【コラム】星野源の描く「愛の世界」を3つの楽曲から覗いたら、私の目にはこう映った

【コラム】星野源の描く「愛の世界」を3つの楽曲から覗いたら、私の目にはこう映った

星野源は、現在放送中のTBSの火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』に新垣結衣と共に出演し、主題歌“恋”を書き下ろした。このドラマも主題歌も、もはや説明不要なほど話題になっているが、「星野源」と「恋」というワードは以前から彼の楽曲を知る人々にとっては新しい掛け算だったと思う。というのも星野自身、今までいわゆるストレートなラブソングをほとんど書いてこなかったからだ。

「愛している」という1つの結論は、いろんな言葉で表現できる。夏目漱石が「I love you.」を「月が綺麗ですね」と訳したように、その人にとっての愛を表す言葉はたくさん存在している。星野の曲はストレートな表現を使わない代わりに、何気ない言葉の中にちらりと、彼特有の「愛の世界」が見えることが多い。このコラムでは、私の目に映った「星野源の描く愛の世界」をごく私的に語っていきたいと思う。

まず、2011年にリリースされた1stシングルより“くだらないの中に”。

“くだらないの中に”(MUSIC VIDEO & 特典DVD予告編)

《髪の毛の匂いを嗅ぎあって くさいなあってふざけあったり》

星野の今までの楽曲や文章から「『くだらない』ということがとても重要な意味を持っている」というオリジナルの哲学があるように感じる。この曲では、髪を嗅ぎあってからかい合うというあまりにも何気ない行為が、星野にとっては「好き」と言葉にするよりも愛が伝わる行為として描かれている。

続いて2015年にリリースされたアルバム『YELLOW DANCER』に収録されている“Friend Ship”。

“Friend Ship”【星野源と聴く試聴動画】

《君の手を握るたびに/わからないまま/胸の窓開けるたびに/わからないまま/わらいあうさま》

この曲は「別れ」の歌だが、理由が書かれていないから曲中のふたりがどうして離れるのか、なぜ笑いあっているのかはわからない。私は、相手を目の前にして何かを言葉にしたくてもできない、はっきりしたことを言えない、そんな互いの気持ちが通じあって、なんとなく照れ笑いのような微笑みを交わしている画を想像した。何事においても白黒はっきりつけられないということは、どちらかというと恥ずかしいことのような気がするが、人間の持つ複雑な感情は、白か黒どちらかに気持ちを寄せることこそ不自然で、「わからない」という答えが一番ピュアで自然なものなのかもしれない。それを互いに許して笑いあう、無条件な関係性への肯定がこのフレーズから感じられる。

最後に、今年リリースされた最新シングル“恋”だ。

“恋”ミュージックビデオ

《恋をしたの貴方の/指の混ざり 頬の香り/夫婦を超えてゆけ》

この曲は夫婦の歌だが、星野は2015年に出版した自身のエッセイの中で『急須』と題したショートストーリーを掲載している。この物語自体、10年ほど前に書かれたもののようだが、これもまた夫婦の話で、ざっくりとあらすじを書くと、「かみさん」がお気に入りの急須を割ってしまい、夫婦で同じ急須を買いに行く。同じ柄のものを見つけたものの、「かみさん」は自分だけが気に入っていたと思っていたその急須が人気商品だと知って、泣きながらその急須をぶん投げてしまう。「俺」はその様子がおかしくて大笑いする、といった話だ。正直、劇的な話ではないしこれもやっぱり「くだらない」ことの中に、完璧じゃない「人間の愛おしさ」と夫婦や男女の関係を超えた、もっと精神的な人と人との結びつきを感じる。

星野の描く愛の世界は、実は世の中にはよくある普遍的な形だ。しかし彼特有の表現方法であるゆえ、この世界観は星野にしか歌えない。恋や愛といったものは昔からずっと表現のテーマになっていて、過剰に情熱的に見せたりロマンチックにしたてあげられる場合もある。しかし星野の歌にはそんなそぶりはなく、いつだって嘘偽りのない、ほんのりと体温を感じさせる「ありふれた愛の世界」が描かれている。日々の中の愛を感じられるシーンを狙いすますように切り取るのではなく、なにげなく切り取ったワンシーンから愛を見出す、そんな表現だと思う。

そして「くだらない」のなかに愛を見出す表現を超えて、ずばり「恋」というテーマを元にストレートなタイトルが付けられたこの曲は革命的な星野源楽曲となり、今後の彼の表現にまた新たな幕開けを感じさせてくれた。(渡辺満理奈)
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