●イギリスに行くときは必ずラフトレード・ショップに伺います。他方で多くのレコード・ショップは急速に失われており、例えばLAのアメーバ(・ミュージック)やNYのアザー・ミュージックのようなアイコニックなインディ・ショップもなくなってしまいました。
このサブスク・ストリーミングの時代にレコードショップの果たすべき役割をどう考えていますか? 例えばブリック・レーンのラフトレなどはショップのみならず、インディペンデントなミュージックカルチャーの発信地及び集積地としても機能しているように思いますが。
G「嬉しいことに、アメーバは閉まっていなくて移転したんだ。非常に重要なレコードショップだよね。他の良い店は閉まってしまったけどね。アザー・ミュージック閉店は本当に大きな喪失だ。昔はNYを訪れるたびに行っていたよ。
この新型コロナが収束した時に何をしたいか訊かれると、人々は、図書館に行ったり、本屋さんに行ったり、レコード屋に行ったりするのが待ち遠しいと言う。そのくらい重要なものなんだ。我々の人生において、レコード・ショップは本当に重要な存在だ。1977年にレコード・ショップを開いたんだ。
閉店してしまうのは本当に残念でならない。14th ストリートの地下鉄のコンコースに、最高のヒップホップ・レコードや最高のダンス・レコードを揃えたレコード・ショップがあった。僕にとってすごく魅力的な観光スポットだったけど、今は閉店してしまった。
レコード・ショップは、誰かに会ったり、友達を作ったり、新しい曲を聴いたりするのにとても重要だ。音楽を愛する人たちにとっての、ひとつのコミュニティなんだ。1日24時間パソコン前に居続けることはできない。時々は世界に出ていく必要がある。そこで働いている人や音楽に詳しい人と話をして、『この前はこれだったから、これも好きかもね』と言ってもらえる。それは非常に貴重な交流だよ。
ラフ・トレードの店舗が繁盛するのは、ライブやイベントがあるからだね。自分のヒーローやヒロインの演奏を聴けたり、会えたり、質問したりできるのは最高だ。レコード・ショップが復活するといいよね。そうなりそうな気がしてるよ」
●一方で、近年のUKでのアナログ・セールスの顕著な上昇は、インディ・ロック・バンドにとって見逃せない動きだとも思いますが、おふたりはアナログ・レコードのニーズ、そこに秘められた可能性についてどう考えていますか?
G「レコードの買い方が劇的に変ったよね。僕も以前は週に10枚くらいレコードを買っていたけれど、最近はほとんどネットで済ませていて、あまりレコードを買わなくなった。ちょうどスペースが足りなくなってきたところだからいいんだけど。
CDを買う人は減り続けていて、レコードを買う人は増え続けている。昨年の当社のレコードの売り上げが50%アップして、これはかなり驚異的。今までになかったような買われ方で、とても健全だ。レコード・プレーヤーの売り上げも伸びているしね。
ここ数年、エレキギターの売り上げが異常に伸びているから、次の10年はギター・バンドのルネサンスが起こるかもしれないね。
これは、人々がいまだに物理的に物を所有したがっていることを示していると思う。芸術的、心情的な価値を持つ物に対しての一種のフェティッシュであり、それは理解できるものだよね。そこに参加したい、あるいはその一部が欲しいという気持ち。それは人間のニーズとして、消えることはないように思える。スリーブを読んだり、写真を見たりすることも、経験を高めるんだ。
我々の悩みの種がひとつあって、もしデジタルのサービスで音楽を聴くだけだと、どのレーベルが出しているか全然分からないこと。
果てしなくスクロールダウンすれば書いてあるけど、誰もそんなことしない。だから我々が育ってきた、スタックス・レコードやアイランド・レコードを愛する文化、そのレコードを聴くのはラフ・トレードのレコードだからだ、というような文化は、ある意味デジタル・サービスによって侵食されているんだ。
デジタル・サービスは、あなたが聴いているものは全部自分たちが所有しているのだと思わせたいんだよ。自分たちが音楽プロデューサーであり、その所有権を奪いたい。これは、現代文化における有害なデジタルの影響だよ」
●アメリカではバンド・ミュージックがパワーを失いつつあります(昨年のビルボード・チャートで1位を獲得したロック・アルバムはマシン・ガン・ケリーの新作のみでした)。その状況と比較すると、イギリスではバンド・ミュージックがまだ持ちこたえているようにも思います。そこにはイギリスの市場ならではな理由があるのでしょうか?
