【ロッキング・オンを読む】フレディ・マーキュリーの真実を初めて映画化! 『ボヘミアン・ラプソディ』とは、いったい何なのか?【全文公開】

【ロッキング・オンを読む】フレディ・マーキュリーの真実を初めて映画化! 『ボヘミアン・ラプソディ』とは、いったい何なのか?【全文公開】 - © 2018 Twentieth Century Fox© 2018 Twentieth Century Fox

文:内瀬戸久司

クイーン/フレディ・マーキュリーの生き方を描いた映画が作られるという噂は、思い起こせば、ずいぶん前から映画業界では飛び交っていた。最初に具体的な話が流れ出したのは2011年頃だったかと思う。当時は『ボラット』でおなじみのサシャ・バロン・コーエンがフレディ・マーキュリー役を演じる!という噂だった。確かに雰囲気は似てなくもないけど、けっこう「クセの強い」コメディアンだから、大丈夫かなぁ……と思ってたら、案の定、途中で企画自体がポシャってしまった。だから、言わんこっちゃないって。

その後、仕切り直しで新たにラミ・マレック(TVシリーズ『Mr. Robot/ミスター・ロボット』)がフレディ役にキャスティングされたのが2016年のこと。監督は『X‐メン』シリーズのブライアン・シンガーに決まって、撮影も順調な滑り出しで、もう大丈夫!と、誰もが思った……そしたら、2017年12月、今度は撮影中のいざこざが理由で、監督のブライアン・シンガーがロケの最終段階で電撃降板!とのニュースが飛び込んできた。どこかの神社でお祓いでも受けた方がいいんじゃない?ってくらい、とにかくトラブル続きだったのだ。

でも結局、残り2週間の撮影は別の監督(デクスター・フレッチャー)が引き継ぐことで無事に終了。そんなこんなで、どうにか完成にまでこぎつけたのが、本作『ボヘミアン・ラプソディ』(11月9日公開)である。改めて振り返ってみると、本当によくぞ完成したよなぁ、と思う。ロックの神様は、まだまだクイーンを見捨ててなかったんだ。

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改めて説明するまでもないと思うけど、この『ボヘミアン・ラプソディ』という映画は、1991年にエイズの合併症により45歳で亡くなったフレディ・マーキュリーの生涯を初めて深く掘り下げた作品である。物語は70年代初め、4人がクイーンとして活動し始めるところから幕を開け、そこから10数年間に及ぶバンドの栄光の軌跡がクロノジカルに描かれていく。楽しい思い出も、悲しい思い出も。世界ツアーも、パーティ三昧の日々も。みんな仲良しだった頃も、ケンカしていた頃も。

もちろん、おなじみのヒット曲がいっぱい流れる。“ボヘミアン・ラプソディ”や“ウィ・ウィル・ロック・ユー”といった人気ナンバーの「レコーディング秘話」も盛り込まれる。クイーンを描いたドラマだけあって、劇中の演奏シーンはポップでカラフルな演出で、華やかに描かれていく。このへんはきっと(ま、完成直前にいなくなっちゃったんだけど)ブライアン・シンガーの功績が大きいだろう。ロック映画だけど、映像のスケール感はスーパーヒーロー映画のノリなのだ。

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クイーンの4人を演じる俳優たちは、それぞれがよく「実物」の特徴を捉えている。レコーディング中のシーンで4人がワチャワチャ言い合っている場面を見ているだけでも、楽しい気分になってくる。そんな中でも、別次元で圧巻のクオリティなのが、フレディ役のラミ・マレックの演技。「顔が似てる/似てない」というレベルを遥かに超えた地点で、フレディの「魂」に完全に入り込んでいる。アカデミー賞の主演男優賞ノミネートも間違いないだろう。やっぱりサシャ・バロン・コーエンじゃなくて正解だったんだ。

フレディ・マーキュリーの人生を映画化する上で、一番の鍵になる要素は、彼のセクシュアリティをどう描くか―つまり、彼がゲイだった事実をどこまでちゃんと描くか、という点だったと思う。この映画はそのへんの課題もきっちりクリアしているし、フレディのドラッグ問題など、ダークな真実とも向き合っている。音楽映画である以前に、「ヒューマン・ドラマ」としてよく出来ていて、そのへんはおそらく、脚本原案のピーター・モーガン(『フロスト×ニクソン』、『ラッシュ/プライドと友情』)の功績が大きいだろう。今のイギリス映画を代表する名脚本家らしく、フレディ・マーキュリーを「聖人」ではなく、弱さもある「ひとりの人間」として描いていく。

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伝記ドラマは必ずしも「ノンフィクション」である必要はないし、この映画もやはり(映画のメッセージをより効率的に伝えるために)ある程度の「フィクション」を採用している―例を挙げるとキリがないけど、たとえば、フレディの人生に登場する恋愛ストーリーは、実際には数十人の人々(女も、男も)との間に起こったであろうことを、ここでは1〜2人のキャラに「凝縮」して描いている。それから、出来事の順番もところどころで意図的に入れ替えられていて、たとえば、フレディのエイズが発症したのは、実際にはライヴ・エイドの「前」ではなく、数年「後」であるはずだ。他にも、たとえば……。

もしかしたら、純粋主義者のクイーン・ファンの方々は、そういった数々の「歴史の改ざん」を快く思わないかもしれない―でも、映画が最終盤に差しかかり、1985年、ライヴ・エイドでの伝説のステージが幕を開ける頃には、たぶんそんな「細かい話」はどうでもよくなるんじゃないかと思う……というのも、この再現シーンの「臨場感」は、圧倒的レベルの凄まじさだから。あまりに凄まじくて、あなたはきっと大笑いしたくなるだろう。その一方で、思いっきり号泣したくもなるだろう。いろんな感情が一緒くたに込み上げてきて、訳もなく、天に向かってガッツポーズしたくなるだろう。要するに、とってもとっても「クイーン的」なクライマックスなんだ。

映画のラストを「あそこ」に設定したのは、ちょっとロマンティックすぎるかな。でも、考えてみればクイーンというバンドは、いつだってロマンティックなバンドだった。映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、こんな時代に、世界を「ひとつ」に繋げる「歌声」についての美しい寓話である。これは、全人類のための挑戦なのだ。僕らは、まだまだ負けるわけにはいかないのだ。

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