【コラム】映画『RADWIMPSのHESONOO』から見えたRADWIMPSの“生き様”

【コラム】映画『RADWIMPSのHESONOO』から見えたRADWIMPSの“生き様”

3月11日から全国劇場にて期間限定上映されている、RADWIMPSのドキュメンタリー映画『RADWIMPSのHESONOO Documentary Film』をご覧になっただろうか。デビュー10周年を迎えて初めて挑んだ海外ツアー「RADWIMPS 2015 Asia-Europe Live Tour」。Mr.Childrenやスピッツといった大先輩をはじめ、ONE OK ROCK/いきものがかりなど多彩なアーティストが集結した対バンツアー「RADWIMPSの胎盤」。楽曲にこめられた真摯な想いとデビュー以降10年間の足跡の重さを3万人のオーディエンスと分かち合った、幕張メッセワンマン「RADWIMPSのはじまりはじまり」……僕らが観客エリアから目撃できた奇跡の名演の眩しさはもちろんのこと、それらを実現させるために己の情熱とアイデアと才気を死に物狂いで燃え上がらせ、幾度も壁にぶつかっては自力で克服するという熾烈な時間をも「日常」として過ごす野田洋次郎/桑原彰/武田祐介のひたむきな姿を、胸躍るほど身近な目線から焼きつけた、珠玉のドキュメンタリーだ。

この『RADWIMPSのHESONOO』に触れる僕らの心を何より激しく突き動かすのは、今作を貫く「デビュー10周年記念のドキュメンタリー映画」という祝祭的な語感とは程遠い切迫感だ。ご存知の通り、ドラマー・山口智史の無期限休養のため、海外ツアーでは急遽オーディションで選抜されたミッキーこと森瑞希が、「胎盤」ツアー&幕張公演では森瑞希と名手・刄田綴色のツインドラムがRADWIMPSサウンドのリズムを担う、という大きな変化を迎えた。

長年培ってきたバンドアンサンブルを、文字通りゼロから再構築していく野田/桑原/武田の焦燥の表情が、森を加えた4人で新たなグルーヴを編み上げていく中で次第に確信の色を帯びていくリハーサルの場面。それこそ初めて人前に立つバンドのような緊張感をもって臨んだ海外ツアー1本目:韓国公演で、ステージ&フロア一丸となって生み出した躍動感。さらに、映画本編内のコメントでも野田が「『智史がひとり抜けたから、ひとり入る』ってのが、なんか悔しくて。ほんと直感で『ツインドラムって面白いと思う』って」と話していた通り、刄田を迎えた5人編成でRADWIMPSサウンドはまったく異なるパワーと色彩感を獲得していく――といったバンドの変化の日々を、不安と充実感で一歩一歩踏みしめながら進んでいく空気感が、その映像を通して手に取るように伝わってくる。

今作終盤では、ドラマーオーディションに立ち会った山口と言葉を交わしながら演奏に挑む森の緊迫の面持ち、初めて3人で臨んだ“お風呂あがりの”の張りつめたレコーディング風景……などなど貴重な瞬間とともに、3人が「山口以外の3人で活動を続ける」という苦渋の決断を振り返っていく。「『みんなでなんとかしていこうよ』ってやっていけるもんだと思ってたな」(武田)、「みんな一瞬ポカンとして……時が止まってる感じ」(桑原)、「俺以上に、武田とクワ(桑原)の絶望は計り知れなくて。智史がいつか元気になったら、そこだけは理解してあげてほしいな」(野田)という赤裸々な言葉に、激動の3ヶ月間のリアルが色濃く滲んでいた。

「発表も、本当は違う形でやるはずだったんだけど」と、無期限休養についてひと言ひと言静かに語る野田の言葉が、ひときわ深く重く響いてきて、思わず動揺を禁じ得なかった。「デビュー以降10年間の総括」のみならず「自身の音楽の解体&再構築」という大きな命題と向き合うことになったRADWIMPSの、3ヶ月間に及ぶ感情と思考のすべてが、ここには宿っている。

そして――今作に刻みつけられたバンド再構築の過程は取りも直さず、RADWIMPSという音楽世界の在り方をメンバー自身が再確認する時間でもあったのだろうと思う。時代と生命とコミュニケーションの手触りを、時に鋭利な言葉と音像でもって、時に柔らかなメロディと歌の包容力でもって確かめながら、それらひとつひとつを至上の楽曲として結晶させてきたRADWIMPS。そんな彼ら自身の道程が「表現」を超えた「生き様」として改めて血肉化された3ヶ月間だった、と言い換えてもいいだろう。

「こんなに僕は音楽を、昔から好きじゃなかった気がします、10年前は。だけど、音楽を聴いてるみなさんとか、ライヴで伝えようとする音とかが、音楽をどんどん好きにさせてくれて。今は『なくてはならないもの』になってしまって……こんなにどんどん好きが勝っていくと、死ぬ時はどんなになっちゃうんだろうなあってぐらい、死にたくない想いでいっぱいです」――「胎盤」ツアーでMr.Childrenと共演した際、野田がMCで語っていた言葉そのものの音楽への限りない愛情が、『RADWIMPSのHESONOO』の101分間の映像に凝縮されていて、幾度も胸が熱くなった。残念ながら上映は本日で終了とのこと、ぜひとも再上映あるいは映像ソフト化していただいて、これからも音楽を愛するひとりでも多くの人に観てほしい。切に願う。(高橋智樹)
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