J「今バンド・ミュージックがRadio 1のプレイリストに入るのはかなり難しいから、私たちはそういうふうに感じてないわね。
ここ数年は、ギター・バンドの曲をラジオでかけてもらうのが難しかった。フォンテインズD.C.やシェイムはブレイクしたけど、それまではRadio 1で曲がかかるようなバンドは長い間いなかったの。だから少しは良い方向に変わってきたけど、大きな変化ではない。今が好転の始まりであることを願うわ。
アメリカにはギター・ミュージックが盛んなサブカルチャーがあるし、みんな依然としてそういうものを聴きに行きたがっている。例えば、フー・ファイターズやクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジといったバンドはかなり人気だよね。
これはまったく意図的ではないけど、我々は常にメインストリームのポピュラー・カルチャーの外にいるんだ。たまたまメインストリームになるのは嬉しいけど、その一味に加わるために自分たちの活動をデザインすることはないよ」
●2020年代に成功できるバンド、必要とされる重要な要素は何だと考えていますか?
J「いつも同じことを言ってるけど、私にとっては常にオリジナリティが大事。個人的にはそれが一番エキサイティングだから。新人バンドの中には、かなりローファイで、すごいミュージシャンではないかもしれないけど、ある種の未知の要素、何か特別なものを持っているバンドがいて、だから惹かれるのよ。それこそ私たちが何よりも求めているものだと思う」
G「我々の心を揺さぶるものでなければならない。ある意味、知的な反応ではなくて、気持ち的なもの。自分では制御もコントロールもできない。そういうものが好きなんだ。自分の世界に留まろうと思っていても、否応なく新しい場所へと連れ出してくれるようなね」
J「さっき昨今の素晴らしいミュージシャンシップの話をしたけど、私たちは、それほど技術がなくても何か魅力的なものを持っている人たちにも同じように興奮するのよ。アイデアやイマジネーション、そして彼らが生み出すものに引き込まれる。技術的にすごい必要はなくて、他の人が持っていないもの、オリジナルなものであればいい。
ストロークスとリバティーンズがその良い例。一方のグループは絶対的に素晴らしいミュージシャンシップを持ち、ひたすらリハーサル、リハーサル、リハーサルで、これは少しアメリカ的なのかもしれない。もう一方のグループ、つまりリバティーンズは、インスピレーションに満ちていて、非常にクリエイティブで、でたらめで、今にも崩れそうで、ライブではかなりの間がないと次の曲に移れなかった。どちらのバンドも完璧に素晴らしくて、でも全く違っていた。私たちはどちらも大好きだったし、どちらとも仕事をして、とてもうまくいったけど、彼らはまさにチョークとチーズ(※見た目は似てるけど全く違うもの)の良い例ね」
●新型コロナ・ウィルスのパンデミックを経験したことは、これからのインディペンデント・ミュージック(ジャンル問わず)、インディペンデント・レーベルにどんな影響をもたらすと考えていますか。
J「必要性は発明の母だから。人々は長い間閉じ込められていて、クリエイティブになったと思う。この時代だからこその、面白くて新しいものが出てきても全然不思議じゃない。
例えば、人々は新しい方法でコラボレーションする方法を見つけていると思う。ロックダウン期間中に何か新しいシーンが生まれてたとしても不思議じゃない。何かを始めようとしていた人たちは、違うやり方を考えるしかなかったんだから。クリエイティブな意味で何かいいことが生まれる気がするわ」
G「一緒にライブができるということに対して、新たなエネルギーや感謝の気持ちが芽生えるかもしれない。5月末にボストン・アームズ(ロンドンのパブ)で行われるゴート・ガールのライブが、我々にとってロックダウン後にソーシャル・ディスタンスを取って行う最初のライブになるかもね」
●今注目している未契約のバンド、ロック・アーティストがいたら教えてください。その理由も。
G「我々が夢中になっている契約前のバンドが1つだけある。ニューオーリンズ在住の4ピース。ドラマーはいない。スペシャル・インタレストというバンドだよ」