曲自体は、実は“アリア”よりも前に書いていて。そん時はBPMが今の2分の1だったんすよ。歌うテンポ感は今のまま歌うんですけど、ドラムのビートの解釈が2分の1だったんですね。こういう、音楽のことを言葉で伝えるのって難しいなと思うんですけど。倍というか2分の1というか。アップテンポっていう解釈じゃなくて、ミドルテンポって解釈の感じでしたね。ミドルからスローぐらいの。もっとファンクな曲だったんです。俺の最初に作ったアコギのデモテープは。
(中略)
(メンバーは今のバージョンがいいと)言ってくれました。だからメンバーはたぶん、ファンクバージョンを知らないんですよね(笑)。でも名残はあるんですよ、歌のリズムの取り方とか、あちこちに。ギターのストロークにもちょっと残ってたりするし。でも、あのファンクバージョンもすげえいいから。はははははは!(CDとしては)いや、出ないだろうなあ……。いや、でもそれでいいんすよ。俺もそう思ったから、これでGOだってなったわけだし。だから、歴史で言ったら、実は“望遠のマーチ”が一番古いってことになるのかな。
(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号)
配信シングルとしてのリリース自体は2018年7月なので、今作の中では新しめの楽曲と思いがちだが、実は“アリア”や“アンサー”よりも前に書かれていた。インタビューで語っているとおり、元の曲はまるで違った趣だったこの曲が、最適なバンドアレンジを模索しながら「今」のBUMP OF CHICKENの勢いを表すような楽曲に仕上がっていったという、その移り変わりとか、時間の経過、そしてその取り組み自体がバンドの「ドキュメンタリー」だとも思う。それが『aurora arc』というアルバムの成り立ちとも合致するから不思議なものだ。《いこうよ》と軽快なテンポ感で響くサビのメロディの抜けの良さは、このアレンジの試行錯誤の賜物だろう。
⑫Spica
どこかに出発した意識とか、ここまで来たなっていう意識って、出発地点がある人が持つ意識だと思うんですよ。それがぼんやりしていたり、はっきりしていたりはいろいろなんだけど、きっとそこが帰る場所だったんじゃないかと思う。その場所がなくなっちゃった人もいるかもしれないし、まだある人もいると思うし、そこじゃない場所から来たんだけど「ああ、ここだったんだ」と思う人もいるだろうし、未だ探している人もいると思うんですけど……そういうことが歌になっていて。あとは、それを大事に思うってどういうことなのかなって考えた場合に、対象を大事にするっていうことだけでは終わらない、きっと自分に深く根っこが生やされているものなんだろうなっていうところから《その繋ぎ目が僕の世界の真ん中に》になったんだと思います。これは、自分にとっていろんなものの原点みたいな、“ガラスのブルース”を書いた時に近いような、そういうものですね。まあ、どの曲もそういうふうに言えますけど、特にその色が濃いと思います。
(『CUT』2019年7月号)
「PATHFINDER」ツアーのラスト3本の公演、そのアンコールに、藤原ができたばかりのこの曲をひとり弾き語りで披露してみせたことを思い出す。TVアニメ『重神機パンドーラ』のエンディング曲として、“シリウス”と同時期に書かれたものであり、“Spica”は、よりバンドの原点や出発点を思わせる歌詞が印象的だ。大切な人や夢との出会い、その始まりの記憶は、それがどんな漠然としたものであろうとも、その瞬間に感じた予感は永遠だ。だからこそ《どこからだって 帰ってこられる》し、《いってきます》と、何度でもそこから旅立つことができる。BUMP OF CHICKENの原点のことでもあるし、この歌を聴くリスナーひとり一人が、それぞれの「始まり」を重ね合わせることもできる。「生きる」ことの普遍の意味を解くような楽曲だと思う。
⑬新世界
「《アイラブユー》って言ったね」ってすげえ言われたんですよ。すっげえ言われたんです!「バンプが《アイラブユー》ってびっくりしました」ってラジオにもお便りが来たし、友達にも、メンバーにも言われて。でも僕としては至極まっとうなクリエイトだったというか、この言葉は自然に出てきたし、《アイラブユー》だけど《だぜ》なんだけどなって(笑)しかも《だぜ》のあとに、もう一回ていねいに《だ》って言っているんだけどなって。俺は俺の歌詞を書いたと思ってるんですけど、とうとう書いた!みたいな……世にたくさん出ている《アイラブユー》を書いたね、みたいに言われるんですけど、全然そういうものだとは思ってなくて。特別だと思ってるわけでもないですけど、今まで書いてきた曲と同じ流れで書いているだけで。すげえ言われるのもわかるんだけど、説明できないんですよね。いつも通りなんだけどな、って感じです(笑)
(『CUT』2019年7月号)
ロッテの創業70周年を記念したスペシャルアニメーションに提供したこの楽曲は、世代を超えて受け継がれてきた「生活」や「思い」を伝えるかのような映像世界に見事にハマっていた。《ベイビーアイラブユーだぜ》という歌詞が先行して話題となったけれど、ここで歌われる「アイラブユー」は、日常の中で気づく様々な「愛しい」という感情のことであるのだろう。どんな時代を生きてきた人にも共通して感じられる、そしてこれからも変わらない「ラブ」なのだ。決して壮大な「愛」のことではなく、それは日常のふとした瞬間に生まれるささやかな感情であり、タイムレスでこれ以上はないほどに普遍的な感情。小気味の良いビートが、そんなピュアな感情そのもののように響いて胸をときめかせ、聴いていて思わず笑顔になる。
⑭流れ星の正体
これは『B-PASS』での連載が終わる時にできた曲で。その連載は、読者の方からのお便りありきのものだったんです。ラジオと同じく紹介させていただくのはひと握りなんですけど、いただいたお便りは全部読んでいて、そのお便りによってコーナーが支えられていたのはもちろん、俺自身もそれを読んで、いっぱいいろんなことを感じていたんですよね。だから、そういうみなさんからの声が自分にとってどういう意味を持っているか、というのをすごく考えていたんでしょうね。そしてそれありきで、僕の歌がどう機能してほしいかっていうことを、次に書こうと思ったんでしょうね。それで1番は動機の部分で、2番は僕がしたいことになっていったのかな。
(『CUT』2019年7月号)
必ずしもアルバム用にと書かれた楽曲ではないこの“流れ星の正体”が、これほどまでに『aurora arc』という作品のラストを飾るにふさわしい楽曲になるとは。しかし振り返ってみれば、雑誌連載のお便りで触れた多くのリスナーの思いや、ツアーで受け取った熱量など、今回のアルバムはそうしたリスナーとのコミュニケーション(行為)が新たな音楽を生み、それがまたリスナーへと届いていくという、その幸福な循環そのものを描いている作品だとも受け取れる。その思いをストレートに歌詞に綴ったのが“流れ星の正体”であり、エンディングは《飛んでいけ 君の空まで 生まれた全ての力で輝け》という歌声が耳にすうっと入りこみ、そのまま余韻を残すように終わる。リスナーがこのアルバムを聴いて何かを思うという「行為」こそが音楽の本質であると、この楽曲は、そして『aurora arc』は伝えているみたいだ。
上記の記事で引用している発言は現在発売中の『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号、『CUT』2019年7月号から抜粋しました。
『ROCKIN’ON JAPAN』2019年8月号
『CUT』2019年7月号