相棒のナイジェル・ゴドリッチ、アートワーク担当のスタンリー・ドンウッド、『トゥモローズ~』から続投でマスタリングを手がけるボブ・ラドウィックと、『アニマ』のスタッフにはお馴染みの面子が揃っている。さらにはフィル・セルウェイとアトムス・フォー・ピースのジョーイ・ワロンカーのドラム・ワークがそれぞれサンプリングされており、映像作家のタリク・バリとはビジュアル・プロジェクトを並行させていて、『サスペリア』や『ア・ムーン・シェイプト・プール』でもタッグを組んだロンドン・コンテンポラリー・オーケストラもアルバムの随所で活躍している。そう、本作はトムと所縁のある多くの人間が関わっているアルバムであり、トムとナイジェルの密室実験に徹していた過去2作と比較してもかなりオープンだ。そしてこの「人との関わり」という視点は、本作において大きな意味を持っているのではないか。
この『アニマ』について、トムは「ディストピアがテーマにならざるをえない」と事前に語っていた。確かに本作を覆い尽くすのは終わりへのカウントダウンのような不穏のビートと、忍び寄る闇のメタファーたるアンビエンスだ。しかし歌詞に目をやると、そのディストピアとは座して世界の終わりに身をゆだねるような、受け身の終末観とはかなり意味が異なるように感じる。暗号のような単語のコラージュの中からふと思いっきり醒めたメッセージが、驚くほど直接的な怒りが、立ち上ってくるからだ。
例えば《君は埋め合わせをしなくては/僕に償いをしなくては》(“トラフィック”)、《呪いはきっと解けるはずだと願わなくては/創造のために破壊しなくては/君に面と向かって無礼な態度を取らなくては》(“アイ・アム・ア・ベリー・ルード・パーソン”)といったアジテーションには、ロンドンを中心に気候変動の危機を訴えるアクティブな抗議活動(「extinction rebellion」)や、反ブレグジット運動へのシンパシーを表明しているトムの、行動主体としての自負が感じられる。人と関わり、人に訴えかけていくこと。脳内音楽の一方通行とは違うそうした相互性が、滅びゆく世界とコネクトする強い意志が、ここにはあるのだ。(粉川しの)
トム・ヨークの巻頭記事は現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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