ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース @ Bunkamura オーチャードホールのライブレポートが公開

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース @ Bunkamura オーチャードホールのライブレポートが公開 - Photo by Masanori DoiPhoto by Masanori Doi

2013年の「SPORTS 30周年記念公演」以来4年ぶりのジャパン・ツアーを行っているヒューイ・ルイス&ザ・ニュースだが、11月20日にBunkamura オーチャードホールで行った来日公演のライブレポートが公開された。

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薄明かりの中で響く心臓の鼓動音。それが徐々に大きくなるにつれ、会場のみんなはオープニング・ナンバーが何かを確信していく。さあ、始まるーそんな期待が胸に広がる心地よさは、格別だ。これから本当に自分だけにとって特別な時間が訪れるのだから。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの、2017年の来日ステージ、その東京初日。ぞろぞろと舞台に現れた8人の男たちは、ブルース・ハープを吹きながらおもむろに登場する最後のひとりを迎え、準備は整う。客席を埋めた、どちらかというと男性の比率の高い、いや、思った以上に女性の姿も見られるファンたちは、すぐに総立ち。もちろんアルバム『スポーツ』からの“ハート・オブ・ロックン・ロール”が幕明けだ。

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小豆色の襟付きシャツにジーンズ、ブーツ姿の彼、ヒューイ・ルイスはかなり絶好調。ご当地ソング風味を活かして「東京!!」の決め言葉を放ち、曲を終えた直後にハープを客席に放り投げるプレゼントまで。それを見たみんなから「ああ、いいな~」のどよめきが広がるのもライブのパーティー感をぐぐっと上げた。

ボーカルのヒューイに、ベース、ドラムス、ギター、サックス/リズム・ギター、キーボードに、三管のホーン・セクションを加えた9人のラインナップは、もうすっかりお馴染みの編成であり、長髪の若いリード・ギタリストを除くとひたすら渋めのおじさんばかりなのだが、それ故の深みとかっこよさが発散されるビジュアルである。

2曲目に披露された新曲“Remind Me Why I Love You Again”はキレのあるアップ・ナンバーで、バンドの現在の姿勢を示していた。続く“いつも夢みて”“アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ”と『スポーツ』の醍醐味をまざまざと聴かせた流れで、序盤の勢いが決定的となる。

新曲“Her Love Is Killing Me”での終盤、まるで歌詞を忘れたトラブルのように装われた部分がタイトルに引っ掛けた演出だとわかると、ヒューイの役者ぶりを讃えたくなった。

ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース @ Bunkamura オーチャードホールのライブレポートが公開 - Photo by Masanori DoiPhoto by Masanori Doi

ステージの白眉となったのが、次の“ジェイコブズ・ラダー”だ。30年前、真夏の後楽園球場に立った彼らがオープニングに演奏したのと同様、イントロをたっぷりと伸ばして、みんなを焦らし、想いをつのらせる。「Step by Step, One by One」の大サビを合唱し、自分がヒューイたちと同じ空間にいられる満足に浸れた瞬間だ。

ショーは、ステージにいる全員がモータウンのボーカル・グループ(テンプテーションズやフォー・トップスなど)をなぞったようなコミカルな振り付けを施してる様がなんともかわいい“ヒップ・トゥ・ビー・スクエア”の後、恒例のア・カペラ・パートに。「知ってる人はいっしょに歌って、知らない人は手拍子して」の言葉に促され、バンドが培って来たR&Bボーカル/ドゥワップの魅力を堪能する。

横一列に並んだ彼らが、あまりに夢中にコーラスを紡ぐ姿から、ソウル・ミュージックへの関心を抱き、昔からずっと誰かの心で生き続けた音楽の力を知って、生涯いい曲と過ごす価値を見出した人は、この会場にもきっとたくさんいるはず。

新曲“While We're Young”は、ミドル・テンポのホノボノとしたシミジミ系の味わいに満ちた佳曲。そこからの終盤、まずは「Let's Go Back to The Future!!」とまで叫んでおいて、あっちではなく映画に提供したもう1曲“バック・イン・タイム”を披露する洒落。“ハート・アンド・ソウル”でもう一度『スポーツ』の世界に戻されて、J.J.ジャクソンのカバー“バット・イッツ・オールライト”、そして
“ロング・タイム、グッド・タイム”で本編は締め括られた。

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中盤のメンバー紹介はまさしくゴキゲン。まだ若く唯一のロン毛でちゃんとハード・ロックを踏襲する伝統を担っているリード・ギタリストのステフ・バーンズに、生まれも育ちも現在の住まいもハリウッドというベースの伊達男ジョン・ピアース。

そしてザ・ニュースの中核であり続ける、実にクローヴァー時代から5つのディケイドを共にしているキーボードのショーン・ホッパーに、スタイリッシュでパワフルにして小技も効かせるドラマーのビル・ギブソン、さらにサックス/リズム・ギターにバック・ボーカルで欠かせないジョニー・コーラの3人が、ヒューイを支えているのを知って、感涙のファンもいたはずだ。

3人のホーン隊も2人がサンフランシスコ/ベイ・エリア出身で、いずれもジャズの真髄を理解した曲者たち。イギリス勢が席巻した80年代にシンセとダンス・ビートがヒット・チャートを躍っていたときに、ブルース・スプリングフィールドやジョン・クーガー、ボブ・シーガーらと共に伝統のアメリカン・ロックをしっかりと受け継ぎながら、コンテンポラリーなポップ・ミュージックとして若いファンにもその魅力を教えてくれた彼らには、ブルースやカントリー、フォーク、R&B/ソウルといった汲めども尽きぬ豊潤で深淵な音楽の歴史が脈打っている。

コンサートの場でこそ、そうした重層的な味わいがあらゆる形で発揮され、細かいことを考えなくても惹き込まれるパワーにと結びついているのだと強く感じさせられた。

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アンコールには、待ちに待った“パワー・オブ・ラヴ”、みんなが「Yes it's true, I can see」とコーラスをつけた“スタック・ウィズ・ユー”が会場の温度を最高潮に引き上げ、そしてショーはいつもの通り、“ワーキン・フォー・ア・リヴィン”で幕を閉じる。「金のためにしょうがなくやってる」ともその歌詞から受け取れるラスト・ナンバーは、きっと逆説の暗喩。だってヒューイは、言ったのだ。「自分たちは本当に好きだから音楽をやっている。そして、それはみんながいてくれるから、できる」と。

ヒューイと仲間たちは心から音楽を楽しんでいるーだから、あれから何年経ったとしても、ファンのみんなも心から楽しめる。そこでこそ、真の共鳴つまりグルーヴが生まれるのだ。そのことをはっきりと証明した、豪快で痛快で爽快で、そしてたまらなくグッと来るライブな夜だった。ロックン・ロールのハートは、今も鼓動を止めない。
(ディスク・ジョッキー 矢口清治)



ジャパン・ツアーの詳細は以下の通り。
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