今週の一枚 ウルフ・アリス 『ヴィジョンズ・オブ・ア・ライフ』

今週の一枚 ウルフ・アリス 『ヴィジョンズ・オブ・ア・ライフ』

ウルフ・アリス
『ヴィジョンズ・オブ・ア・ライフ』
9月29日発売

デビュー・アルバム『マイ・ラヴ・イズ・クール』の成功から得た自信、その後の2年間で培った体験や経験の中から得た柔軟な楽器の使用法や空間の捉え方、及び演奏スキル、レコーディング・スキルの飛躍的な向上、それらすべてを反映した充実の2ndアルバムである。同時に、体験や経験では捉えきれない、どうしようもなく衝動的で本能的な呼吸、偶然の産物、移り気な気分の揺らぎを排除することなく、それらすべてを解き放ち、投射したセカンド・アルバムでもある。ウルフ・アリスの『ヴィジョンズ・オブ・ア・ライフ』は、その両極端のふたつのベクトルが両立した点において最高のアルバムになったと言える。

彼女たちが本作で示したその二面性を最も端的に象徴しているのが、先行シングルの“Yuk Foo”と“Don’t Delete The Kisses”のコントラストだった。2分13秒の超絶ファストなハードコア・パンクに乗せてクール・ビューティーのエリー・ロウゼルが「誰彼かまわずヤッてやる!」とシャウトするショッキングな“Yuk Foo”は、やり場のない怒りや苛立ちを一切取り繕うことなく叩き付けたまさに衝動的で本能的な一曲だったし、対する “Don’t Delete The Kisses”は極めて戦略的にポップ・シングルを書こうとした、エリーいわく「自分史上一番ハッピーで、チャラい」エレポップ・チューンだったからだ。アルバム全体においても、ハードとソフト、ポップとアンビエンスが両極にぐいぐいと主張し合っている。

Wolf Alice - Yuk Foo

Wolf Alice - Don't Delete the Kisses

ウルフ・アリスのデビュー・アルバム『マイ・ラヴ・イズ・クール』は、ギター・ロックに逆風が吹き続きすぎていてもはや麻痺してきたこのご時世にあって、驚くほど魅力的なオルタナティヴ・ロック・アルバムだった。グランジ・リバイバル、シューゲイズ・リバイバルとも称された『マイ・ラヴ・イズ・クール』は、オルタナティヴ・ロックが輝きを放ち、力を持っていた90年代自体のリバイバル作でもあった。そんな前作が本国UKで初登場2位&ゴールド・アルバムを獲得し、グラミー賞にもノミネートされるなど、US市場においてもUKロック新人として破格の成功を収めたのは、彼女たちの志向したそのオルタナティヴ・ロック・サウンドがまさにアメリカにおいても親和性の高いものだったからだ。

この『ヴィジョンズ・オブ・ア・ライフ』は、「驚くほど魅力的なオルタナティヴ・ロック・アルバム」という大枠においては『マイ・ラヴ・イズ・クール』を踏襲したアルバムだ。最近ありがちな、いきなりエレクトロになったりR&Bになったりすることはない。あくまで本作はロックであり、オルタナティヴなのだ。その代わり、本作にはグランジやシューゲイザーといった90年代にとらわれない、自分たちだけの魅力的で理想的なオルタナティヴ・ロックを生み出したいという新たな目標が生まれていると言えるんじゃないだろうか。

“Beautifully Unconventional”や“Space & Time”はグランジの曖昧なムードを廃してノイズの威力を適宜増したガレージ・パンク・チューンで、結果として思いっきりポップなアンセムと化している。対して“Sky Musings”のように、3分弱の中にマイ・ブラッディ・ヴァレンタインからシガー・ロス、はたまたポーティスヘッドの要素までぎゅっと凝縮したような、シューゲイザーと呼ぶにはあまりに醒めていて、タイトで筋肉質なナンバーもある。

ケイト・ブッシュからラナ・デル・レイまで彷彿させる、シンプルでいながらもどこかゴシックなフォーク・チューン“After The Zero Hour”や8分超えのエクスペリメンタル・チューン“Visions Of A Life”といった後半のナンバーは、さらに今後の、これからのウルフ・アリスの序章となるべき攻めているナンバーだ。リスペクトを忘れない過去のリファレンスと、過去にとらわれないチャレンジ精神、この2017年に若手ロック・バンドとしてあるべき姿勢を示してくれた一枚だと思うし、ロイヤル・ブラッドの『ハウ・ディド・ウィ・ゲット・ソー・ダーク?』と並び、UKロックの復権の継続性を象徴する2ndアルバムだ。(粉川しの)
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