WANIMA『18祭』1000人の若者と共にステージを作り上げる姿は、鳥肌が立つほど素晴らしかった

12月20日に、NHK総合で放送された『WANIMA 18 祭(フェス) -1000 人のシグナル-』。それを観て思うところはいろいろあるし、放送中ずっと胸がザワザワしていたのだけれど、すべて引っ括めて、若者たちが眩しかった。全国の18歳世代(満17歳〜19歳)が、熱い思いを動画でアピールし、選ばれた1000人がWANIMAとともにひとつのステージを作り上げるという企画だ。2017年1月には『ONE OK ROCK 18祭(フェス)』が放送されたが、今回はその1年下の世代ということになる。

そこには、無数の夢や希望や、不安や悩みが渦巻いていた。誰も彼もが自分の人生に真剣に向き合っていた。神社の跡取りでドラマー志望の男子は、自分の進む道に思い悩んでいる。この6月にアメリカの大会でスラックライン世界1位になった女子は、進学を蹴ってプロの道に踏み出すことを選んだ。以前いじめに遭っていて人と話すのが怖くなったという人も、トランスジェンダーの若者も、自分を奮い立たせて『18祭』に応募した。ただWANIMAに会いたいというのではなく、彼らは新しい自分に会いたがっているように見えた。

KENTA(Vo・B)は、「不器用なりに前に前に行こうとする姿。何をやっていても無駄じゃないんだよ」という、若者に向けた思いを口にしていた。無数の応募動画に込められたメッセージを受け止め、生み出された楽曲は“シグナル”だ。ブラスセクションとコーラスで1000人が参加するためのアレンジが練り上げられる。楽器演奏も、歌も、決して上手い人ばかりではない。それどころか、ブラスアレンジを担当したYOKAN氏は、練習会で「無難に演奏すると気持ちを込めるのは難しいから」と、一般的な吹奏楽とは異なる思い切った演奏を指導する。若者たちは戸惑いながらも楽しそうで、少しずつ、確実に何かが変わっているのが分かる。

5年前にWANIMAに加入したFUJI(Dr・Cho)は、それまでに10ものバンドを経験してきたという。「WANIMAは熱量が違った」そうだ。高校卒業後、家族の生活のために自衛隊に入ったKO-SHIN(G・Cho)は、「常に音楽をという気持ちがあった」と語っていた。後にKENTAが「お前じゃないと無理だ」と告げたことを受けて、退役し上京を果たした。そして、11月6日に故郷・天草の海にいたKENTAは、あの“1106”で歌われた祖父のことを語る。生前の祖父から貰ったメッセージを、《好きにやって 駄目なら戻って来い》という一行にしたため、“シグナル”の歌詞に入れたのだそうだ。

そして本番前日の11月11日、全国から1000人の若者が一堂に会するリハーサル。その音合わせを目の当たりにしただけで、僕はもう十分だった。鳥肌が立つほど素晴らしかった。翌日の本番シーンは、若者たちが思い切り楽しむ姿を観ていればいいだけだった。彼らの中では、応募動画を録画したときに、さらに遡ればWANIMAの歌に出会ったときに、情熱を傾けて物事に取り組んだときに、何かが変わっていたのだと思う。「絵を描く以外には何の取り柄もない」と語り、練習会でも周囲と打ち解けられなかった女子は、しかしWANIMAの3人の絵を描いたとき、すでに喜びに満ちた未来を手に入れていた。

本番シーンの終盤、“シグナル”の演奏中に、管理栄養士志望の短大生女子が呼び出されて、バスケのロングシュートを6投目で成功させた。途中、KENTAは「編集って手があるけん!」とジョーク交じりに励ましていたけれど、1000人の証人が見ているのに編集は無理だろう。10年バスケ部に在籍した者として言わせて貰うなら、サプライズでウォーミングアップもなしに異様な緊張感の中でシュートさせられて、普通なら入るわけがない。でもWANIMAは、彼女なら出来ると勝手に信じていたのだと思う。彼女も、入ると信じていたのだと思う。2投目には名シューターの顔付きになっていた。《好きにやって 駄目なら戻って来い》。その言葉を胸にWANIMAは活動し続けてきたし、彼女はシュートを打ち続けたのだ。(小池宏和)
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