【コラム】影のあるクラスメイト――欅坂46が大人になった私たちに思い出させるもの

【コラム】影のあるクラスメイト――欅坂46が大人になった私たちに思い出させるもの - 『世界には愛しかない』通常盤 発売中『世界には愛しかない』通常盤 発売中

欅坂46がデビューシングル『サイレントマジョリティー』をリリースし、初めて彼女たちの曲を聴いたとき、既視感のようなものを覚えた。なんだろう、どこか懐かしいような。この感じ、知っている。なんだっけ?と記憶を巡らせたあとに「ああ、わかった。10代のころにこっそり書いていた日記に似てるんだ」と思った。10代のぼんやりとした憂い。なんだか周りのものがやけに嘘くさく感じる時期。ティーンエイジャー特有の潔癖さ。でもそんなことを誰かに言う勇気もなく、胸に秘めた本音を日記に綴っていた。きっと今見たら恥ずかしくなるけど、あのヒリヒリ感は大人になってしまった今はもう2度と味わえない。

AKBグループをひとつの教室に例えてみる。そうするとAKB48はいわゆる「クラスのアイドル」的存在だ。いつも笑顔で明るく、男女ともに誰からも好かれる人気者。一方、ライバルグループである乃木坂46は「女子校出身のお嬢様」的存在。凛とした佇まいはクラス中の男子が憧れている。そして坂道シリーズ第2弾である欅坂46は特別な優等生でも劣等生でもない、でも「どこか影のあるクラスメイト」だ。同性の友人も多いし、それなりに学校生活を楽しんでいるように見える。しかし心のなかでは大人と子供の中間の複雑な感情を抱いていて、どのグループよりも「リアルな少女の姿」に近い。だから彼女たちと10代の頃の日記がリンクしたのだと思う。

2016年8月10日、欅坂46にとって2枚目のシングル『世界には愛しかない』がリリースされた。前回、そして今回のシングルそのどちらもミュージックビデオの中の彼女たちは一切笑顔を見せていない。表情は硬く、シリアスさすら感じられる。その表情のまま《最後に大人に逆らったのはいつだろう?/あきらめることを強要されたあの日だったか…》と胸に刺さるフレーズを口ずさむように歌う。しかしサビでは《世界には愛しかない(信じるのはそれだけだ)》と彼女たちの表情と歌にほんのり希望の光がさしこむ。少女たちが、世の中はきれいなことだけではない、不条理なことも多いと気付いてしまったとき、実体のない「愛」を信じて前に進むことしかできない。そんな切実さ、純粋なひたむきさがこの曲で描かれているのだ。

“世界には愛しかない” ミュージックビデオ ※期間限定公開

そして欅坂46を語るときにどうしてもマストなのがセンター、平手友梨奈の存在だ。彼女はよく山口百恵と比較されることがあり、今回のシングルのType-Aに収録されている平手のソロ曲“渋谷からPARCOが消えた日”は明らかにそれを意識した曲調と、ミュージックビデオとなっている。彼女が山口百恵と比較される本当の理由はなにか? それは決して2人が似ているというわけではなく、どちらも才能がその人自身を凌駕してしまっているという一点に尽きるのではないか。未だに山口百恵が伝説として語られるのは、ステージに立つと顔つきがスッと変わり、歌うことだけが生まれながらの使命であるかのような、隙のないあのステージングがあまりに鮮烈だったからだろう。平手友梨奈も間違いなくそうだ。憂いを力ずくで振り払うような精彩を放つダンスも、絶対にぶれない信念を感じさせるちょっと低い歌声も、普段の無邪気そうな少女の姿からは一転、ステージ上での気高さに満ちた表情と鋭い眼光もすべてが凄みであり、少し怖いくらいの印象を与える。

“渋谷からPARCOが消えた日”ミュージックビデオ ※期間限定公開

そんな平手を中心にステージに立つ欅坂46のメンバーは皆、大人の嘘を見透かしてしまうような純粋で強い目をしている。その眼差しは大人になって忘れていた感情をフラッシュバックさせ、どこかのタイミングで捨ててしまった10代のころの日記を思い出させてくれる。だから欅坂46は今までで一番「リアルな少女の姿」でありながらも、アイドルとしては唯一無二の存在だし、今後もっとそれを証明していくのだろう。(渡辺満理奈)
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