吉井和哉の新曲“Island”がTHE YELLOW MONKEY再始動を経て生まれたことの「希望」について

吉井和哉の新曲“Island”がTHE YELLOW MONKEY再始動を経て生まれたことの「希望」について - 『SOUNDTRACK〜Beginning & The End〜』6月13日発売『SOUNDTRACK〜Beginning & The End〜』6月13日発売
THE YELLOW MONKEYの再始動に熱くさせられた2016年、そして2017年。バンド活動が存分にその果実を実らせたところで、今年はメンバーそれぞれのソロ活動が活発だ。特に吉井和哉は、ソロ活動15周年のアニバーサリーイヤーを迎えていることもあり、現在全国ツアーの真っ最中。さらには本日、15周年の記念作品である『SOUNDTRACK〜Beginning & The End〜』がリリースされた。2015年、THE YELLOW MONKEYの再始動発表前の武道館でのソロライブ音源を収録したアルバムであるが、ここに1曲、スタジオレコーディングされた新曲が入っている。この“Island”と名付けられた歌、その歌詞に、いま予想以上に心を揺さぶられている。

《血まみれの女神達よ聴いてください/
この嘘みたいな現実を生き抜くための歌を》

この冒頭の歌詞だけで、ぎゅっと心を鷲掴みにされてしまった。「嘘みたいな現実を生き抜いて」いかなければいけないのは吉井自身であり、我々自身でもある、そう感じさせる一節だったからだ。吉井和哉はいつでもその時々の自分の感情や思いを、歌詞に割とダイレクトににじませるタイプのアーティストだ。だからこそ、紛れもなくこの楽曲にも吉井のパーソナルな経験や感情が息づいている。しかし、はじめに「この歌はあなたのためのもの」と提示され、突きつけられたのである。この歌で吉井が語りかけるのは希望なのか、絶望なのか、曲が進行していく中で、その答えを欲してしまう自分がいた。

“Island”は、《地図にはない島》、《名前のない島》への憧憬、つまりは確約されない未来、どこにたどりつくのかわからない未来を思って歌われる。今作のリリースに先がけて、この楽曲のインストゥルメンタルにのせ、野沢雅子、DAIGO(BREAKERZ)、山田孝之、栗原類による歌詞の朗読が公開(※ツアー最終日となる6月30日まで公開)されていたことからも、吉井が何よりもこの楽曲の歌詞を、リスナーに届けたいと思っていることがわかる。そして、これはやはり吉井和哉名義だからこそ生まれてきた歌だと、そして、THE YELLOW MONKEYの再始動を経たからこそ、生まれてきた歌詞なのではないかとも思う。


《激しい雨に打たれ カミナリ落ちました/
僕の足に絡んだ蔦は/
あの日蒔いた種だった》

身動きが取れずに絶望的な気分に苛まれる時、はじめて自分自身の過ちに目が向くものだ。皆、何かにつまずいた時、自分の愚かさを思うが、だからこその逃げ場のなさ、言い逃れのできなさが、さらに自分自身をがんじがらめにしていく。そんな現実に息苦しさを感じる時が誰にでもあって、2018年の現在、その閉塞感は時代の空気とも妙にシンクロしてしまう。けれど、この歌が最後に提示してくれるのは一筋の希望だ。きっとどこかにある自分だけの、自分たちだけの“Island”。これこそが、吉井がこれまでの音楽活動、そしてその人生を経て手に入れた「場所」なのではないかと思う。そしてその「場所」は、それこそ信教や価値観の違いにかかわらず、誰もが手にいれられるはずの《地図にはない島》なのだと、吉井は歌う。

《心が疲れたら 歌でも歌いながら/
あの日蒔いた種が育った/
名前のない島へ行こう》

あの日蒔いたのは悪い種だけではなかったはずだと、この歌は希望を表す。どこかで頼もしい生命力に満ちた存在が知らないうちに育っている──それを信じる力がまだここにはあるということ。その結びに、なぜだかわからないけれどものすごく救われた思いがした。今、この歌が生まれた意味を思う。《名前のない島》に希望を感じられる強さ──その肯定感の裏に、確実にTHE YELLOW MONKEYの再始動で得たポジティブな実感が吉井にはあるはずで、おそらくその思いはとても個人的なものだ。ゆえに今こそ、吉井和哉として作品にしておくべきだと思ったのではないか。

吉井和哉がTHE YELLOW MONKEYの活動休止後、最初にリリースしたアルバムは『at the BLACK HOLE』(2004年)だった。あのアルバムに感じた、ある種の重さや渇きは、まさにあの時代の吉井和哉であったし、1stシングル曲“TALI”は今回のアルバムにも2015年のライブ音源として収められているけれど、ポップなのにどこか諦念を感じさせる曲でもあった。厭世的というか、未来への希望は「叶わないもの」として、ファンタジーとして歌われていたように感じたのだ。それから約15年。最新曲“Island”に見えるのは、現実と真正面から対峙し自問しながらも、どこかに風の抜けるような自分だけの場所を見つけられるという確たる思い。ここにたどり着くために、吉井和哉には再びTHE YELLOW MONKEYが必要だったのだろうし、その答えこそ、バンドとしてではなく、吉井和哉というひとりの人間として記しておきたいことだったのだと思う。

今もはや、吉井にとってソロ活動はTHE YELLOW MONKEYでの活動と両軸である。THE YELLOW MONKEYでの活動は吉井のソロ作品に、そしてこうしてまたソロでの活動を再開することによって、さらにTHE YELLOW MONKEYの音楽にと、それぞれが相乗効果で良いエネルギーを積み重ねていくことができるのではないか。“Island”はまさしくそう実感できる新曲だった。今こそこの「希望」の歌を、ぜひ聴いてみてほしい。(杉浦美恵)

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