【本人の言葉で紐解く】BUMP OF CHICKEN 藤原基央による新作『aurora arc』全曲解説

⑥リボン

解けないわけではないんですよ。解こうと思えば解けるけど、結ぶことを選んできたバンドなんですよね。これだけ続いてきて――その間に続かなかったバンドもあるし、そのことについてとやかく言うつもりもない。それがいいとか悪いとかもない。でも、自分たちが今もこうして続いていることっていうのは、自分たちにとってやっぱりすごい大きなことなんですよ。でもそれは自分たちだけのことであって、それに対してどう思ってほしいとかもまったくないんです。
(中略)
結んできたということだけで目頭が熱くなってしまうんですよ。それはやっぱり、こういう20周年の終わりというタイミングで曲になってしまうんです、必然的に。世の中には、結べなかったバンドが、たくさんいるわけです。でも、結べなかったバンドがそれを歌にするかどうかは置いておいて、歌になってしまうくらいの質量は持っていたはずで。結んで続いているんだということは、10年後だって20年後だって、きっとずっと思っています。願えば叶うわけではないけど、だからこそ曲になるんだと思う。
(『CUT』2019年7月号)


結んでいくこと、つまり続けていくことを選んできたと歌う楽曲で響く、澄んだギターの音、強く穏やかな歌声、そして確かなリズムで牽引するドラムと足跡を刻むように響くベース。この4人で紡いできた音楽が今日まで続いてきたこと、そしてこれからも続いていくことを力強く感じ取ることのできる美しい楽曲だ。上に引用した藤原のインタビューを読むと、《嵐の中をここまで来たんだ》という歌い出しの一節を聴いただけで、この4人だからこそずっとBUMP OF CHICKENというリボンを結び続けて来られたのだという確たる思いが感じられるようになって、よりその感動は深まる。


⑦シリウス

これはお話をいただいてから書いた曲です。『重神機パンドーラ』っていうアニメのタイトルと、資料の絵を1枚見て、「やりたい!」って思って。内容をわかっていないうちから、「すげえかっけえ! やりてえ! ドキドキする!」みたいな。ドキドキするって、行動原理として一番デカいと思うし、それだけで自分のなかでやりたいと思ったんですけど、監督の河森(正治)さんに会ってお話を聞いて、なおやりたいと思いました。そこでお話しいただいたのは量子力学とかの話だから正直難しかったんですけど(笑)、ハートの部分で、自分たちの活動してきたフィールドと重なるところが大きい気がして。実際その重なってる部分に立って言葉を探したら、スラスラ書けましたね。これと“Spica”(『重神機パンドーラ』エンディング主題歌)はそんな感じです。
(中略)
生きてるとポイントポイントで責任について考えることがあるんですけど、その時にやっている作業ってこういう歌詞になるのかなと思いました。自分にとって必要だったんだと思います。
(『CUT』2019年7月号)


TVアニメ『重神機パンドーラ』のオープニング曲の依頼を受けたときの、藤原の「ドキドキする!」という気持ちが、そのままこの曲のビートに重なるようだ。ある意味、アニメ作品の世界に感じたファーストインプレッションに従って「生きる」ことについて思考を巡らせた結果として生まれた歌であり、藤原のインタビューの言葉によれば、「責任について考える」ことがこの歌詞につながったのだとも言える。上記のインタビューはさらに間を置いて「今僕らがツアーの日程を出したら、みんな仕事のやり繰りとかをしてライブに来ようとしてくれるわけじゃないですか。そういう価値を見出してくれる人がいるということは、自分にとって大きいです。そこは忘れたくないなあと思っています」と続く。《一番好きなものを その手で離さないで》という歌詞に至る思いに触れるような気がした。


