【コラム】KinKi Kids『N album』を聴く。アルファベットが「続いて」いく意味を思う
2016.09.26 18:30
アルバムとしては1年9ヶ月ぶりとなる最新作をリリースしたKinKi Kids。彼らのアルバムは常に良質なポップス作品として高い完成度を誇っているが、今回は堂島孝平がアルバムの制作に大きく携わっていることにも注目したい。堂島がKinKi Kidsに初めて楽曲提供をしてから、すでに15年以上が経つが、中でも、前作『M album』に収録された“SPEAK LOW”は非常に素晴らしかった。そして今作では楽曲提供という役割を超えて、サポートプロデュースという立場でアルバムに携わっている。
もはや説明するまでもないことだが、KinKi Kidsのアルバムは、1stの『A album』から、リリース順に、タイトルにアルファベットが冠せられており(途中、10枚目の作品のみ、『Φ』という独立したタイトルになっている)、15枚目となる今作は『N album』。いつもそれぞれのアルファベットが、作品のコンセプトの頭文字になっているというのも特徴で、今回の「N」は、「naked & natural」というテーマが隠されている。そのテーマが表す通り今作では、録音のバランスも含め、いつにも増して自然体で生っぽいふたりの歌声を堪能することができる。そしてそれがとても心地よい。
堂島は、時代性×普遍性、アーティスト性×アイドル性を絶妙なバランス感覚で楽曲に落とし込むことができる優れたポップマエストロであり、彼の提供してきた楽曲はKinKi Kidsファンからも常に人気が高い。今回、オープニングを飾る“naked mind”はもちろん彼の手による曲だが、そこで聴かせるさわやかなポップファンクサウンドは、しっかりアルバムのコンセプトを表現しながら、堂本剛と堂本光一というふたりのボーカリストの成熟した魅力を浮かび上がらせている。
堂島提供作品に加え、今作もまた豪華な制作陣が名前を連ねている。7月にリリースされ話題となったシングル曲“薔薇と太陽”の作者である吉井和哉がさらにアルバム用に楽曲を提供していたり、小出祐介(Base Ball Bear)、松田晋二(THE BACK HORN)など、それぞれのアーティストが作る楽曲の個性を、KinKi Kidsは気負うことなく、まさにnaked & naturalに見事に表現していく。今現在の等身大のふたりのモードをそのままアルバムに反映させたという意味では、「N」は「now」というテーマを持ってきてもはまるような気がするし、そういえば、堂島は自身のツイッターで「自分の中では『next』という隠しテーマもありました」と語っていた。確かにこのアルバムには、KinKi Kidsのネクストステージの幕を開いたかのような、明るい開放感がある。まさにデビュー20周年のアニバーサリーイヤーにふさわしいアルバムだと思う。
デビュー作から一貫して、楽曲が持つ不変の魅力にこだわってきたKinKi Kids。決して最先端の音を求めるわけではなく、長く音楽ファンの耳に寄り添うポップミュージックを追求してきた。アルバムタイトルをアルファベット順にするというアイデアも、今となればKinKi Kidsの常識のようなものだが、当初から、時代に消費される音楽ではなく、アーカイブ的にいつでも手にとることができて、ずっと愛され続ける音楽を作っていくという確たるビジョンがなければ、この思い切ったアルバムタイトルを長年踏襲していくことは困難だったはず。改めて、アルファベットがここまで続いてきたことに脱帽する。例えば、続いていくことがプレッシャーになることだってあっただろう。KinKi Kidsのあり方を模索した時期もあっただろう。それを経て今、naked & naturalにふたりの歌が響いていることを、一音楽ファンとしてとても嬉しく思う。アルバムのラストを飾る“なんねんたっても”(これも「N」のひとつと解釈したくなる)では、ふたりの声がぴったりと寄り添うように重なる。色褪せることのない思い出を大切に胸に抱いて生きていくという、ふたりの共通の思いがここにあるかのようだ。(杉浦美恵)
なお、RO69では、シングル『薔薇と太陽』リリース時のコラムも掲載しています。是非ご覧ください。
【コラム】なぜKinKi Kidsは吉井和哉を求めたのか? コラボ曲“薔薇と太陽”について
http://ro69.jp/news/detail/146256