スピッツ結成30周年を記念して、7月5日にリリースされるシングルコレクションアルバム『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』。
2006年に発売されたシングルコレクションアルバム『CYCLE HIT 1991-1997〜』『CYCLE HIT 1997-2005〜』と、“魔法のコトバ”以降のシングル曲&新曲を収めた『CYCLE HIT 2006-2017〜』をコンパイルしたCD3枚組・全45曲。日本のポップミュージックを彩ってきた名シングル曲群とともに、ひときわ鮮烈な存在感を放っているのが、『CYCLE HIT 2006-2017〜』に収録された新曲である。
結成30周年の節目に立ってなお《確かな未来 いらないって言える幸せ》と「その先」へのチャレンジングスピリットを軽やかに歌う“ヘビーメロウ”(現在配信中)も最高だが、今回収録される未発表曲2曲は、スピッツのファンタジーサイドとロックサイドをそれぞれ高純度結晶させたような素晴らしい楽曲だ。ここではアルバムの最後に収められた“1987→”の痛快さとその意味について触れていきたい。
“1987→”はそのタイトルからもわかる通り、草野マサムネ/三輪テツヤ/田村明浩/﨑山龍男がバンドを結成したまさにその年、「1987年のスピッツ」そのものをモチーフにした、当時の彼らのサウンドを彷彿とさせるビートパンクど真ん中のアグレッシヴなナンバーだ。
《なんかありそうな気がしてさ 浮かれた祭りの外へ/ギリヤバめのハコ探して カッコつけて歩いた》――20歳になるかならないかぐらいの、必死に背伸びしようとしていたバンド黎明期の4人の姿を思い起こさせる歌い出しには、誰彼構わず青春時代に引き戻さずにいられない溌剌とした躍動感が宿っているし、《らしくない自分になりたい 不思議な歌をつくりたい/似たような犬が狼ぶって 鳴らし始めた音》というフレーズからは、唯一無二のオリジナリティへと懸命に手を伸ばしていた、当時のバンドの姿が浮かび上がってくる。
というか、結成後はむしろ「ポスト・ビートパンク」の道を求めて試行錯誤していた彼らが、「結成当時の自分たち」をあえてこの、イノセントなまでにパンキッシュなアレンジに重ね合わせて曲に昇華することができるのも、活動休止もメンバーチェンジもなく結成30周年を迎えるに至った今だからこそだろう。
《それは今も続いてる 泥にまみれても/美しすぎる君の ハートを汚してる》――自らの「あの頃」を回想する冒頭部分に続けて、マサムネはそんなふうに歌っている。「ハートをつかむ」でも「ハートに焼き付ける」でもなく「ハートを汚してる」と歌われる言葉が、ファンタジックではあっても綺麗事では終わらないマサムネの詞世界のリアルな質感を自ら言い当てているし、「今も続いてる」の後には聴く者すべてが「そしてこれからも……」という期待感を喚起させられることだろう。そんなマジカルな魅力に満ちた楽曲だ。(高橋智樹)