⑧アリア

メンバーとも話していたんですけど、曲順を考えたり、マスタリングで音を聴いたりする時に「“アリア”もこのアルバムに入るんだよな。前のアルバムに入っていたような気持ちだよな」って。前のツアー(「BUMP OF CHICKEN TOUR 2017-2018 PATHFINDER」)でもやってるし、その前のツアー(「“BFLY”」)の締めでもやってるから、そう思うんですけど。“アリア”と“アンサー”は、そういう感覚です。
(中略)
2017年の1月、2月あたり――“流れ星の正体”、“リボン”、“記念撮影”、“ジャングルジム”の作業がバーッと続いたあたりから、今のアルバムの作業をしているという感覚が強いんです。特に、2017年の2月に20周年イヤーを“リボン”で締めたっていうのが、自分たちの中ではデカいですね。だからこうやってアルバムになると「ああ、“アリア”とか“アンサー”も入るんだよな」と思うんですけど、そういうものが2曲でも入ってるというのが、なんだか嬉しかったですね。
(『CUT』2019年7月号)


前作アルバム『Butterflies』発売以後、最初にリリースされたのが“アリア”だった。2016年「BFLY」ツアー中に書かれ、日産スタジアムでのファイナルで、いち早く披露された楽曲でもあり、その疾走感あふれるサウンドと勢いには圧倒された。当時藤原は「現在ツアー中なので、各地でお客さんから貰ったたくさんのエネルギーが楽曲や演奏に詰まっていると思います」という公式コメントを寄せていて、今振り返ってみれば、「BFLY」ツアーから20周年のアニバーサリーイヤー、「PATHFINDER」ツアー、そして今作へと続いていく中においての、架け橋のような楽曲であると感じられる。『Butterflies』以降を描くドキュメンタリーとしての『aurora arc』を語る上で、非常に重要な楽曲だと思うし、藤原基央のソングライティングの誠実さに改めて触れる思いだ。


⑨話がしたいよ

これは“シリウス”、“Spica”って書いて、“望遠のマーチ”を仕上げて。“望遠のマーチ”を仕上げるっていうのは、さっきも言った通り、レコーディングをするだけのことだから、楽しいうちに終わる、曲をゼロから作る作業ではなくて。けど、わりと過密スケジュールだったので、すげえ疲れて。“シリウス”、“Spica”書いて“望遠のマーチ”完成させて「疲れたなあ……」っていうのがそのまんま曲になった(笑)
(中略)
やっぱり、疲れたなあっていうのが……その時ギター持って、「疲れたなあ……」っていうのが最初に出た言葉だったら、それが歌になっちゃうんですよ。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)


映画『億男』の主題歌としてエンディングで流れたとき、この“話がしたいよ”によって物語の後味が決定づけられたような、そんな不思議な爽やかさとあたたかさを感じたものだ。その楽曲が実は、藤原の倦怠モードから生まれたものであるというのは、なかなかに興味深い。《今までのなんだかんだとか これからがどうとか/心からどうでもいいんだ そんな事は》と言い放ってしまう、その気分がそのまま穏やかなサウンドとともにアウトプットされ、だからこそ、いつにも増して人間らしさを感じる楽曲となった。そんな肌触りを感じるからこそ、“話がしたいよ”という言葉もとても有機的に響くのだろう。


⑩アンサー

行動原理とか事実とか、そういう言葉がさっきから出てきますけど、自分はほんとにそれだけで曲書いてるなと思います。この曲もやっぱりそうですし。それがいいとか悪いとかいう話ではないんですけどね。
(『CUT』2019年7月号)

“アンサー”とかでも歌っていますけど、自分が感じてきたもの、経験してきたことの結果で町ができてると思ってるんですよ。世界は、その人が感じているものが材料となって作られていると思ってるんですよ。だから、曲もそうあるべきだと思うし。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)


リリースの順番としては、“アリア”から約4ヶ月後に配信リリースされた楽曲だが、“アリア”同様、「BFLY」ツアーの最中に書かれた作品である。インタビューで語られているとおり、「自分が感じてきたもの、経験してきたことの結果」として曲があるのだとすれば、この“アンサー”もツアーで感じた想像以上の熱量が、そのサウンドに、歌詞に反映されているということであり、実際その通りのエモーションを感じさせる楽曲である。BUMP OF CHICKENの楽曲にある「核」というか、音楽に向き合う理由、その「答え」が示されているようにも感じられる。


次のページ『aurora arc』という作品のラストを飾るにふさわしい“流れ星の正体”
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