10.ユリイカ
11.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
12.インナーワールド
13.三日月サンセット
14.SAKANATRIBE
15.モノクロトウキョー
16.夜の踊り子
17.アイデンティティ
18.ルーキー
Encore
19.Ame(B) - SAKANATRIBE MIX
20.ミュージック
21.Aoi
22.グッドバイ