【本人の言葉で紐解く】BUMP OF CHICKEN 藤原基央による新作『aurora arc』全曲解説

【本人の言葉で紐解く】BUMP OF CHICKEN 藤原基央による新作『aurora arc』全曲解説
先日BUMP OF CHICKENの9作目となるフルアルバム『aurora arc』がリリースされた。収録曲は、2016年8月にリリースした“アリア”以降のシングル曲や様々なタイアップ曲など、既発曲が大半を占めるが、そこから現在に至るまでのBUMP OF CHICKENの濃密な創作活動を、アルバムとしてひとつにまとめあげたことによって、そこに新たなストーリー(ドキュメンタリー)が浮かび上がってきた。この新作アルバムや、その収録曲についてのインタビューで、藤原基央(Vo・G)が語った言葉を引きながら、このアルバムが生まれた必然に迫ってみたい。(杉浦美恵)


①aurora arc

アルバムタイトルが決まった時に、このアルバムにはなんらかこのタイトルにまつわるような曲があるんだろうな、とは思ってたんです。恐らくインストで、何か書くんだろうなって。ただそれは漠然と思っていただけだったんですけど……『aurora arc』ってタイトルを伝えた時に、スタッフが「オーロラ見に行こうぜ!」って言ってきたんですよ。
(中略)
それで、まだ録り終えてない曲もあったし弾丸ではあったんですけど本当にイエローナイフに行って、その旅がすげえ良かったんです。で、帰ってきてからスタッフが「藤くん、“aurora arc”って曲を書いてよ」って言ってきたんです。そこで、スタッフのほうがメンバーより具体的なイメージを持ってこのタイミングでアルバムを出すってことを考えてるわけだから、そういう意見が出るのも、そうだよね、みたいに思って……それでノーアイディアでスタジオに入ったんですけど、本当に簡単にこの曲が書けたんです。さっきも言ったけど、書くんだろうなというのはアルバムタイトルが決まった時点で思ってたし、頭の中、深層心理では決まっちゃってたんですよね。それを取り出すだけの作業だったんだろうなって思います。
(『CUT』2019年7月号)


今作で藤原基央自身が最新アルバムにも書き下ろしのインスト曲が入るだろうと予感し、信頼のおけるスタッフにもタイトルを表現する楽曲を望まれたというのは決して偶然ではないだろう。チームBUMP OF CHICKENが実際にオーロラを見に足を運び、そこで経験したこと、そしてそれが過去から現在へと続くBUMP OF CHICKENの物語ともシンクロすることなどを知るにつれて、この美しいインストゥルメンタルは、まるでここに生まれ出ることが約束されていたかのようだと思う。オーロラの持つ神秘的で幻想的な視覚的イメージそのもののような、サウンドの魅惑的なゆらぎとスケール感は、このアルバムが描き出す物語の幕開けにふさわしい。

②月虹

僕はタイアップに対して、作品のモチーフに合うようにっていう商業的な意識でやる必要はないし、やってもいけないし、僕自身そういうものが書きたいんじゃないっていう想いがけっこう強くあるので……だからこそ「合わない」って言われるんじゃないかっていうのはいつもすごく怖いんですけど、どうにか毎回ご好評をいただいてるので(笑)、このままでいいのかなと思っているんですけどね。

それで、自分の記憶の井戸、感情の井戸、現在の音楽の井戸――BUMP OF CHICKENが表現してきたフィールドと『からくりサーカス』という作品のフィールド、ふたつが重なる部分にある深~い井戸に僕は潜ったわけです。で、書いた曲がこれです。
(『CUT』2018年11月号)


TVアニメ『からくりサーカス』の第1クールのオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲。この楽曲に限らず、BUMP OF CHICKENの手がけるタイアップ曲は、もとの作品の物語性をそのままトレースするのではなく、そこに宿るさらに深い、見えざるテーマへと思考をめぐらし、さらに、そのテーマをBUMP OF CHICKENが表現するとしたならば──という作り方をされているものが多い。というか、それがほとんどだと思う。だからこそ、こうしてアルバムのこの位置に収録されたときに、まさしくBUMP OF CHICKENの楽曲として、それを受け取るリスナーのための曲として、また新たな意味を持つのだ。

③Aurora

この曲はたしかに、自分が曲作りしている時のことを書いていたんです。そしてそれは、自分だけじゃなくって、僕の身近な友達がやってることにも共通している部分がたくさんあるはずだと思う。僕の友達には営業やってる人もいるし、地元でトンカチ打って家を建てている人もいるし、いろんな人がいるんですけど、そういう人たちにも共通する部分があるんじゃないかと。みたいなことを考えて“Aurora”を書いていた記憶がありますね。
(中略)
(創作に向かうエネルギーが)ポジティブかネガティブかはわからないですけどね……ポジティブにスタジオに入っても、すごくネガティブなところと向き合わなきゃいけなかったりもするから。いつ休めるかな、とかずっと考えているし(笑)でも、作品が生まれる度に「やった、できたー!」みたいな気持ちはありますよね。曲は物体じゃないけど、抱きかかえたくなるような喜びが毎回あって、これがあるからやめらんねえって思いますよね。
(『CUT』2019年7月号)


この楽曲が配信でリリースされ、MVが公開になったとき、これはまさに藤原が自身へと語りかけるような楽曲ではないかと思った。そして、藤原の思考はそこだけに止まらず、何かの仕事や活動に打ち込む人すべてに共通する、何かを生み出す、つくり上げる、まとめあげるという作業に伴う喜びと葛藤にまで及んだのだ。BUMP OF CHICKENが表現するのは、いつだって彼ら自身のことでありながら、誰もが思いを重ねることのできる普遍の感情だ。そのシンプルにして、だからこそ得難い楽曲の在り方を、この“Aurora”は見事に体現している。この楽曲ができたからこそ『aurora arc』は有機的で新しい物語を描くアルバムになったのだと思う。


④記念撮影

僕としても考えた自覚はあって、それは「写真」って言わないようにしようというところですね。写真のことを歌ってはいるんですけど、振り返る時代によって「写真」というものって全然違うじゃないですか。今だと、数年前の旅行の写真を見る時にはスマホのフォルダをスクロールさせていくけど、自分が子どもの頃の写真は紙として存在してる。だから、写真って言いたくないなって。
(『CUT』2019年7月号)

“記念撮影”というのは、撮った写真そのもののことではなく、撮影するという行為について歌っていることで。つくづく、自分はそういうことを表現したい種類のソングライターなんだなと思います。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)


「写真」なら色あせてしまうし、まして「画像」はいつしかその所在を見失ってしまう。それが私たちの日常だ。けれど、撮影したという「行為」は、その証拠がどこにも残されていないとしても、いつまでも記憶として残って、その記憶こそが未来へと続いていく力となるのだと思う。そんな本質的な視点は、だからこそカップヌードルという、それこそ多くの人の「記憶」とともにある商品のCM曲に素晴らしくマッチした。そしてその思考は、『aurora arc』という作品に着地したとき、まさにBUMP OF CHICKENというバンドの在り方と重なるものとして新鮮に響く。


⑤ジャングルジム

最初書いた時に、アコースティックギターの弾き語りのデモテープまで作って、そのあと、“望遠のマーチ”と同じように、ずーっと日の目を見ずに寝かされていて。寝かされた状態のまま、ときどき思い返して、あれどういうアレンジにしようかなと思ってて。でも、俺はわかんなかった。あんまないんですけど、これをバンドでどうやればいいかわかんないっていうのは。したら他のメンバーもスタッフもみんな「わかんない」ってなってて。「弾き語りでいいんじゃねえか?」って言われて、「じゃあわかった」っつって弾き語りで録りました(笑)
(中略)
ドキュメントだから、結局このアルバムって。たとえば“話がしたいよ”とかは、状況的にはひとりの曲だけど、話がしたいと思いを馳せる相手がいるし。そういう意味では、ひとりレベルの部分では、これが一等賞かもしれないですね、このアルバムの中ではね。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)


1人のアーティストが楽曲やフレーズをつくり出す瞬間というのは、音楽に孤独に向き合っている時間だ。時に、そこで生まれてくるプリミティブでピュアな思いは、バンドサウンドに展開することが難しいものだったりもする。“ジャングルジム”は、まさにそんな曲。とりとめのない思いや理由づけなどできない感情は、どこまでいっても誰かと真に共有することはできない。でも《欠けた月の黒いところ》が見ていてくれたと歌うこの曲には、不思議なあたたかさを感じるのである。ちなみに、2017年1〜2月にはデモができあがっていて、そのまま寝かされていた曲だったという。「弾き語り」という生まれたままの姿でリリースされたことで、この楽曲の本質を浮かび上がらせる結果となった。

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